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第十一章 焼きそばパンを越えるもの

 校長兼理事長の山葉 涼司(やまは・りょうじ)裏メニューB−1グランプリのアンケート結果を手にしていた。
「意外な結果になったな」
「そうですか?」
 花音・アームルート(かのん・あーむるーと)が集計用紙を覗き込む。
「私は予想された結果だと思いましたけど」
「すると意外かつ想定内と言うわけか……」
 アンケートを提案した七瀬 歩(ななせ・あゆむ)も複雑な表情で結果を眺める。
「私が提案しておいて何ですが、この結果って、裏メニューを考えた人達にとっては、ショックかもしれませんね」
「そうであっても、結果を知らせないわけにはいかないからな。頼むぞ」
 山葉は羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)に集計用紙を渡した。

「はーい、皆さん、こんにちは! 午後のひと時をいかがお過ごしですか? 村木お婆ちゃんの旅行の際に行われた裏メニューB−1グランプリの結果が出ましたー!」
 まゆりが手を振ると効果音が挟まれる。
「見事にアンケートで一番となったのは…………」
 蒼空学園の校内で夜月 鴉(やづき・からす)四谷 大助(しや・だいすけ)健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が、校内放送の画面に見入っていた。
「……焼きそばパンでーす!」
 同時に集計結果をグラフにしたものが発表された。他のメニューにもそこそこ票は入っているものの、焼きそばパンが大差をつけて1位となっていた。
「解説のシニィさん、これはどう言うことなんでしょう」 
 カメラが引かれると、まゆりの横に座るシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)もアングルに入る。
「票だけを見ると意外に思うかもしれんの、じゃが寄せられたアンケートの内容を見れば一目瞭然じゃ」
「はい、ここでいくつか読み上げてみましょう」
 まゆりが別に用意した紙を取り出す。
「えー、“たまには良いけど、村木婆ちゃんの焼きそばパンには敵わない”“焼きそばパンに優るものなし”“やっぱり焼きそばパンが良い”などなど」
「つまり長ーく愛された焼きそばパンには敵わなかったんじゃな」
「と言うことで、裏メニューB−1グランプリは、焼きそばパンの圧勝でしたー」


 それぞれの参加者には、アンケートの結果が送られていた。

 イルミンスール魔法学校ではクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が追いかけっこをしている。
「この“カレーの隠し味が美味かった”って何だよ! やっぱり余計なコトしたな!」
「その余計なコトで票が入ったのだよ」
「そりゃそうだけどな。また勝手なことしやがってー」
「んまい棒の威力を思い知ったであろう?」
 追いかけっこは当分収まる気配がなかった。

「チョコファンはつかんだみたいだけど、ライバルが多すぎたか。駄菓子屋にチョコものは多いからなぁ」
 シャンバラ教導団ではルカルカ・ルー(るかるか・るー)夏侯 淵(かこう・えん)が用紙を手に難しい顔をしている。
「俺はあんな格好までして頑張ったんだぜ」
「いいじゃない! はい、チョコレートは正義!」
 ルカルカが右手を上げると、渋々「チョコレートは正義!」と付き合った。

 魏延 文長(ぎえん・ぶんちょう)夜月 鴉(やづき・からす)特製の焼きそばクレープをおいしそうに食べている。その横で鴉は集計結果を眺めていた。
 ── “クレープは駄菓子屋じゃなくても食べられる”か、それもそうだ。“駄菓子屋よりも、おしゃれなカフェが合うと思います”か、それもそうだ ──
「おかわり!」と魏延が言うと、5つ目の焼きそばクレープを作りにかかった。
 作りたいものを作るばかりで、リサーチが足りなかったなと鴉は今更ながらに後悔した。

