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リアクション
●出来ることから、一歩ずつ、だよね。
『豊浦宮』と『INQB』、二つの新興企業が睨み合いを続けている中でも、空京はいつもと変わらぬ時間が流れている。
そこには多くの人々の暮らしがあり、そして、人々の暮らしを守る魔法少女が、今日も活動している。
「もうちょっと、もうちょっと……よし、捕まえた!」
枝の先で動けなくなっている子猫を、樹に登ったミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が怖がらせないようにしながら捕まえ、とん、と地面に降り立つ。
「はい、どうぞ。今度は目、離しちゃダメだからね?」
「わー、ありがとー、おねーちゃん!」
子猫を、心配そうに見つめていた子供に引き渡して、そして笑顔で去っていく子供を見送り、ミルディアがうぅん、と背伸びする。
「いい天気ー。ちょっとお昼寝したくなっちゃうよね」
さっきの子猫も、お昼寝したくて樹に登ったのかな、そんなことを思う。
(そうだよ、魔法少女なんて、自由でいいんだよ。
自由で気ままで、思うままに動いて、それが自然と『いいこと』になって……そういうもんじゃないの? ヘンに考え過ぎなんだよ、みんな)
ミルディアには、『豊浦宮』も『INQB』も、どこか無理をしていいことをしようとしているように見えていた。
もちろん、事情は色々あることは分かっているし、彼らの行動を否定するつもりはなかった。ただ、自分はどこかに所属して……というよりは、難しく考えずに、無理のないように、自分の出来ることをする方がいい、と思っていた。
散歩をするように、道を歩くミルディアの視界に、捨てられた空き缶が留まる。ミルディアはそれを拾い、設置されていたゴミ箱に空き缶を捨てる。
困っている人がいたら、手を貸せる範囲で手を貸す。目についたゴミがあったら、拾ってゴミ箱に捨てる。そんな小さな『いいこと』を、不自然にならないようにこなすことが、実は魔法少女にとって必要なことなんじゃないかな、ミルディアはそう思っていた。
(魔法なんてフツーに使えるもんだし、ね。なんかすっごい魔法とかで敵をやっつけるのが、魔法少女ってワケじゃないでしょ。
……まあ、どうしようもないような状況になったら、あたしだってちゃんと変身するし。でも、そうならないようにするのも、魔法少女のお仕事なんじゃないかな)
そして出来れば、自分のような考えを持つ魔法少女がたくさん生まれて、ちょっとの『いいこと』をするようになってほしいな、とミルディアは思う。
「たくさんいれば、おっきなこともできるよ。出来ることから、一歩ずつ、だよね」
陽光の下、ミルディアがそう言って、通りの向こうへと歩き去って行く。
「ふわあー……っと。今日もいい天気だぜ」
空京に立ち並ぶ高層ビルの一つ、その屋上で日光浴をするように横になって、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)がのんびりとしていた。
「はぁ、やる気が全く感じられないにゃ。そんなんじゃ映像化の話はいつになっても来ないにゃ」
「ただボーッとしてるわけじゃないぜ? ちゃんと周囲の警戒はしてる。事件があれば駆けつける。それで十分だろ。
豊美ちゃんは張り切ってるみたいだけど、私達はフリーの魔法少女だし。気が向いた時だけ頑張ればいいのさ」
「はぁ……大物の器と評価するのか、ものぐさと評価するのか、難しいとこにゃね」
超感覚で伸ばした猫耳をぴくぴくさせつつ、お供のカカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)と平和に雑談を交わしていたミューレリアだが。
「……ん? 何か聞こえるな」
猫耳をぴーんと立て、よっ、と起き上がったミューレリアが、何かが聞こえた方角に耳を向けると。
「あぁ? 俺がこれだけ出してやるっつってんのに、受け取れねぇって言うのかぁ?」
「そんな、これじゃ定価の半分にもなりません、これでは生活が――」
「うるせぇ! こんなチンケな商品に価格がつくだけマシと思いやがれ!」
そんな会話が聞こえてきた。
「どう考えてもマトモなやり取りじゃねぇな。それじゃ、ちょっと働いてきますか」
「そうこなくっちゃにゃ!」
肩の上にカカオが乗ったのを確認して、ミューレリアが屋上から飛ぶ。重力で加速の付いた身体を制御しながら、声の聞こえた地点を目指して進む。
「テメェ! こっちが下手に出りゃ、調子に乗りやがって! 地球人を怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる!」
「ひ、ひいぃっ!!」
激昂した男が剣を抜き、頭を抱える別の男性に斬りかかろうとしたところで、すぐ横を突き抜ける光線と、遅れて生じる通過音に男の動きが止まる。
「だ、誰だ!?」
振り返った先、肩に黒猫を載せ、杖を掲げ、猫耳をぴん、と立てた少女が、自らの名を名乗る。
「街をパトロールするほど暇でも無い。けれど悪を見逃すほど堕落もしてない。
魔砲少女マジカルみゅーみゅー、参上だぜ!」
そう、彼女こそがシャンバラを守護する正義の使徒!
