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一日駄菓子屋さんやりませんか?

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一日駄菓子屋さんやりませんか?

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 食材を持って部屋に集まった3人。しかし桜葉 忍(さくらば・しのぶ)とパートナーの東峰院 香奈(とうほういん・かな)織田 信長(おだ・のぶなが)ペアの間には、大きな壁があるようだ。
 忍は香奈と信長の明るい表情にもかかわらず、怪しい雰囲気に危険な感じを見て取った。
「なぁ、いったい何を作ろうとしているんだ?」
「うむ、私は香奈と共に協力し《かれいぱん》と言う物を作るつもりじゃ!」
 信長は胸を張る。
「かれいぱん? か・れ・い・ぱ・ん……ああ、カレーパンのことか」
「信長さん料理をするのが初めてみたいだから、私が教えてあげることにしたんだよ」
 焼きそばパンに変わるメニューとしては悪くないと忍も思う。しかし香奈の微笑みに、不安感は増す一方だった。
「あの、香奈? 俺が手伝ってあげようか? 2人だけだと大変だと思うし」
 忍の親切心による言葉だったが、香奈も信長も全く取り合わなかった。
「しーちゃんの作ったパンより美味しいパンを作るから、完成したら試食してね」
 あふれんばかりの笑顔で見上げられると、忍はそれ以上何も言えなくなってしまった。
 仕方なく忍は自分でアゲパンを作ることにする。いろいろ考えた末に、安くて簡単に作れて美味しい点で、これに優るものはないと思ったからだ。
 もちろん単なるアゲパンではない。ひと工夫を思案して山羊のミルクから作ったバターを使うことにした。また食感と味が多彩に楽しめるように、アゲパンの中にはソーセージやベーコンやクルミなどを入れる。
「名付けてカラフルアゲパンってトコかな」
 パン種をこねながら、香奈と信長を見る。2人はカレーを作ろうとしているのか、大鍋に次々と材料を入れていた。
「薬草茶、トマトジュース、イカ墨か。まぁ隠し味にはなるか。テロルチョコにちくわチョコ! まぁ、チョコを隠し味にするところもあるって聞くし。しかし隠し味ばっかりだな。バナナ! 蜂蜜! まぁ、コクが……出るのかも」
 2人は嬉々として鍋をかき回している。
「まともな食材はないのか。あれは…………ナラカの果実に石油肉か。本当にカレーを作る気があるのか」
 信長は雲海わたあめとお汁粉を追加した。
「よくあんなのを見つけてきたなぁ」
 香奈が乙カレーと光る種モミを大量に鍋に投下したのを見て、忍はため息をついた。
「ねぇ、しーちゃん、それくれる?」
 そろそろアゲパンを作ろうかと思っていた忍に香奈が話しかけてくる。香奈の指差す先には、発酵させたパン生地があった。
「用意してなかったのか?」
「うん、2人してカレーばかり考えてたみたい。私も信長さんも、パンのことは全然なの」
 呆れながらも、忍は生地を分けた。
「揚げることも考えてないんだろ。とりあえずカレーを包み終わったら、こっちに持って来いよ。一緒に揚げてやるから」
 やったぁと香奈はパン生地の片割れを持っていく。もう半分は信長が持ち去っていた。
「まぁ、いいけどさ」
 新たに強力粉をこね始めた。

 アゲパンは上々のできあがりだった。仕上げに振りかけた白い粉砂糖が食欲をそそる。
 そしてカレーパンもキツネ色に揚げあがる。多少形が不揃いであっても、見た目は十分にカレーパンだ。
「はい、どうぞ」
 香奈の笑顔と信長の自信たっぷりのドヤ顔に押されて、忍がかじる。「おまえ達も食べろよ」と言ったものの、「私は大丈夫」とか「私の作ったものがまずいわけはないじゃろう」と口にしなかった。忍の口の中に甘・苦・辛が一気に広がり、気色の悪い舌触りが襲いくる。もちろん死ぬ程まずい。
 ── まるでデスパンだな。とりあえず並べるだけは並べよう。隙を見て片付ければ良いか ──

