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浪の下の宝剣~龍宮の章(前編)~

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浪の下の宝剣~龍宮の章(前編)~

リアクション


12.沈む船



 くらげやサンゴなどの生物の中には、分裂や発芽などで新しい個体が産まれても母体を離れることがなく、そのまま生活を続けるものがある。群体と呼ばれるもので、人の目からはまるで一つの生き物のように見えるが、実際は多くの生物が作り上げたコロニーと呼ぶべきものだ。
 海京防衛線で現れたエイ型イコン、そして軽空母に収められた液体状の金属の性質は、この群体によく似ている。
 不定形型イコンを形成しているのは小型の液体金属、ナノマシンの複合体だ。ナノマシンが状況に応じて、結合の仕方を変化させる。このナノマシンはそれぞれ独立して存在し、核となるべき部分は存在しない。そのため、完全に破壊を目指す場合には、全てのナノマシンを等しく破壊する必要がある。
 もし破壊できなかった場合、ナノマシンは他の金属を取り込み、そこから自らを複製し増殖していく。一つ一つは、微細な金属粒子であり、完全に破壊したかどうかを確認することは困難だ。
 だが、決して無敵というわけでもない。
 物質は結合のしようによって、その強度をあげることができるが、このナノマシンそのものの結合は弱く、装甲を形成するには向かない。また、核は無いがイコンそのものに意思があるわけではないため、操縦者がなければナノマシンは自立的に行動することは無い。
 ナノマシンをイコンの形状にした場合、その性能そのものは第一世代のイコンと互角か、もしくは劣ってしまう。その自由度を活かせるのであれば、操縦者の腕次第では相手を圧倒することも可能かもしれないが、人間の判断能力と行動力は状況などによって大きくブレるものだ。
 信頼のおけないもので、賭けをするのは三枝の考えからは外れてしまう。
 この群体式不定形イコン、パジャールを効率的にかつ最大限の能力を発揮させる方法の一つが、この軽空母のあり方だった。

「空から攻撃してるみんなー、今から砲撃いくから……この射線には入らないでね!」
 青崎 更紗(あおざき・さらさ)がデータをまとめて転送する。
 これから発射される大型ビームキャノンの威力は絶大だ。巻き込まれた大変である。
 どっしりと構えたコームラントが狙うのは、この戦いの中でほとんど被弾した様子が見られない軽空母である。
 大型ビームキャノンの弾速を考えれば、たとえ先ほどのデータを掠め取っていたとしても避けれるものではない。
「ターゲット完全ロック、距離で分散しちゃうエネルギーを考慮しても一撃で粉砕できるよ」
 更科 黒(さらしな・くろ)の報告に嘘偽りは無い。あの軽空母の装甲材質から考えれば、コームラントの大型ビームキャノンを受け止める事は不可能だ。
「……粉砕……する」
 鏡神 白(かががみ・しろ)は、真っ直ぐに敵を見詰めながら引き金を引いた。
 巨大なエネルギーの塊が、空気を焦がしながら一直線にターゲットへと向かう。
 着弾の衝撃で周囲の海水が巻き上がり、水蒸気が軽空母を覆った。避ける事は不可能、受けることも無理、ならばたどり着く結論は轟沈の一つしかない。
 はずだった。
「なにあれ……傘?」
 更紗がモニターに表示されている銀色の物体を見ながら、そうこぼした。
 それは、確かに傘のようである。流線型の膜が、軽空母の横から飛び出た骨に繋がっている。丁度、傘を真横に持った時のようだ。それが、大型ビームキャノンを受け止めたのは間違いなく、轟沈するはずの軽空母はそのままそこに存在していた。
「バリアみたいなものかな?」
 自分の身を守るために、別の力を持って攻撃を防ぐものを仮にバリアするならば、黒の言うバリアとあの傘は別のものだ。あれは、自分の体を伸ばして盾にしたものであり、受けたダメージの分だけ、その身は削れているのだ。
「次弾……装填……」
「おっけー、次のチャージしちゃうよ。警告よろしくね」
「なんだかよくわからないけど、このまま攻撃続けるんだね。よーし、次の発射は―――」
 砲撃の為に距離を取り、遠方の様子はモニターと通信から得ている白達には、あの傘が何なのかはわからない。しかし、攻撃を打ち込めば打ち込むほど削れて行くという性質上、この選択は正解だ。
 問題は、コームラントの装填数でパジャールを削りきれるか、である。

