天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

あなたの街に、魔法少女。

リアクション公開中!

あなたの街に、魔法少女。

リアクション

「いやいや、本当の所は赤羽陛下を魔法少女に仕立て上げて集客力アップ……もとい、入国希望者の増加を図ろうと目論んでいたわけですが、陛下が「自分は魔法少女ではない」と拒否するものでして……」
「……で、私たちに話を持ちかけてきたわけですか。……雪だるま王国は精霊との繋がりを持っていますね。上手くすれば魔法少女のイメージ普及に一役買ってくださるかもしれませんね。いえ、いっそのこと氷結の精霊長を魔法少女に……」
「ちょ、ちょっとウマヤド、カヤノさんの了解も無しにそれはダメですよー」

 ある日、『豊浦宮』を訪れたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、『雪だるま王国』の新たな財源の確保のためにと設立を目論んでいた『雪だるまカンパニー』の事情を早く軌道に乗せようと、『雪だるま的魔法少女』を提案し、宣伝に貢献してもらえないかと交渉をしてきた。そして、それに対する馬宿の回答が、端的に言えば『カヤノを魔法少女にすればいいじゃない』であった。
「なるほど……しかし、無理矢理ともなれば、それはそれで陛下が反対なさいそうですな。陛下はカヤノさんを気にかけてなさいますから」
「あれ? そういえば美央さんはいないんですか? 雪だるま王国の女王様が、クロセルさんの計画を知らないのは、後々問題になりませんか?」
 豊美ちゃんが、雪だるま王国の女王である赤羽 美央(あかばね・みお)の存在を気にして発言すると、クロセルがそれに答える。
「陛下は陛下で、雪だるま王国の財政再建のために行動を起こしてくれているそうです。まあ、やることは違えど目的の一つは同じ、といったところでしょうか」
「……それほど、雪だるま王国の財政は危機的なのですか?」
「お恥ずかしながら、『火だるま王国』と改名しなければならないほどですね」
「あ、あははー……ウマヤド、どうしましょうー?」
 意見を求められた馬宿は、まずクロセルから受け取った企業概要を一瞥する。


・社名
雪だるまカンパニー

・事業内容
雪だるま王国グッズの製造・販売

・ターゲット
雪だるまを愛する人々

・電話番号
888−8888−8888

・企業理念
我々は、お客様に満足を提供し続けます

・ブランドスローガン
アナタに∞の可能性を

・主力商品
雪だるまクッション
雪だるまストラップ
ミニ雪だるま
スノードーム
雪の結晶

雪だるまアイスクリーム
雪だるまカキ氷



 そして、思案するように腕を組み、やがて口を開く。
「事業内容等については、一通りの検証は為されていると判断していいでしょう。少なくとも、やる前から大損を被るような内容ではありません。『我々は、お客様に満足を提供し続けます』という企業理念を今後も貫くのであれば、当面の間ここ『豊浦宮』の一部を事務所として提供してもよいと考えています。雪だるま王国と協力関係を築けることは、私たちにとっても利点があります故。……無論、こちらの勝手な申し分でもありますので、そちらの女王陛下にも委細お伝えした後、持ち帰って検討していただいても結構です。……豊美ちゃん、お願いできますか」
「ええと、私が美央さんを探して、今の話を伝えればいいのですねー」
 頷いた馬宿に、任せてください、と胸を張って豊美ちゃんが飛び出していく――。