ロイヤルガードにして魔砲少女、マジカルみゅーみゅーにゃ!
「小娘が、気取ってんじゃねぇ! 猫もろとも血祭りにあげてやる!」
標的をミューレリアに変えた男が、剣を抜きミューレリアに斬りかかる。その攻撃をミューレリアは上に横に飛んで避ける。
「大丈夫にゃ?」
「あ、ああ……き、君たちは……」
「言った通り、正義の使徒にゃよ。さ、こっちにゃ」
カカオが、襲われそうになっていた男性を安全な場所まで避難させる。
「ちょこまかとウゼェなチクショウ!」
男の振り回す剣は尽く空を切り、涼し気な顔のミューレリアに対して、男は早くも肩で息をしていた。
「慌てんなって、今相手してやっからさ!」
宣言通り、ミューレリアが『魔砲杖ミルキーウェイ』を構え、踏み込む素振りを見せる。
(周りには建物、狭いとなれば、近距離戦に持ち込んで一撃必殺、だよな。そっちの方が好みだし)
微笑すら浮かべるミューレリアに、ナメられていると思った男性が一喝し、突っ込んでくる。
「出るにゃ……! あれこそが『シャンバラの魔法少女に二の杖無し』と恐れられた超必殺技!」
カカオの言葉に続くように、ミューレリアが爆発的な加速力で飛び出し、振りかぶった男の空いた上半身に杖を叩き込む。
「ミューストラッシュ!!」
「うおぉぉぉ――」
男の驚愕する表情が閃光に消え、そして次に閃光が晴れた時には、男は地面に突っ伏して微かに身体を震わせていた。
「ふぅ……ま、ざっとこんなもんだぜ。シャンバラの平和は私が守る! ……ってか?」
「はぁ……そこでビシッ、と決められないのかにゃ?」
事を済ませたミューレリアの肩に、愚痴をこぼしつつカカオが飛び乗る。
「あ、あの、助かりました、ありがとうございます」
「いいさ、気にすんなって。また何かあったら助けてやっから、頑張れよ」
お礼を言う男性に応えて、ミューレリアは地を蹴り、空へと飛んでいった――。
「あー、いい天気ッすねー。なんか、仕事してんのがバカバカしくなってきますねー」
「あー、分かるわそれー。こんな日はいっそ、パーッとハジけたくなるよなー」
「ヘイヘイそこのネーちゃん、俺たちと一緒に魔法少女しなーい? ……なんてね」
「汚物は焼却処理!」
「ギャー!!」
ベンチで昼の一時を満喫していた、マスコットのような身なりのゆる族たちを、炎の嵐が襲う。
「邪悪なる気配を察知して来てみましたら、あなた達、『INQB』の者ですね!
夢と憧れを汚そうとする悪いゆる族は、私がお掃除しちゃいます!」
「な、なんスかいきなり……ま、まさか『豊浦宮』の魔法少女――」
ぷすぷす、と黒煙をあげる彼が口に出来たのは、そこまで。直後、上空から無数の隕石が降り注ぎ、彼らは衝撃と瓦礫の中に埋もれてしまった。
「皆様の夢と憧れでもある『魔法少女の素晴らしさを伝える為! そして愛する御主人様にお仕えする為!
魔法少女マジカルメイド☆あさにゃん、此処に参上です!」
魔法少女な名乗りをあげ、榊 朝斗(さかき・あさと)が背中の翼を光らせ、空へと飛び上がる。
(ああ、なんてことでしょう。遺跡探検で見つけた杖にあのような力が……)
一瞬遅れて、後を付いてきていたルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が不安そうな表情を浮かべた、と思いきや。
(このチャンス、逃すわけには行かないわ! あの可愛らしい姿を一枚でも多く記録に残さないと!!)
キュピーン、と瞳を輝かせ、なにやらよからぬ企み(彼女にとっては至極真っ当)を胸に、ルシェンがカメラを構えて同じく翼を光らせ、朝斗の後を追った――。
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