「後ろが、がら空きだぜ!」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の乗るクェイルが水中が飛び出すと、スナイパーライフルとアサルトライフルをそれぞれの手に持ち、軽空母に向かって次々と弾丸をばら撒いた。
 グラキエスは空中戦の援護をしていたが、それももう片が付き、残るはあのヘンテコ空母だけだ。そして、巨大な傘を形成した軽空母の反対側は完全にがら空きだった。
 狙いは艦橋だ。両手持ちのため、命中率は下がるが、その分距離を詰めている。若干のブレはあったが、ほとんどは狙った艦橋に弾が集まった。
 艦橋の半分が吹き飛び、ダメージが通った。あの傘は、同時にいくつも展開できるような都合のいいものではないらしい。
「よし、当ったぞ。このまま完全に破壊してやる!」
 空になったアサルトライフルの弾装をパージし、マガジンを装填しようとしたクェイルだったが、突然の振動によりマガジンが海へと落ちてしまう。
「被弾? どこからであるか」
 アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が即座にレーダーと、機体の状況を確認した。装甲に傷はあるかもしれないが、損失は無し。当っただけだが、だがどこから攻撃されたかがわからない。
「おい、見ろ!」
 グラキエスが、ある一点を示す。
 そこは、甲板の一部だ。砲台などは設置される場所ではない。その場所に、何かが形成されていた。昔の海賊船などに乗っているような、古い大砲のようだ。それが、一つ二つと形成されていき、その全てがグラキエスのクェイルを向く。
「今の攻撃の正体はあれなのだろうか、ぬっ」
 二度目の振動が機体を襲う。今度は、砲台も見ていたが、どれもまだ何も撃ちだしてはいない。ならば、とアウレウスがモニターに目を走らせる。
「ばかな、破壊したはずであろう、それが何故っ……」
 先ほど、半壊したはずの艦橋はほんの一時目を離した隙に、元の形を取り戻していた。そして、同時に何がこちらを攻撃していたのかも確認できた。
 弾丸だ、先ほど撃ちこんだスナイパーライフルとアサルトライフルの弾を、投げ返してきているのだ。いや、吐き出しているというのが正しいか。威力は銃を用いて放ったものとは比べ物にならない程に低いが、異様なその攻撃はその仕組みがわからない相手を混乱させる。
「落ち着けよ、こんなんじゃダメージにはならないだろ。それより、問題はどこを狙えば打撃になるかだ」
「……そうであったな」
 動き始めた砲台の攻撃を避けながら、今度は艦橋ではなく船全体に攻撃を加えていく。砲台は一撃加えれば砕け散るが、間もなく再形成されていく。
「っち、めんどくせー相手だな」