 ――一方その頃、当の美央はというと。

「スターライトブリンガー!」

 掛け声と共に、電撃迸る槍の先端から、圧縮された光が一直線に、空を裂くように放たれる。光が晴れ、未だパチパチと音を立てる槍を一振りし、ふぅ、と息を吐いて、美央が乗っていたワイルドペガサスの『アンブラ』に地上へ降りるように命じる。
「おー、なんかよくわからんけど凄いなー」
「……『魔槍グループ』? どっかで聞いたことあるような名前だなー」
 そんなことを呟きながら、これを大道芸人の見世物と思ったらしい幾人かが、置いてあった龍の顔をしたマスクにおひねりを投げ入れていく。
「まあ、最初はこんなものでしょう。ですが、ローマは一日にして成らず。ここからジワリジワリと魔法少女の世界に進出です」
 魔法少女ならぬ、『魔槍少女』として、槍の普及に貢献するべく一歩を踏み出した美央を、たまたま通りかかって一部始終を目撃していたジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が指差し、お腹を抱えて笑う。
「プッ、ハハハハハ! 美央が魔槍少女、これは傑作デース! アレはどう見ても貧相少女の間違いデショウ、間違いなく貧相少女デス、ハハハハハ!」
 わざわざ貧相少女と二度言って、ジョセフが地面を転がりかねない勢いで笑う。大分前に同じようなことをイルミンスールの校長に言われた、その時と比べれば美央も色々と成長しているはずだが、ジョセフにとっては未だにその印象が強いということなのだろう。
「オオウ、カメラを持って来ていないのが残念デース! ハハハ……でも、これはいいものが見れましたネ! ハハハ――」
「……スターライトブリンガー!!」
 しかし、あまりにも大きな声で笑い過ぎたため、ついに美央に気づかれてしまったことに気付かなかったジョセフは、美央の槍の一撃をもろに食らって地面を転がり、遠くの壁にぶつかってようやく止まり、ピクピク、と身体を震わせていた。まあ、ネクロマンサーだし、もし死んだとしても大丈夫だろう、多分。
「おー、すごいすごーい。今の技、すごかったねー。
 ……って、あれ美央ちゃんだ。やっほー久しぶり、元気だったー?」
 はぁ、と息を吐いた美央に拍手が向けられ、美央がその方角を向くと、そこには一本の槍を持った少女、エミカ・サウスウィンド(えみか・さうすうぃんど)が立っていた。
「エミカさん、お久しぶりです。このような場所で会うとは思いませんでした」
 知った顔に、美央が微笑を浮かべる。そしてしばらく、他愛も無い話が交わされる。
「そっかー、必殺技コンテストかー。そうそう、美央ちゃんは知らないと思うけど、あれからあたしも結構ぱわーあっぷしたんだよー。いえい☆」
 言ってエミカが、自らの持つ槍『紫電槍・参式』を振り回し、最後にキッ、と構えを取る。元々相応の槍の使い手ではあったが、しばらく見ない間に相当腕を上げたらしいことが美央にも分かった。
「あっ、美央さん発見ですー。美央さーん、お話がありますー……あっ、すみません、お客さんがいましたねー」
 そこに、魔法少女の杖『ヒノ』に乗って豊美ちゃんがやって来る。
「あっ、魔法少女だ! すごーい、どこからどう見ても魔法少女だー!」
「へ? は、はい、そうですけど――わぷ?」
 突然話しかけられキョトンとする豊美ちゃんを、エミカが飛びつかんばかりの勢いで抱きつき、ぺたぺた、と触る。
「わ、わ、なんですかー?」
「かわいいー! ……あっ、これもしかして槍? もしかして槍使い?」
「ち、違いますよー。私、運動は苦手なんですー」
 ブンブンと首を振って否定する豊美ちゃん、しかしそこにポンと手を叩いた美央が横槍を入れる。
「……なるほど、そういう見方も出来ますね。というわけで豊美さん、『魔槍少女』いかがですか? 豊美さんでしたら立派な必殺技をお持ちですから、今すぐにでもなれます」
「えーっ、キミも必殺技持ちなのー!? うぅ、あたしだけ仲間外れ……」
「美央さん、魔槍少女ってなんですかー? あ、あの、そんなに落ち込まないでくださいー」
 豊美ちゃんにハンカチを差し出され、エミカは涙を拭って鼻をちーん、とやって、えへへ、と笑って立ち上がる。
「よーし! あたしも立派な必殺技を身につけるぞー! それじゃ二人とも、またねー!」
 何やら決意したらしいエミカが、ぶんぶんと手を振って駆け去って行く。
「な、なんだったんでしょう?」
「彼女はエミカさんと言って、私が前に一度、共闘したこともある方です。相当な槍の使い手ですよ。
 ……ところで豊美さん、私に何かご用でしたか?」
「あっ、そうですー。えっとですね……」

