天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

ハート・オブ・グリーン

リアクション公開中!

ハート・オブ・グリーン

リアクション



SCENE 07

 今回、ほとんどのメンバーが李梅琳の突入方向と同じ、つまり南側から作戦に投じたのだが、逆に北側から調査を開始した一隊もあった。四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)赤羽 美央(あかばね・みお)のチーム、名づけて『トレハンガールズ』である。飛空艇に乗り込み空中からの調査を行うも、どうしても遺跡を発見できない。
「大ババ様の記憶はあやふやすぎてヒントにもならないし、空から見ても緑が茂ってるだけだし……まあ、壮観ではあるけどね」
 眼下の光景に、唯乃は感慨を口にする。
「こんな植物うじゃうじゃジャングルが、どんどん成長してるってのは確かに危険だと思うわ。ミネ?」
 唯乃は自身の肩の上、霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)に声をかけるも、
「…………すぅ……」
 返ってくるのは寝息ばかり、やれやれ、と指でつついて起こす。
「なに? ボクは眠いんだけど……」
「とっくに現地よ。いつまで寝てるの?」
「だって眠……ふぁ、主殿が望む物があるといいね……ふあ〜」
「丸っきり聞いてないじゃない。もう」
 といっても唯乃は怒る気はない。ひとたび有事になればシンベルミネが、頼れる相棒となるのを知っているからだ。今しばらくはこうして英気を養っていてもらうとしよう。操縦桿を握る美央に声をかけた。
「美央ちゃん、このままじゃらちがあかないし、降りてみない? 植物に襲われる可能性はあるけど……」
「はい。万が一の事態でも植物に追いつかれないように」
 ぐっ、と唯乃は操縦桿を倒した。
最大船速で、いきます!
「最大? わっ!?」
 まるでジェットコースター、小型飛空艇『アルバトロス』は猛速度、急角度の降下を開始した!
「ふむ、これが世に言う『足下から鳥が立つ』という状態でございますな」
 平然とそんなことを言うのは執事服を着た骸骨、すなわち魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)である。骸骨だから表情はないが、なんとなくすまし顔に見える。
「唯乃ちゃん、大丈夫ですか!? なんなら速度を落としますけど」
 操縦席から振り返った美央に抱きつくようにして、唯乃は声を上げた。
「そんなことはいいから美央ちゃん! 前!」
「えっ!?」
 美央は操縦桿を大きく左に切った。森林から突如、背の高い木が尖塔の如く伸び上がったのだ。
 だが危機はそれに留まらない。轟然、たちまち嵐のように、植物が対空砲火よろしく種子や葉、あるいは蔦、飛ばして伸ばして襲ってくるのである。
「主殿!」
 万一を考え魔鎧形態に転じたシンベルミネが唯乃の身を包み、
「美央、操縦を頼みますよ。唯乃様、ご心配なく。私の氷術で凍らせてご覧に入れましょう」
 サイレントスノーは船体から身を乗り出し、襲ってくる植物に氷術を見舞う。
 高度を下げきったアルバトロスは速度を落とさず、閃光のように森の上を奔った。右、左、右、左、襲ってくる植物を蛇行で煙に巻く。
「唯乃ちゃん、しっかりつかまっててくださいね。絶対ケガはさせませんから!」
「頼りにしてるからね、美央ちゃん!」
 操縦席の背もたれをつかみ、唯乃は歯を食いしばる。加速は増し、強烈なGが全身にかかってくる。ツインテールにした髪がばたばたと躍った。
 周囲を凍らせ曲芸のように、突き進むアルバトロスの快進撃だが唐突に止まった。
 眼前、網のごとく蔦植物が、広範囲に拡がり船体を受け止めたのである。
 急停止がもたらす反動で、船内はすさまじく揺れた。
「唯乃ちゃん!」
「大丈夫! 手を放さないで!」
 反射的に唯乃は美央の身を抱きしめていた。二人、折り重なるようにして船体側面に叩きつけられる。そればかりか窓が割れて、外に放り出されてしまった。
 されど無敵のトレハンガールズ、この程度では慌てたりしない。
「備えあれば憂いなし、と申します!」
 サイレントスノーは操縦桿に飛びついて飛空艇を安定させつつ、宙を舞う二人に女王の楯を発動し、
「万が一のときはボクを真下にして落下するんだ、衝撃は吸収する!」
 魔鎧形態のシンベルミネに眠気はない。力強く唯乃に告げ、
「頼りにしてるからね、ミネ! でも、悪あがきさせてもらうわよ!」
 美央を抱いたまま唯乃は、クッションにすべく柔らかな大樹の枝目指して体を捻った。そして美央、
「唯乃ちゃんは、何があっても絶対私が護ります!」
 叫ぶや腕を伸ばし、その枝を左手だけで掴んだのである!
 鮮やかな連携だった。ぶらりと枝に下がった状態から地面めがけ飛び降りて、二人はかすり傷ひとつ負うことなく着地したのである。間もなく、飛空艇も滑るようにして二人の前に降り立った。
「不時着状態ですが、被害は最低限に抑えさせていただきました」
 サイレントスノーが操縦席から手を振る。
「ま、ケガの功名と言ったらいいのかな?」
 唯乃が振り返り指さしたその場所には、植物に包まれた石造りの遺跡がそびえ立ち、その口を開けていた。
「入ってみましょう。この遺跡が『緑の心臓』であればいいのですが……」
 美央は告げて、入口にかかっていた枯れ草を払いのけるのだった。
(「そういえばミネもフィアも遺跡で会ったのよねぇ……今回はどんな出会いがあるかしら? 楽しみだわ」)
 まぁ危険や敵とかは勘弁して欲しいけどね、と唯乃は一人苦笑する。

 かくて探索行が始まった。果たしてこの遺跡の全貌とは……?