 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は、知っていた。
 不定形イコンとの戦闘は、既に一回行っている。先日の、海鎮の儀に乱入してきた奴で間違いない。
「人の形にこだわらなくなったか。確かに、驚異的かもしれないが、誇りを捨ててしまったのであればどんなものであろうと俺の敵ではない!」
「けれど、どうします? こちらの攻撃、ほとんど通じていないようですが」
 キリカ・キリルク(きりか・きりるく)が報告するように、既に航空部隊のほとんどはあの空母に狙いを定めているが、目だったダメージを与えられているようには見えない。攻撃を受けて損失した部分が、またたく間に再構築されてしまう。
「以前まみえた時は、大型ではあったがイコンの姿をしていた。それはその方が都合がよかったからかもしれないが、俺はそうは考えない。イコンとはこうあるべき、という固定概念があったから、イコンの姿を取っていたのだ。現に、何度か腕を出しているが、人間の腕ではなく、イコンの腕を模していだろ」
「そうですね、形に決まりが無いのなら、イコンの腕を模しているのは無駄があります」
「本人は、合理的かつ効率的にあの姿と戦い方を選んだつもりなのだろう。だが、まだ捨てきれていない部分がある。癖と言ってもいい。それがあるという事は、あれは多くの人間の思想で動くものではなく、個人が操っていると考えるべきだ。ならば?」
「操っている人を倒せば、あの空母は動かなくなります」
「そういうことだ!」
 あれは既に空母ではなく、一つのイコンだ。そのため、空母を相手にする戦術では通らない。個人の意思で自在に動く要塞であると認識しなければ、このまま戦闘を続けるだけ消耗を大きくする。
 あれを崩すためには、その個人を狙うのが最も有効だ。
「見つけた! 行くぞ!」
 先ほど吹き飛ばされ、元通りになった艦橋に人影をヴァルは見つけた。
 エンペリオス・リオは、上空から速度をあげて一息に甲板へと飛び込んだ。途中、気付いた砲台が、鉄球のような砲弾を撃ち出してきたが、全てキリカがレイピアで切り捨てる。
 こちらを向いていた数多の砲台を踏み潰し、エンペリオス・リオは甲板の上に着地する。
「また会ったな三枝よ。以前は挨拶ができずに悪かったな」
 艦橋に人影をズームする。表示されていた顔は、写真で確認した三枝仁明のものと同じだった。
 モニター越しに、三枝はヴァルの目を見ると、すっと目を閉じた。
「こちらこそ、以前は挨拶できずに申し訳ありませんでした。自称帝王さん?」
「ほう、言うではないか」
「わざわざ私に会いにここまで来ていただいたのは恐縮ですが、今はとても忙しいのです。あなた一人を相手にしている暇はありません。早々にお帰りください」
「忙しいとは随分と余裕があるようだな。この状況でなお、貴様は勝てるとでも思っているのか? まさか状況が見えぬ間抜けではあるまい」
「はて、勝てるとは一体どのような意味でしょう。私は誰とも戦っていませんし、誰とも勝負などしていません。ああ、もしかしてあなた達はこれを戦闘だとでも思っているのですか。ふふ、おっとすみません」
「何がおかしい?」
「あなたは、自分の周りを飛ぶ羽虫を手で払う事を戦闘などとは言わないでしょう? つまり、そういう事です」
「俺達を羽虫と言うか」
「ええ、もし不服であるのならば、この船を沈めてみせてください。そうすれば、そうですね、甲虫ぐらいには評価を改めましょう」
「虚栄を張るのも大概にするのだな、この帝王を相手にするというのがどういう事か、今に理解させてやろう!」
「どうぞ、是非ともお見せください。できるのであれば、ね?」

