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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

リアクション

(魔法少女……最近はホント、色んなのがいるわよね)
 柵に腰掛け、足をぷらぷらとさせながら、街を歩く人々を何とはなしに眺め、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が魔法少女について考える。
(もし私が魔法少女になるとしたら、被るのは絶対嫌よねぇ。……と言っても、完全に新しい魔法少女って難しいと思うわ。
 大体のパターンはやり尽くした感があるわよね。あまつさえ男の魔法少女なんてのもいるくらいだし、個性を出すにはもっと――
 って、何熱くなってるのかしら。あの子の影響かしらね……?)
 今頃は『しゅねゑしゅたぁん』で店番をしているであろうパートナーのことを思いつつ、頭を振って考えを打ち消した唯乃が、そうだ、とポンと手を叩き、肩の上にいた霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)に話しかける。
「ミネ、あなたが魔法少女になったらどうかしら?」
「…………へ?」
 まさか自分の所に話が来ると思っていなかったミネは、ポカーン、と唯乃を見つめる。
「魔法少女の世界では、ちんまいのは使い魔と相場が決まっている。けどそこであえて、ミニマムなミネを魔法少女に据える。
 これよ、これでいきましょうっ」
「ちょ、ちょっと主殿? ボクが魔法少女って、なんのこと?」
 話が見えないミネに、唯乃が事の次第を説明する。
「……ということなの。分かった?」
「うん、話は分かったけど……うーん、ちょっと自信ないかな。いつもボク、主殿と一緒だったし……」
 不安そうな表情を浮かべるミネと、唯乃の視線が重なる。
(……でも、もし、ボクが一人でも戦ったりできるようになれば、戦略とかの幅も広がる、よね)
 これまでは、唯乃に装着されることで唯乃のサポートをするのがミネの役割だった。魔鎧である以上それが基本でありそして大事なことなのだが、ミネの思うように、それ以外のことが出来るなら、新たな可能性ももしかしたら見つかるかもしれない。
「……うん、でも、頑張ってみようかな」
 主である結乃のためという思いを含んで、ミネが魔法少女になることを決心する。
「決まりね。さて、じゃあこれから何をするかだけど……豊美ちゃんは確か、魔法少女の仕事は人助けだとか、平和と安心をお届けだとか言ってたわね。まぁ私もその思想に乗ってもいいわね」
「じゃあ、『豊浦宮』に所属?」
「所属って、なんかアイドルみたいね。まぁ、当面はフリーでいいでしょ。スカウトされたら、考えなくもないけどね」
 柵から降り、歩き出したミネと唯乃が、当面の行動方針について話し合う。
「やっぱり人助けかな? でも、都合よく困っている人なんているのかな?」
「さぁ、それは何とも言えないわね。……他の魔法少女は、どんな仕事してるのかしらね」
「先輩、っていうのかな、その人達に聞いてみるのもいいかもしれないね。……あっ、なんかそれっぽい人達があそこにいるよ」
 ミネが指差した先、魔法少女な杖を持った人とそれっぽい服を着た人が、こちらに向かって歩いて来ていた――。

「流石にこれだけ人がいると、魔法少女を探すってのも一苦労だぜ」
 一息ついて、シリウスが口にする。空京はシャンバラ王国の宮殿がある、いわば首都であり、様々な理由から人が多く集まっている。
「確かに、この中から魔法少女を探すのは、砂の中から金を探すようなものだね」
「……あれ、誰かがこっちに歩いて来ますよ」
 サビクがぽつりと口にしたところで、鬱姫が声を上げ、シリウスがそちらを振り向く。
「あのー、魔法少女の方、ですよね? 違ってたらごめんなさい、ボクも魔法少女なんですけど、皆さんにどんな活動をしてるのか、聞きたいと思って……」
 そう告げたのは、歩いて来た少女……の方ではなく、少女の肩に乗る少女(というべきなのか)であった。
「おや、珍しい。金の方から歩いて来たよ」
「あ、は、はい。……でもごめんなさい、わたしたちも『魔法少女ってなんだろう』って考えていて……」
「だから、プロの魔法少女に『魔法少女ってなんだ!?』って聞こうぜってことで、一緒に行動してんだ。
 よっしゃ、こうなったら縁続きだ、オレたちと一緒に行動しないか?」
 シリウスの誘いに、ミネがうーん、と考え込む仕草を見せる。唯乃はあくまでサポートということなので、口出しはしなかった。
「……じゃあ、一緒に行ってみようかな」
「うし、決まりだな。じゃあ次――」
「あっ、あそこ!」
 シリウスが意気揚々と歩き出そうとしたところで、鬱姫が空を指差して声を上げる。振り向いた一行の視界を、一人の魔法少女と、三人の魔法少女が相次いで飛んでいく。
「な、何かあったんでしょうか?」
「分からねぇ、けど、これは大きな手がかりだ。まとめて質問するチャンスだぜ。
 オレたちも後を追いかけよう!」
 シリウスの呼びかけに皆が頷き、魔法少女が飛んで行った先を目指す――。