 その後、豊美ちゃんから委細を説明された美央は、クロセルと共に、雪だるま王国財政再建のために自ら興した会社を『豊浦宮』に間借りするかどうかを検討するのであった――。


「未散くんを魔法少女にしていただきたい!」
「…………は?」

 ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)の突然の言葉に、若松 未散(わかまつ・みちる)が全く予想外と言いたげな表情を浮かべる。
(またいつものかと思ったけど、魔法少女? なんだよそれ、アイドルの別モンかぁ?)
 心にはぁ、と溜息を吐いて、未散がハルを見つめる。何か言ってやりたい、そんな気に駆られはしたが、『豊浦宮』の代表であるという豊美ちゃんを前に、素の自分を出すのも恥ずかしかったので、そのままハルの行動を見守ることに未散は決めた。
「未散は魔法は使えませんが、落語の才があります! 今は子供な体型ですが、歳相応の身体に変身することだって出来ます!」
「…………」
 発言するハルの背後で、未散がプルプル、と拳を震わせる。これがハルと二人きりの場だったなら、間違いなく二、三発殴っていただろう。
「落語は、人々を笑顔にする言霊でもあります。これは魔法少女が魔法を使うのと同じことではありませんか!?」
 しかし、次のハルの言葉に、未散は握っていた拳を引っ込める。魔法少女と同じかどうかはさておき、自分が嗜む落語が人々を笑顔にするものだと主張してくれることは、悪い気分ではなかったから。
「なるほどー、確かに言われてみればそうかもしれませんねー」
「ちょ、ちょっと待った!」
 ただしそれも、豊美ちゃんがうんうん、と頷いたのを見て一変させる。このまま目の前の代表が納得してしまえば、自分は勝手に魔法少女として認定されてしまいかねない。それだけは阻止したい思いで、ハルにツッコミを入れる。
「私の記憶じゃ、魔法少女にはマスコットが必要って話じゃん? ほら、マスコットなんていないし、私には無理だね」
「……いいえ、その心配はございません。なぜなら、わたくしがマスコットを務めさせていただくからです!」
「…………は??」
 またも予想外の発言がハルから飛び出し、未散はもう呆然とする他ない。
「えっと、マスコットは特に必要ないですよー。『INQB』の方々が言っているだけのことですー」
 豊美ちゃんの発言により、一つの逃げ口は塞がれてしまった。
「いや、そうだとしても、もう『少女』って歳じゃねーし」
「歳は関係ありません。私だってせんよんひゃく……うぅ、言った私の心が痛いですー……」
 話の流れでついつい自分の歳を口にしてしまった豊美ちゃんが、胸を押さえてしゃがみ込む。もうすっかり『飛鳥豊美』というキャラで立っている感の強い豊美ちゃんだが、彼女は推古天皇の英霊である。しかも当時から魔法少女だ。
「う……」
 二つ目の逃げ口上を潰された未散が、言葉に詰まる。もうこれ以上、魔法少女に相応しくない理由を思い付くことが出来なかった。落語の時はすらすらと出てくる言葉が、こんな時は出てこないことに、一抹の歯がゆさを覚える。
「どうか未散くんも、豊浦宮の魔法少女の末尾に加えていただけませんかねぇ……」
 ハルの言葉が豊美ちゃんに向けられ、そして未散も固唾を飲んで豊美ちゃんの発言を待つ。
「未散さんが、人々を笑顔にするために落語をするのは、魔法少女としても相応しい行動だと思いますし、私もいいと思いますよー」
「では――」
「……でも、未散さんがその気がないのに、私から「今日から未散さんは魔法少女ですー」ということは出来ないんですよー。魔法少女は、なりたいと思う本人の気持ちが大事ですのでー」
「そ、そんな……では、今までのわたくしの努力はいったい……」
 これまでの頑張りが水泡に帰した感覚に、ハルがへなへな、と地面に崩れ落ちる。
「わわ、お、落ち込まないでくださいですー。未散さんが素晴らしい志を持っている方だというのは十分伝わりましたー」
「いや、絶対そんなタマじゃねーし……」
 豊美ちゃんにツッコミを入れながら、不思議と悪い気はしない未散であった――。