「あとはあれだけなんだけどなー」
 高島 真理(たかしま・まり)は軽空母をうらめしそうに見つめていた。
 Meteorのアサルトライフルで幾度も攻撃をしかけているのだが、見た限りでダメージを受けている様子が無い。一部が破損しても、即座に修復して元に戻るのは、攻撃を加える方の気分を阻害するものがある。
「先ほどから、砲撃のような大きな攻撃は傘を使って防いでいるでござる。大きな一撃を当てる事ができれば、あるいは」
 Meteorに同乗する源 明日葉(みなもと・あすは)の読みは、恐らく間違ってはいないだろう。だが、大きな一撃は今のところ全て防がれているし、この機体にそんな火力兵器は搭載していない。
「あそこで暴れるのも難しいよね」
 一人、いや一機が甲板に乗って大暴れしているのだが、それでも状況が好転しているようには見えない。むしろ、逃げ場が無くなってしまいダメージを受けている。どうもあの飛び出してくる腕や針や大砲は、どれも威力は低いようだが、かといって攻撃を受け続ければいずれはこちらに限界がくる。
「……いや、ここはやはり接近すべきでござろう」
「へ?」
「見るが良い。確かに攻撃を受けた場所は復元するが、一瞬というわけでは無いでござる。これが船底であれば、その間のうちに水が艦内に入り込むであろう」
「何度か繰り返せば、船の浮力が水に負けて船が沈む……か。銃でちっちゃい穴をあけるぐらいなら、ビームサーベルで切り裂いた方が被害はでかいってわけだね」
 はっきり言って、あの軽空母は不気味だ。攻撃の予備動作が全然わからないため、今までイコン乗りとして身に着けてきた勘がうまく働かない。様子見を含めて、距離を取りたくなる気持ちは理解できる。
 だからこそ、甲板に取り付いたイコンが凄く目立っているわけだが、ともかく、明日葉の提案を真理は受け取った。船底を、できるだけ大きくビームサーベルで切り裂く。今まで航空部隊の援護にヘリを攻撃していたのに比べれば、危険度が遥かに高い作戦だ。
 Meteorは水中改修を受けた機体で、水中での機動を頼るなら専用機に任せた方がいいのだろう。しかし、通信すればこちらの考えを拾われる危険性がある。攻撃より防ぐ事を重視しているあの空母の船長に知られない方がいい。
「よーし、それじゃいっくぞー!」
 一度潜り、水中から軽空母へ向かう。まだ戦闘は続いているが、空母に取り付いて戦えているのはほとんどいない。だが、武装集団のイコン部隊はほぼ壊滅状態であり、残っているのはなぜかやってきたカニ型機晶姫、海京神社防衛システムの方が多い。
「邪魔者はいないでござるな」
 水中を、限界の速度で抜け、船底を目指す。
「気付いて無いみたい、いける!」
 ビームサーベルを抜き、そのまま横を駆け抜けながら、船底を切り裂いていく。大量の泡が、Meteorの抜けていったあとを覆った。そして、どろりと大量の液体金属があふれ出してくる。
「これは……なんというおぞましさでござるか」
「なんかマグマみたいだね……あれ、何か……っ!」
 突然、真理がMeteorを引き返させ、液体金属へと向かっていく。
「ど、どうしたでござるか?」
「人が、あれに巻き込まれてるみたい」
「なんとっ!」
 確かに、あの液体金属に紛れて人が海中に放り出されていた。近づくと液体金属がMeteorに攻撃を仕掛けるが、水中でのただの打撃はそこまでこわくない。邪魔な一部をビームサーベルで切り裂き、水中に放り出された人間を確保する。
 彼らは、武装集団の兵士ではなく、内部に潜入していた天音とブルーズと霜月の三人だった。



