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リアクション
1.危惧
「あのパンダ像は危険なものです」
葦原明倫館の校長室で、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)に言い放った。
ハイナが怪訝な顔をしたまま、唯斗と目を合わせる。先日の無人島に行く時も、唯斗は彼女に破壊許可を求めていた。
ハイナの心境はその時と変わらない。
「前に言った通りでありんす。パンダ像を壊してはならぬ」
既に魔除けの編み笠は配られ、多くの学生が「パンダ像の村」へと向かっている。彼らは明倫館へパンダ像を持ち帰ろうとしている事だろう。
危険かどうかは、実際に葦原まで運ばれた時に判断すればいい。言外にそう示しているようだ。
「本当に有益なものだったら、像があった町が滅ぶわけがありません」
「先日の調査では巨大な生物のものと思しき足跡があったそうじゃ。それに『町から出たくなくなっている』ところを魔獣の類に襲われたとすれば、何ら不思議なものはありんせん」
パンダ像を守るため襲撃者と戦い、敗れ、全滅した。それならば辻褄も合うだろう。
「明倫館には第四階梯に至る侍もいる。モンスターが来ようと、そんなものは問題には
ならないでありんす」
「ですが、客寄せの力が『モンスターをも呼び続けてしまう』のではないのですか?」
逆説。それが事実ならば、客寄せによって集まるのは人だけではないという事になる。現に、客寄せパンダは人以外のものをも集め始めているのだが、明倫館にいる唯斗達には
まだ知る由もない。
「総奉行、これを」
彼がハイナに見せるのは、無人島で撮影した映像だ。
そこには調査に赴いた生徒がパンダに魅了される瞬間が映し出されていた。そして、死してなおパンダ像を渡さんとするアンデッド達の姿も。
「…………」
吟味するように、ハイナがじっと食い入るようにビデオの映像を見つめている。
「この通り、パンダ像の客寄せ……いや、魅了する力は異常だ」
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が声を発した。
少しずつではあるが、ハイナも客寄せパンダへの考えを変え始めているようだ。客寄せパンダの力は、彼女の想像を上回っているらしい。
適度な力ならば、それこそ有益だろう。だが、行き過ぎた力というのはいつの時代も、自らの首を絞める事になる。
「条件つきで破壊を認めるでありんす」
「条件、とは?」
ハイナが提示した条件。
それは、唯斗が村に到着した時点で「葦原明倫館の生徒がパンダを手にしてなければ」破壊してもいいというものだった。
明倫館の生徒が先に入手しているのであれば、同じ学校の生徒同士で争う必要はないからだ。言ってしまえばパンダが手に入れられない時の最終手段である。
とはいえ、条件を踏まえれば、仮にパンダ像が町の一角に安置されたままであれば、壊しても構わないという事になる。
「分かりました」
納得し、唯斗はエクス、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)とともに客寄せパンダ村へと急いだ。
なんとしてでもあれは壊さなければならない。そのためには、出遅れた分を取り戻してパンダへと接近する必要があるのだ。
もっとも、パンダ像の力を危惧していたのは唯斗達ばかりではない。彼らと入れ違いでハイナと面会したユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)と秦野 菫(はだの・すみれ)も、破壊許可を出してもらうのが目的だった。
先日はパンダ像を持ち帰るために島へと向かっていた彼女達であったが、今の状況から「壊した方がいい」と判断したのだ。
もっとも、ユーナに至ってはアンデッドの姿と島の惨状から、像の危険性そのものは認識していたようだが。
菫も、島から戻ってからパンダ像に魅了された者の姿を思い返し考えを変えた、といったところだろう。
目の前で突然人格が変わったかのように「我を愛せよ」と叫ぶ人間を見てしまったら、パンダ像に疑念を抱くのも無理はない。
ユーナはパートナーであるシンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)と山田 朝右衛門(やまだ・あさえもん)を連れ、菫は梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)、李 広(り・こう)とともに村へと急行する。
だが、彼女達が到着する頃には、客寄せパンダ像を巡る戦いは佳境に差し掛かっている事だろう。
そして、思いもよらぬものを目撃する事になる。
この時点では、まだ誰もパンダ像の真の姿を知らないのだ――
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