「うぅ、お腹が空いたッス……考えたら今朝から、何も食べてなかったッス……」
 どこかフラフラとした足取りで、『INQB』の社員、斉藤 紋吉、マスコット名『モッキー』が契約を取るために営業活動に従事していた。
「あぁ……何か、視界がぼやけてきたッス」
 彼はもう、三日ほど外に出ずっぱりだったため、今の彼には、春の日差しですら突き刺さるように痛い。
 そして彼は、とんでも無い間違いを起こしてしまう。
「ねえ、ボクと契約して、魔法少女になってよ」
「魔法少女? すみません、メイジの経験はありますが、メイド修行をかなりしないと、すぐには魔法少女は無理ですね……」
「ちょっと、何言ってるんだよ。デカイ・ゴツイ・三十路前の男の魔法少女なんて、誰も見たくないから」
 声をかけられたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)の応対に、リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)がツッコミで返す。
 そう、モッキーはなんと、男性に契約を持ちかけてしまったのである。別に男は魔法少女になれないなんて決まりはないが、積極的に男に声を掛けることもない。
「ああ、リュミエール。貴方はなれるんじゃないですか?」
「って、こっちに振らないで。僕もなる気ないよ、冗談じゃない」
「それは残念です。……というわけですので、申し訳ありませんが――」
 くる、と振り返ったエメの視線が、モッキーに止まった直後。
「か、可愛い……」
「……え?」
 呆然とするリュミエールの前で、エメがモッキーを抱き上げてしまう。その表情はとても喜んでいるように見えた。
「貴方のお名前は? 機晶姫でしょうか――ハッ! こ、これはまさか……ゆる族……」
 もふもふとした手触りを楽しんでいたエメが、背中のファスナーに気付いて表情を険しくする。
「うわ、背中にファスナーが付いているというのは、本当だったんですね……」
 ごくり、とエメの喉が鳴り、恐る恐る手がファスナーに触れようとしたその時。
「エメ、彼、ちょっと様子がおかしいよ。さっきから動かないし」
 リュミエールの指摘で、我に返ったエメがモッキーを正面から覗き込むと。
「……お腹……空いたッス……」
 か細い声が聞こえ、二人は拍子抜けしたような素振りを見せる。

「いやぁ、ホント助かったッス。すみません、今日中に契約取らないと、明日には墓石が立つぞって脅されてて、それで……」
 その後、エメとリュミエールは近くの飲食店に入り、食事をしながら、モッキーから事情を説明される。
「魔法少女を連れて行かないと墓石が立つって、物騒な話だね。エメ、そういうことってあるの?」
「まぁ、あるかもしれませんねぇ。……しかし、これだけ可愛らしいのでしたら、癒し系アイドルも夢じゃないですね。
 ちょっとPV撮ってみません? あと得意芸とかないですか? 歌とか踊りとか、ああ、笑顔が素敵でもいいですよ」
「ちょ、え、何の話ッスか?」
「……ああ、エメのことは気にしなくていいからね」(もう、また始まった。エメは面白そうだと思ったらなんでもありなんだから……)
 呆れるリュミエールの隣で、既にエメは不定期テレビ番組【プロジェクトN】のディレクターとしての面を覗かせ、モッキーをアイドルデビューさせようという思いでいっぱいのようであった。

「見つけましたよ! 悪の根源、逃しはしません!」

「え? わーーー!!」
 そこに突如、一人の魔法少女が飛び込んだかと思うと、モッキーの首根っこを掴んで連れ去ってしまう。
「え、ちょ、今の何? エメ、今のは一体――」
「な、何と!? 攫われ系アイドルとは、新境地ですね……。
 これは視聴率取れるかもしれません、追いかけますよ、リュミエール」
「あ、エメ――もう、お金払ってからにしなよ、もう」
 カメラを手に飛び出していったエメにため息をついて、リュミエールが会計を済ませた後に一行の後を追う――。