 巨大な人工物が、海の底へと沈んでいく。
 何度も攻撃を受けていた空母は、ついに自分を支えることができなくなったのだ。まるで蜘蛛の子を散らすように、いくつもの救命ボートが船から離れていく。
「結局、こうなってしまいましたか」
 志方 綾乃(しかた・あやの)は、沈んでいく船を目で追っていくが、すぐに海の暗闇に紛れて船の姿を見失った。
「降伏するタイミングは何度もあった、そうだろ?」
 諦めるに足る状況は、もっと前からあった。それをわざわざ船が沈むまで見逃してきたのは、彼らの責任だ。ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)の言葉は間違っていない。
 まだ空母は一隻残っているが、あちらはまだ健在だ。航空部隊の総攻撃とも言うべき打撃を受け、水中からも攻撃を受けているが、一向に沈む気配がない。
 だが、あの空母は今沈んだ空母とは別物だ。海中での戦闘にずっと参加している綾乃達にはわかる。武装集団のイコンの一機たりとも、あの空母は守ろうとしなかったのだ。
「でも、これでさすがに戦闘は継続できないはずです」
「だろうな。補給もできずに戦い続ける馬鹿はいねぇはずだ」
 この先、敵の増援部隊がやってくるでもない限り、残された戦力で戦闘を続けるのには無理がある。もう間もなく武装集団も降伏するだろう、そう綾乃とラグナは考えた。敵の指揮系統はぶつ切り状態だろうが、少しすれば状況を理解するだろう。
 だが、この中には状況を理解するどころか、そもそも何かを考えているとは思えない集団が存在していた。
 海京神社の防衛システムだ。
 彼らの目的は、その名が示す通りに防衛である。自らの聖域に近寄ろうとするものを、殲滅する。単純なロジックで動く彼らは、自分の周囲にあるデータに無い動く物を標的に据えるようにできている。彼らが敵と認識しないのは、海の生物だけであり、それ以外は武装も何も無い救命ボートすら標的となる。
 二人の目の前で、救命ボートの一隻が防衛システムの攻撃を受けた。
「見境無しだな。で、どうするよ?」
「自業自得です……と、言いたいところですが、志方ない。見殺しにするわけにもいきませんよね」
「どちらにせよ、あのカニも放っとくわけにもいかねーもんな。よっしゃ、行くぜ」
 ツェルベルスが海水を切り裂き、わらわらと集まっている防衛システムの群れへと突入する。クローで引き裂き、ガトリングガンで蹴散らしていく。防衛システムの攻撃手段は少なく、完全に破壊しなくても武力を奪うことができる。
 防衛システムを迎撃しているイコンの中には、武装集団のものも何機が居たが、今は見逃しておいた。こちらが、というより向こうにこちらを気にするほど余裕がある様子ではなく、いくつかのイコンは戦闘できているのが不思議なほど破損している。
 海面近くまであがってきた防衛システムをあらかた片付けるのに、そう時間はかからなかった。
 向こうに余裕が出てくるようになると、そのうち何機かがツェルベルスに、ライフルなどの銃口をこちらに向ける。だが、それを一機のイコンが間に入って制止した。
「へぇ、礼儀ぐらいはわかっているみたいですね」
 間に入ってきたのは、あのツギハギガネットだ。出てきた当初は積極的に動いていたが、空母の損害が大きくなるにつれて、距離を取って味方の援護に回っていた。割と早い段階で、諦めていたのだろう。
 ツギハギガネットはツェルベルスに対して正面を向くと、右手で左の拳を包む動作を行った。拱手と呼ばれるもので、感謝の意を示す動作である。一息の間を置いて、ツギハギガネットはあっさりと背中を見せると手で合図を送り、仲間を集めて撤退を始めた。
「撃たないのか?」
「なんか、毒気を抜かれてしまいました」
 


「誰も帰っていいなどと許可を出してないというのに、勝手に逃げおったわ」
「構いませんよ、支払い分の仕事はしてもらいました。まぁでも、何人か失うには惜しいパイロットがいましたね。あちらに拘束されなければ、あとでまた呼び寄せましょうか」
「ふん、腰抜けどもをまた集めるか」
「最初から、勝利を得るためのものでないでしょう? 確かに、まさか一度目の戦闘でここまで被害を受けるとは考えていませんでしたが、こちらが海上に居座る以上、いずれは敗北するのはわかっていたことです」
「だとしても、面白くは無い」
「難しい事を仰いますね……世の中、面白い面白くないではなく、結果ですよ」
「よく言うものだな、若造よ。俺がなければ、死ぬまで貴様はくすぶり続けていた、違うか?」
「どうだか。確かにあなたは面白い余興を私に提供してくれた、その点は感謝してますよ。ですが、我々はパートナー。主従関係で動いているつもりは、私にはありません。あなたがどう思っているかは知りませんが」
「この俺に尊大な口を利くその肝の据わりっぷりは評価してやろう。だが―――」
「言ったでしょう? 私とあなたはパートナーです。言うなれば、一蓮托生の身。その間柄で、くだらない事を確認する必要なんて無い。もっと単純かつ合理的に話を進めましょう。私の時間は、あなたと違って有限なんですから」
「まぁ、いいだろう。それで、このあとはどうするつもりだ?」
「沈めますよ、この船を。これ以上、彼らとじゃれあっていても意味はありませんから」
「ならばさっさとするがいい。貴様の時間は有限なのだろう?」
「ええ、手早くいきましょう」