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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

リアクション

(う〜ん、いい天気だね〜。のんびりのんびり〜……。
 ああ、ダメダメ。あたしも『豊浦宮』の魔法少女、街の平和と安全をお届けするために、頑張らなくちゃ)
 そんなことを思いながら、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)がパートナーと共に街を巡回する。
「うぅ、ボクも魔法少女になってしまいました……。ボクに魔法少女が務まるでしょうか……」
「大丈夫だよー、ネーおねえちゃんもあたしもいるし、最初は付いて行くだけでも十分だよー」
 気弱な素振りを見せる、今日が魔法少女としての初仕事なディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)に、既にネージュと何回か魔法少女のお仕事をしている舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)がサポートするように付き添いながら、後に続く。
 と、そこにネージュの視界前方を、右から左へ、猫耳メイド姿の少女が飛び過ぎていく。
(! あの子から、魔力を感じる……だけど、凄く乱れてる。
 もしかして、暴走してる……?)
 自分と同じものを感じ、一瞬だけ見えた禍々しい輝きを放つ杖が、彼女を暴走させているのかも、そう思い立ったネージュが後を追いかけようとしたところで、ルピナ・スフィラーレ(るぴな・すふぃらーれ)の声がネージュの背後から飛ぶ。
「ネージュ、たいへん! あっち見て!」
 ルピナの指す方向をネージュが見れば、うず高く積まれた瓦礫の山がそこにあった。
「もしかしたら、無関係な人達が巻き込まれたかもしれないよ!」
「まさか、さっきの子が……? だったら、早く助けなきゃ!」
 飛んで行った魔法少女が気にはなったが、もしあの中に誰かが埋もれているかもと思うと、放ってもおけない。
「ネージュ、さぁ、ボクをまとって『ルピナスフィア』に変身だよ!」
「う、うん!」
 ネージュが頷くと、ルピナの身体が光の粒子状に変化し、いつの間にか脱げたネージュの服の代わりに纏わり付き、『魔法少女ルピナスフィア』を誕生させる。

「薄紫の癒しの華珠、魔法少女ルピナスフィア、あなたの心に開花です!」

 そのまま急ぎ瓦礫の山に急行するのを見、ただならぬ事態と判断した舞衣奈もやはり魔法少女に変身する。
「ほら、ディアーヌちゃんも一緒に名乗るんだよー」
「え? ああ! い、いつの間に服が!?」
 ネージュが着ていたコスチュームの色違いヴァージョンを着せられていたことに今更気付いたディアーヌが、ワケがわからないまま舞衣奈と一緒に魔法少女な名乗りをあげる。

「魔法少女ソレイユサフリア、陽光の輝きとともに光臨なのですよー!」
「祈りを込めた癒しの風、魔法少女ラヴェリアンセム、あなたの心に香ります」


 舞衣奈とディアーヌがネージュに追いついた時には、ネージュは研ぎ澄まされた感覚で、この瓦礫の山に埋もれた複数の誰かの呻き声を聞き取っていた。
「中に誰か居るよ! 早く助けてあげなくちゃ!」
「でも、これだけの瓦礫を退かすには、ボクたちだけじゃ……」
「うーん、確かにちょっとキツイかもー」
 瓦礫の山は、地上からでは天井が見えないほどになっていた。流石の魔法少女でもこれを退かすのは無理、そんな雰囲気が蔓延しかけていたその時――。

「もうすぐ15歳になってしまう私が、14歳の内に奇跡を起こす!
 D級のDはド級のD! 超ド級四天王ハーレック、参上!」


 魔法少女な名乗りをあげ、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が姿を現す。……ハイレグタキシードを身に纏ったその姿は、魔法少女というよりは魔女の類な気がしなくもないが、彼女もれっきとした『豊浦宮』の魔法少女である。

「そして俺が、キュアな少女のピンチを救う貴公子、ネヴィル!」

 ガートルードに続き、ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)が名乗りをあげる。ネージュ一行が瓦礫の山を前にしてたじろいでいるのを、『キュアな少女のピンチ』と思ったらしいネヴィルが、ガートルードの地位により連れてこられたパラ実の子分と共に、瓦礫の撤去作業に取り掛かる。
「フン! フンフン!」
 躍動する筋肉が、次々と瓦礫を掴み、放り投げ、それは無数のパラ実生徒たちに受け止められ、安全な場所まで運ばれていく。……子分が瓦礫を受け止める時に、常人では無傷じゃ済まない吹っ飛び方をしているようにも見えるが、気にしてはいけない。
「凄い……あれだけあった瓦礫が、みるみる減っていく……」
 感嘆の声をあげるネージュの目の前で、瓦礫の山はその高さを減じていき、ついに穴の下、なにやらぴくぴく、と身体を震わせている複数のぬいぐるみ型ゆる族を発見する。
「何、奴らはまさか、『INQB』の手の者!? ……この奇跡はなかったことにしておきましょう」
「ま、待って! せめて話を聞いてからでも遅くないよ!」
 一度掘り起こした穴を、ガートルードが再び隕石落下で埋め尽くそうとするのを、ネージュ一行が身を呈して止めに入る。同じ陣営、かつネージュの方が魔法少女として先輩ということもあってか、ひとまず二度目の隕石落下は阻止された。
「大丈夫? 今、癒しの力を……!」
 ネージュとディアーヌが、ボロボロになってしまった彼らに癒しの力を施すと、パチリ、と目が開いた。
「う、うーん……あ、あれ? お、俺たちは……そうだ! あの魔法少女はどこ行ったッスか!?」
「やっぱり、これをやったのはさっきの子だったんだね。このままあの子が暴走を続けたら、魔法少女のイメージが壊れちゃう!
 追いかけよう、舞衣奈ちゃん、ディアーヌちゃん!」
「ぼ、ボクたちだけで大丈夫かな……」
「大丈夫大丈夫、さっきだって何とかなったんだし、次も何とかなるよー」
 事情を聞いたネージュ一行が、飛んで行った魔法少女を追って空へと舞い上がる。
「まだこの程度で、私の伝説は終わらない!」
 一方ガートルードは、新たな伝説を創造するために、地面を元通りに修復したネヴィルを連れてその場を去って行く。
「……今の、『豊浦宮』の魔法少女ッスかね」
「そうだろうな……何か、凄いな、彼女たち」
 後に残された『INQB』の社員であるゆる族たちは、彼女たちの行動を目の当たりにして、そう評することしか出来なかった――。