「えっと、“サツマイモでなかったのはなぜ?”“宇都宮さんなら、ジャガじゃなくってサツマでしょ”“ジャガイモで新境地を開いたんですね”……って、まるで私がサツマイモ娘みたいじゃないの!」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はアンケートを破ろうとして思いとどまった。
「まぁ、好きなんだけどね」と、今日のおやつ、蒸かし芋を一口食べる。
 早くも放送の翌日、葦原明倫館の食堂で大学芋が出たときに、食堂のおばちゃんが「これ好きなんでしょ」と大盛りにされたのを思い出す。
「どこまで広まっちゃったんだろう」
 祥子は頭を抱えつつも、「サツマイモで作ったら、もっと票が伸びたかな」と、新たなサイドビジネスについて思いをめぐらせ始めた。

「男性のウケは良かったんだ」
「その反対に、女子には敬遠されたようですわ」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)天鐘 咲夜(あまがね・さきや)セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)プレシア・アーグオリス(ぷれしあ・あーぐおりす)を集めて反省会を開いた。
「“鮫”で抵抗があったのようですね」
 セレアが集計用紙を丁寧に見ていく。
「と言って、鮫でなければ、男の支持は得られなかったからな。商売って難しいぜ」
「でも、とっても良い経験になりましたわ」
 3人のパートナーが満足するのを見て、勇刃も満足だった。

「“悪くは無い”が……」
「“良くもない”……だね」
 薔薇の学舎では佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)フィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)が、集計用紙を手にしていた。
「見方を変えれば、ワタシ達のピロシキが一番焼きそばパンに近いと思うんだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、この差は何だ?」
「歴史だろうな。10年くらい頑張れば、焼きそばパン並に定着するかも」
「なるほど、しかし遠いな」
「それが伝統の重さだろう」

 天御柱学院では東峰院 香奈(とうほういん・かな)織田 信長(おだ・のぶなが)が憤慨していた。
「おかしいよね」
「うむ、かれいぱんが乗っておらぬとは、どう言うことじゃ」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は『当たり前だ』と思っていたが、口には出さない。
「アンケートを書かない人も多かったからな。カレーパンに夢中でアンケートを忘れたんじゃないか」
「そうか! それでは新たにかれいぱんを作って配ろうぞ!」
 信長と香奈を止めるのに、忍はひと苦労だった。

「激苦は別として、激甘や激辛好きには受けたみたいだね」
 四谷 大助(しや・だいすけ)白麻 戌子(しろま・いぬこ)ルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)を慰める。
「ボクの予想が当たったろ」
「大さんの掛け声がよかったら、もっと売れたかもしれないッス」
「無茶言うなよ」
 呆れる大助をよそに、戌子とルシオンは次の雪辱を誓い合った。

                       《終わり》

担当マスターより

▼担当マスター

県田 静

▼マスターコメント

多くの方々の参加ありがとうございました。3度目のゲームマスター作業、無事完了です。
今回は大きな設定変更などもなく。すんなりリアクション作成に入ることができました。
強いて言えば、店の手伝いを希望した人が多かったくらいでしょうか。

事前予想では、もっとはっちゃけたアクションをする人がいるのかなと思っていました。
例えば「夜中にこっそり忍び込んで……(悪いことばかりでなく、掃除するとか改装するとかなども)」や「新たな駄菓子屋を建てて、空京一の駄菓子屋キングになってやる」や「金の力にものを言わせて、駄菓子を買い占めるぜ」などです。
そんなのが無かったのは、安心したような寂しかったような。

ただいろいろな学校から参加していただけたのは嬉しかったです。
学校の特色を出すのは難しかったのですが、少しだけ同じ学園の生徒同士で絡ませるような展開にしてあります。
(本当に少しだけですので、念のため)

今回、村木お婆ちゃんが最後にちょこっとだけ登場しましたが、駄菓子屋を含めてもっと活躍の場面があるのかは未定です。
本当にどうなるんでしょうね。

また今回も何名かの方に称号を送らせていただきました。どうぞご確認ください。

では次の機会がありましたら、よろしくお願いします。そろそろオリジナルを作ろうかなと考えている県田静でした。