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なし

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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

リアクション

「な、何するんスかーーー!」
「あなた達の汚れ切った精神は、僕がまとめて御洗濯してあげます!」
 悲鳴を上げるモッキーに朝斗が答えたところで、ようやく追いついたネージュ一行が眼前に立ちはだかり、朝斗を止めようとする。
「あなたはその杖に操られているの! お願い、元の優しい心を取り戻して!」
「な、何を言って――ぐ、ああ、頭が……」
 突如朝斗が苦しみ出し、比例して杖の輝きも強くなる。
「あさ……元あさにゃんを傷つける方は、許しませんよ?」
 そこに、朝斗を撮影……いや、事実だからいいとしよう、追いかけてきていたルシェンが、朝斗が傷つけられそうになっていると勘違いして、ネージュ一行に牙を剥く。杖を振りかざし、強力な魔法を撃つ……と思いきや、まるで『物理で殴れば全てカタがつく』とでも言わんばかりの打撃の嵐に、ネージュたちは防戦一方だった。
「あれれ、もしかしたらどうにもならない感じかなー?」
「や、やっぱりボクにはムリだったんだよー!」
 舞衣奈とディアーヌが、そしてネージュが徐々にルシェンに追い詰められていく。
「逃しませんよ? あさにゃんを傷つけた報い、その身で受けなさい!」
 もうダメかも、そう思った時、横合いから矢の一撃がルシェンを貫かんと迫る。
「くっ!」
 身を捩らせ、辛うじてその一撃を避けるが、二発目三発目と飛んでくる矢を回避するのに精一杯で、ネージュたちをそれ以上攻撃することは出来ない。
「い、一体誰が?」
 危機を脱したネージュが地上を見下ろすと、そこに別の魔法少女らしき者の姿を認める――。

「ねえ、これっていつもやってることと同じじゃない?」
『しょうがないよ、やっぱり戦いになったら主殿がメインじゃないと、ボクには荷が重いよ』
 唯乃の呟きに、唯乃に装着されたミネが答える。四人の魔法少女を追って来てみれば、魔法少女が何者かに襲われているとあっては、同業者として助けないわけにはいかない。
「なあ、こんな時、魔法少女は何をするべきなんだ? 悪と戦うことか? ご近所を助けて回ることか? それとも大きなお友達を喜ばせる――」
「んなこと言っている場合じゃないって。ほら、仲間がピンチなんだから、助けてあげたら?」
 危うく危険なことを口走りそうになったシリウスにツッコミを入れて、サビクが行って来たらと背中を押す言葉をかける。
「わ、わたしはどうしよう……」
 オロオロとする鬱姫に、矢を番えた唯乃が言葉をかける。
「まぁ、魔法少女だから何かをしなくちゃいけない、ってのはないのかもしれないわね。何もしない魔法少女ってのもそれはそれでアリかもね。私はまぁ、人助け、ってとこね。……ああ違う違う、ミネが人助けするって言うから、私はその手伝いよ」
「人助け、か。確かに、困ってる人がいて、その人を助けられる力があるってんなら、やるべきだよな。
 それが魔法少女のすることなのかどうかはさて置いても、今は戦った方がいい気がするぜ!」
 自分のやることに納得をつけ、シリウスが浮き上がり、魔法少女を守るために戦いに行く。
「えっと……じゃあ、わたしも」
 皆が人助けをしようとしているなら、という理由ながら、鬱姫も杖を構え、シリウスを援護するように射撃を行う。
「コイツの相手はオレが引き受けた! アンタたちはアイツを止めるんだ!」
 そう言いながら、シリウスがルシェンに矢を射掛け、ネージュたちから遠ざけるようにする。唯乃と鬱姫の援護射撃もあって思うように動けないルシェンは、シリウスの思惑通り、徐々に遠ざけられていく。
「でも、どうやって止めればいいのかなー?」
 舞衣奈が呟き、ディアーヌも同じ疑問を抱きながら、ネージュに答えを求めるように視線を向ける。二人の視線を受けて、ネージュの出した答えは。
「……あたしは、癒しを届けられるようになりたい。戦う力がなくたって、誰かを癒してあげられることは、きっと出来るはずだよ」
 そう言って、ネージュが手と手を組んで、祈りを捧げるように瞳を閉じる。
「祈ること……そ、それならボクにも……出来る、かな?」
 次いでディアーヌがネージュを真似て同じようにし、二人を見た舞衣奈がそれに続く。

(お願い、元に戻って……!)