(うーん……わたしも魔法少女だけど、どうしよう……。
 どこかに所属するべきか、それともフリーで活動するべきか……どうする、どうするよ、わたしっ!)
 空京の街を、北郷 鬱姫(きたごう・うつき)がうーんうーん、と悩みながら歩き回っていた。先程から延々悩んでいる鬱姫は、既に自分が今どこにいて、どこに向かっているのかが見えていなかった。
(何処かに所属して和気藹々と魔法少女をするのも面白そう……だけど、数が多すぎると目立てないし……。
 フリーで孤独感を漂わせた魔法少女とかもカッコいい……だけど、ありきたりすぎるというか狙いすぎてる感は否めないし……。
 3人くらいでチームを組むのがちょうど良い感じがする……だけど、急に知らない人と組んだら対人関係が大変そう……。
 あー……砲撃重視の魔法少女もよいかもですね。うーん……でもキラキラした魔法少女らしい魔法少女が1番かも。
 ありきたりのステッキじゃ面白くないから用意してみたまじかる☆ますけっと……なんだかよくわからないけど死亡フラグ的な感じがするし……)
 ……な具合に、一つの悩みが浮かんでは、それが熟慮される前に別の悩みが浮かんできてしまうため、何ら答えの出ない状態が延々ループしていた。もしここで誰も鬱姫に声をかけなければ、歩き疲れて突っ伏してしまうまでそれを続けていたかもしれない。
「なあ、魔法少女ってなんだ!? 何をもって魔法少女なんだ!?」
「…………へ?」
 声が聞こえて、その声が自分に向けられていることに気付いて、鬱姫が立ち止まって辺りを見回すと、赤い髪を揺らしたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)がつかつかと歩み寄り、鬱姫に言葉を浴びせかける。
「なあ、魔法少女って一体何なんだ!? アンタ、魔法少女なんだろ? 何で魔法少女を名乗ってるんだ? 年齢か? 性別か? クラスか? 魔法が使えることか? それともどこかで認定している機関があるのか!?」
「い、いきなり何なんですかー!?」
 機関銃のごとく放たれる言葉に鬱姫がすっかり怯えていると、サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が二人との間に割って入ってくる。
「シリウス、この子が困ってるじゃないか。人にものを尋ねる時は、その理由をちゃんと説明しないと。
 ……あぁ、ゴメンね、怖かったでしょ?」
「あ、は、はい……」
 サビクがシリウスを止めてくれたことで、鬱姫はホッ、と息を吐くことが出来た。

「オレ、一応魔法少女らしいんだけど、それっぽい活動してねぇし、そもそも魔法少女って何なのか、分からなくってさ。
 で、空京には何か、プロの魔法少女がいっぱいいるって話だし、なんなら本人に直接聞いてみようぜ、ってことでさ」
 その後、鬱姫はシリウスから理由を聞かされ、なるほど、と頷く。
「……ごめんなさい、わたしにもよく分かりません」
 ぺこり、と頭を下げて申し訳なさそうに告げる鬱姫、ともすれば自分も『魔法少女ってなんなの』というお題で延々考えこんでしまいそうな気がしていた。
「ああいや、アンタが謝ることじゃねーさ。そっか、んじゃ他の魔法少女を当たってみっか。
 ……そうだ、ここで会ったのも何かの縁だし、オレたち一緒に行動しねーか?」
「へ? あ、あの、えっと……」
「もう、また困らせちゃってるじゃないか。キミはもう少し相手の都合というのを考えた方がいいんじゃないかな」
「んなこと、聞いてみなきゃ分からねーだろ?」
 何やら言い争いに発展しそうなシリウスとサビクを見、鬱姫が慌てて口を挟む。
「わ、わたしならいいですよ、どうせ暇でしたし」
「ホントか? ああその、無理とかしてねーよな?」
「いえ、大丈夫ですから」
 作り笑顔を浮かべる鬱姫、自分の態度が原因で二人が言い争いを始めてしまうのは嫌であるがゆえの対応であった。
「そっか、んじゃ次、行ってみようぜ!」
 新たな仲間? を得たシリウスが、意気揚々と歩き出す。
「やれやれ……キミ、魔法少女というよりは、変身ヒーローの方が似合ってる気がするよ」
「あはは……」
 その後ろを、やれやれといった様子のサビクと、鬱姫が続く――。