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パラミタ百物語

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パラミタ百物語

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参道
 
 
 
「空京神社の奧で夏祭りとは、また風流だな」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)に連れられた悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、綿飴を頬ばりながら言った。頭には、斜に狐の面をひっかけている。
 空京商店街での夏祭りもそろそろ終わる時間になっているのだが、夏祭り二次会ともいえる催しがあると雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)に誘われたのだ。
 夏祭りを満喫していた悠久ノカナタは上機嫌で、ほとんど何も考えずに、メイン会場だという空京神社へとやってきた。
「参加者の方ですね、どうぞこちらへ。すでに、皆さんお集まりです」
 明かりの点った提灯を持った空京神社の巫女さんが、暗闇の中から不意に現れて二人を迎えた。
「迎え? いったいなんの催しなのだ」
 怪訝そうに、悠久ノカナタが上目遣いに緋桜ケイを見あげて訊ねた。不意に現れた巫女さんに、ちょっとびっくりしたことはうまくごまかしている。
「さあ、行ってみれば分かるんじゃないのか」
 まあ、今から説明するのも面倒くさいからいいかと、緋桜ケイが心の中でつぶやいた。責任は雪国ベアが取ってくれるだろう。
「では、御案内いたします」
 軽く会釈をして、巫女さんが二人を先導していった。すうーっと、まるですべるようにして先頭を進んで行く。さすがは、通い慣れている……のだろう。
 コオロギの鳴く宵闇の中、踏み分け道を進んでいく。
 古びた鳥居を……越えた。
 参道をゆっくりと登っていく。
 ゆらりゆらり、提灯の灯がゆれる。中の蝋燭が瞬くたびに、光の加減が変化して、巫女さんや緋桜ケイたちの姿を一瞬闇の中に手放しては、再び現に取り戻すということを繰り返していった。
 やがて、空京神社の社の一つが見えてくる。
 空京神社には多くの分社や社が点在しているが、これもその一つなのだろう。
「祭り……という雰囲気ではなさそうだが……」
 何か嫌な氣を感じて悠久ノカナタがつぶやいた。お祭りにしては、周囲が静かすぎる。聞こえてくるのは虫の鳴き声だけで、人の気配が感じられない。
「どうぞ、お入りください」
 そう言うと、巫女さんが提灯をたたんで、ふっと息を吹きかけた。
 蝋燭の明かりが消える。
 夜の帳ではなく、闇の帳が周囲にふわりと覆い被さった。
「ひっ」
 明かりを求めて、悠久ノカナタが必死の形相で社の中に入って行く。
「そこまで怖がらなくてもいいのに……」
 社の中から差す光に彫り深く顔を照らされながら、緋桜ケイが苦笑した。
 彼が中に入ると、巫女さんが戸を閉めた。懐から懸守の袋を取り出すと、中に入っていた御神札の束を手に取り、丁寧に扉や窓の合わせ目に貼っていった。
 
 
稲荷

 
 
「メガネを頼みます」
 空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)にそう頼まれたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、空京神社の一画にある空京稲荷にむかっていた。
 以前、鑑定団で禍々しいメガネを見つけたと言いはる空京稲荷狐樹廊が、それを自らの稲荷に埋めて封印したのだ。だが、その気配が突然なくなったのだという。
「たかがメガネを、勝手に呪われアイテムだと言いはっただけでしょうに。まったく、狐樹廊にも困ったものだわ」
 リカイン・フェルマータが、小さく溜め息をついた。呆れつつも、パートナーの心配をほったらかしにしておくのもいろいろとまずい。また変な思い込みで暴走されても困るからだ。
「ええと、確か、このあたりの御神木の根元に……、ええっ!?」
 空京稲荷狐樹廊に聞いていた場所に辿り着いたリカイン・フェルマータが、我が目を疑った。
 そこでは、御神木の注連縄がズタズタに切り刻まれ、何かを取り出したような穴がぽっかりと地面に口を開けていたのだ。
「いったい、誰がこんなことを……」
 近づこうとしたリカイン・フェルマータの足許で、何かがうねるようにして地を這っていった。
「ひっ」
 明かりを近づけたリカイン・フェルマータの顔が引きつる。そこに蠢いていたのは、ヤスデの大群だ。
「嫌ーっ、狐樹廊、あなたいったい何をしでかしたのよー」
 リカイン・フェルマータは、あわててその場から逃げだしていった。