「ぐ……うああああぁ!」
 朝斗のあげる悲鳴の声が大きくなり、杖の輝きもどんどん大きくなっていく。祈り続けるネージュたちも、額に汗を滲ませ、時折辛そうな表情を浮かべながら、それでも祈ることを止めない。

 そして、一際強く輝いた杖が、フッ、とその光を消したかと思うと、パキ、と乾いた音を立ててひび割れ、そして弾け、欠片が宙を舞い、やがて地面に落ちていく。
「――――」
 力が抜けるように落ちようとする朝斗を、ネージュと舞衣奈、ディアーヌが支えながらゆっくりと下ろし、ちょうど芝生になっていた地上に待機する魔法少女たちに引き渡して、疲労からか三人がもつれるようにして倒れ込む。
「つ、疲れたぁ……」
「あははー、でも、なんとかなってよかったねー」
「……うん、そうだね」
 祈りが通じて、癒しを届けられたことに、ネージュが例えようのない充足感を胸に抱く。
「う、うぅん……あ、あれ? 僕はどうしてこんなところに――って、うわ!? 何この格好!?」
「あさにゃんは、私が渡した杖の効果で、魔法少女になったの。だけど力を制御できなくて、暴走してしまって……けれどもう大丈夫、諸悪の根源である杖は破壊されたわ」
 傍に寄ったルシェンから事の真相を聞かされ、朝斗はあぁあ、と頭を抱えてひどく落ち込んでしまう。『諸悪の根源』と言ったルシェン自身が諸悪の根源のような気がするが、そこは気にしてはいけない。
「ねえ、朝斗……くん、でいいかな。よかったら、あたしたちと一緒に『豊浦宮』所属の魔法少女にならない?
 今はまだ未熟かもしれないけど、キミならきっと、立派な魔法少女になれるよ」
「えっ……で、でも僕はもう……」
「大丈夫だよ、あたしたちがいれば何とかなるってー」
「ぼ、ボクでもなれるみたいだし、あなたもなれると思いますよ?」
 戸惑いの表情を見せる朝斗に、舞衣奈とディアーヌが言葉を掛ける。
「そうですあさにゃん、こうして魔法少女に助けられたのですから、魔法少女になって恩を返すのが道理というものです」
「ど、どうしてあさにゃんなのかよく分からないけど……うん、僕、皆さんに迷惑かけちゃったみたいだし、僕に出来ることならその魔法少女、頑張るよ」
「うん! これからもよろしくね!」
 朝斗の手にネージュの手が重なり、舞衣奈とディアーヌもそこに加わって、新たな仲間を歓迎し合う――。

「……ねえ、私、すっごい違和感を感じるんだけど、気のせいかしら」
「うーん、ボクも主殿に同感だね。でも、まあ、なんかいい話っぽいし、いいんじゃないかな?」
 腑に落ちないといった表情の唯乃と、その肩に乗ったミネが、結局はまあ、いいかと結論付ける。
「どう? 少しは魔法少女というものが分かった?」
「うーん、まだよく分かんねぇけど……今みたいなことが出来んなら、魔法少女ってのをやってもいいかなって思いはするぜ」
「はい……それは、言えるかも、です」
 サビクの問いかけに、シリウスがそう答え、鬱姫も賛同するように頷く。

 空京全体からすれば小さな、けれども当人にとってはとても大きな事件が、今ここに解決の時を迎えることとなった――。

「……こうして、無事に助け出されたモッキーはその後、アイドルとしての道を歩むのであった――
 うん、完璧だよ。もうPVどころか長編のドキュメンタリーだね」
 自分の声でナレーションを入れたエメが、完成した映像の出来を満足気に評していた。
「……結局、何だったんスか?」
「ああ、ホント、エメのことは適当でいいからね」
 終始首を傾げるモッキーを、もふもふしながらリュミエールが呆れるように呟くのであった――。