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 パートナーの白麻 戌子(しろま・いぬこ)ルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)に引っ張りだされて、四谷 大助(しや・だいすけ)は新たなアルバイターになっていた。
「何でオレが……」と当初は抵抗した。
 しかしルシオンが目を伏せながらつぶやいた。
「空京名物の駄菓子屋さんの裏メニュー、あたしが作ってることを田舎の妹達が知ったら、さぞ誇りに思うだろうッス」
 よよと泣き崩れるフリをする。大助は嘘泣きと分かっているが、既に諦めの境地にあった。
 ── ホントは断りたいところだけど、放っておくと何をしでかすか解らないか ──
 最後には「あくまで管理役だからな」と念押しして、手伝うことになった。
 その後、戌子とルシオンは独自のメニュー作りに精を出す。大助は遠目に見るだけだったが、パンらしきものを作っているようだったので、2人のするに任せておいた。
「ふふふ……見たまえ大助! ボクが夜も寝ないで考えたドッキリパン。さあ食べたまえ!」
 大助の前にパンが一個置かれた。
「何て言うか……嫌なネーミングだね」
「さすが大助。ボクが支えたいと思っただけのことはある。良い所に気がついた。パーティ、イタズラ、罰ゲームと何にでも使えるから『ドッキリパン』なのだよー。パンの中身が秘密なのは定番だねー。激辛、激甘、激苦、激酸と4種類だ。遠慮なく喰らいたまえー」
「最初の3つはともかく、“激酸”はまずいだろ」
「ご心配なく。“激酸”は1個しか作ってないのだよ。そうそうたくさんの人をひどい目に合わせるわけにはいかないであろー」
 1個だけ置かれたパンをマジマジと見る。他と変わりないように見えるが、明らかに違和感がある。
 ── その1個がコレかよ ──
「あっ! 山葉校長が裸踊りしてる!」
 パッと向こうを指差すと、2人の視線がそっちを向く。もちろん山葉が裸踊りをするはずはないが、その隙に激酸パンをポケットにしまう。
「誰もおらんではないか」
「あ、そう、気のせいだったかな?」
 大助は口を動かし食べているフリをした。
「まぁ、悪くはないな。買う人がいるかどうかは別として、売るだけ売ってみよう」
 戌子とルシオンは不思議そうな顔をしたが、それ以上の追求はなかった。

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 食品を卸す店に仕入れに立候補した学生達が集まっている。もちろん村木婆ちゃん駄菓子屋で売るための商品探しだ。
「子供が買えなきゃ意味ないぜ。50円以下のお菓子が良いんじゃないか」
 巨体を揺らしてジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)が力説すると、椎名 真(しいな・まこと)が彼を見上げて同意する。椎名も180センチ近い長身だが、3メートルの巨漢、規格GUYジェイコブには大きく届かない。
「串に刺さったお菓子とか、50円以下でその場で食べれそうなやつがいいんじゃないか?」
「一口カツとか一口サイズのきな粉餅だな。ラムネ菓子やコインチョコレートはどうだ?」
「ちょっと考えがあるんで、飲み物を少し多めに仕入れておきたいんだけど……」
「わかった、そろそろアイスが売れ始める頃だから棒アイスも入れておこう」
 男2人で意気投合すると、店内に行こうとして、つり目を大きく見開いた村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)に止められる。
「ちょっと待ってよ。私達の意見も聞いてちょうだい」
 大きく両手を広げて立ちはだかったものの、ジェイコブは危うく跨いでしまうところだった。もっとも背が120センチそこそこの蛇々では仕方のないことだろう。
「定番もののスナック菓子を忘れない方が良いと思うんだ」
 同様に仕入れを希望した七尾 正光(ななお・まさみつ)が提案する。そこで改めて集まった面々が顔を付き合わせる。
「地味だけど、串に刺した甘辛いタレのついたイカとか、砂糖をまぶした薄い丸型のカステラを串に刺したやつとか……マイナーものに光を当てたいのよ」
 村主蛇々の考えに反対する者はいなかった。ところが意外なところから、次の意見が出る。パートナーのリュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)だ。
「あたしはねぇ、小さな四角の色んな色があるお菓子。爪楊枝で刺して食べるみたいなんだけど……名前は知らないの。こないだ蛇々お姉ちゃんが隠れて食べてて気になったって言うのは秘密よ!」
「秘密よ」としながらも、勢いで言ってしまう。
「か、隠れて食べてたわけじゃないのよ。ひとつしかなかったから……」
 村主蛇々は真っ赤になって言い訳するが、アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)がボソッと「太るぞ」と言ったのを耳にすると、「うるさーい」とアールの腰をポカポカ叩く。
「まぁまぁ、いっぱい食べて大きくならないとな。ただ女の子が俺みたいになったら育ちすぎだろうが」
 ジェイコブは蛇々を軽々持ち上げると肩に乗せた。体格差もあって、まるでマスコットだ。「あたしもー」とせがんだリュナを反対側の肩に乗せた。
 話し合いの末、定番スナックを仕入れる七尾正光とパートナー達、それ以外のものを仕入れるシェイコブ、椎名真、村主蛇々とパートナー達に分かれた。
「おにーちゃんには、あれはできませんよねぇ」
 蛇々とリュナを肩に乗せたまま店内に入っていくジェイコブの背中を見ながら、アリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)が正光に言う。
「さすがに2人はな。アリアだけなら肩車できるぞ」
 さすがにここではと思って「いえ」と断るアリアに、母親のチャティー・シュクレール(ちゃてぃー・しゅくれーる)が「それなら私がしてもらっちゃおうかなー」と言い、ステア・ロウ(すてあ・ろう)も「ニーサン、私もー」と調子を合わせる。
「それじゃあ…………私も」
アリアがおずおずと言った瞬間、チャティーとステアが「どうぞ、どうぞ」と。