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リアクション
お社
「ここで最後っと……。未知なるはすべて僕の眼前へ来たれ、ぐふふっ」
光学迷彩で姿を隠したニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)が、お社のあちこちに不気味なアイテムをおいてゆく。今、厠の中においたのは、泥にまみれて少し変形した古びた蒼空学園生のメガネである。
「これだけ呪いのアイテムをおいたら、絶対にでてくるよ。きっとナラカからも、たあくさん。楽しいなあ。これで、本当に百物語になるよ」
物陰に隠れて静かに和蝋燭のゆらめく明かりを見つめながら、ニコ・オールドワンドはつぶやいた。
★ ★ ★
「こ、これは、百物語の準備ではないのか」
「うん」
思いっきり顔を引きつらせた悠久ノカナタに、緋桜ケイは素っ気なく答えた。
「た、謀ったな! か、帰るぞ」
くるりと踵を返して出ていこうとした悠久ノカナタだったが、入ってきた扉の所で巫女さんに止められてしまった。
「だめです。もう、この場所は御神札によって封印が成されています。もしそれを破ったりすると、その人にどんな災いが降りかかるか……」
お札を剥がして逃げだしかけていた悠久ノカナタの手がピタリと止まった。
「災い……」
「ええ。例えば、急に肩のあたりが強張って重くなるとかあ……」
「ひ〜っ」
思わず、悠久ノカナタが両手を交差させて自分の両肩をつかむ。
「そういえば、最近とみに肩のあたりが重くなってきたような……。み、水子か!? 身に覚えはないぞ!」
いや、それはただの肩こりだろうという突っ込みを必死に我慢しながら、緋桜ケイが今にも暴れだしそうな悠久ノカナタを押さえた。
「あ、カナタさん、来てたんですねー」
出せと騒いでいる悠久ノカナタに、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が声をかけた。
「ソアか。ベアはどこだ。わらわを欺してこんなものに呼び出しおって」
「さあ、私も捜してるんですけれどー」
引きつりつつも憤慨する悠久ノカナタに、困ったようにソア・ウェンボリスが答えた。
「あやつめ、まだ白熊号のことを根にもっておるな。もうとっくにすぎたことだというのに。肝っ玉の小さい奴め!」
そう悠久ノカナタが雪国ベアを罵ったとたん、何かが彼女の足許にポトンと落ちた。
「今、何が……。ひ〜っ!」
足先に触れる嫌な感触に悠久ノカナタが視線を落とす。そこには、「カナタ」と描かれた紙が五寸釘で打ちつけられた藁人形が落ちていた。
「とにかく、いったん座って落ち着こう」
声も出せずに口をパクパクさせている悠久ノカナタを、緋桜ケイがなんとか広間へと引っぱっていった。すでに硬直している悠久ノカナタはなすがままである。
「くっくっくっ……。忍び寄るゆる族の恐怖! カナタめ、白熊号の仇、存分にとらせてもらうぜ」
光学迷彩で姿を隠したまま、雪国ベアは悠久ノカナタたちの後を追った。そして、もう一人、悠久ノカナタの身体を狙ってナラカからやってきた藤原 識(ふじわら・しき)が、音もなくその後に続いたのだった。
★ ★ ★
「いるな……。巫女さん、今、ここには……」
会場のいやでも怪しい雰囲気に、椎名 真(しいな・まこと)が巫女さんに告げた。会場には、目に見える参加者以外にも、たくさんの者の気配が充満している。
「ええ、たくさんの方がいらっしゃってますよ。だから、封印しないと大変なことに」
少しも動じることなく巫女さんが答えた。ちょっとさすがとしか言いようがない。これならば、まあ大丈夫だろう
「もし、御所望でしたらお守りをさしあげますが?」
「いや、そこまでは……。ん?」
逆に巫女さんに聞かれたとき、ふいに頭の中からノックするような感覚を覚えて、椎名真はいったん下がった。
『そのお守り、わしにもくれ!』
入れ替わるように木曾 義仲(きそ・よしなか)が巫女さんに懇願したが、奈落人である彼の言葉ははっきりと巫女さんには聞こえなかったようだ。ちょっと周囲を見回した巫女さんであったが、ふっと謎の笑みを浮かべるとその場を後にしてしまった。
『ああ、お守り〜』
なんだか唯一の防御手段を失った気がして、奈落人だというのに木曾義仲は広間の隅っこにいって膝をかかえてガタブルし始めた。
なんだか、何かが出るような気がしてとても落ち着かない。この雰囲気では、もしかすると、大昔に死んだ戦国武将とかが、血まみれの姿で背中や頭に矢を刺したままズルズルと徘徊するかもしれないではないか。これはやばい、絶対にやばい。
もっとも、彼自身が現在それに最も近い存在であることは、木曾義仲はまったく気づいてはいなかった。
『来るんじゃなかった、来るんじゃなかった……』
はっきり言って彼はこの場に彷徨い出てきてしまった奈落人としては例外中の例外である。
ニコ・オールドワンドが配置した忌むべき物が招き寄せたのか、あるいはこの場に集まった者たちの思いが引き寄せたのか、あるいは別の何者かの意志か……。とにかく、この場は一時的にナラカと繋がってしまったようだ。とはいえ、無制限に口が開いたわけではない。ここにいる者たちと特に繋がりの強いパートナー契約を結んでいる奈落人だけが、霊体のまま現世に彷徨い出てきてしまっているのだった。
「なんだ、諒か」
椎名真が、慣れ親しんだ奈落人の感覚に、パートナーの名を思い浮かべた。
『よう。面白いことやっているようだな。ひとつ仲間にいれてくれるか』
「おや、憑依していないのかい?」
いつも椎葉 諒(しいば・りょう)に憑依されたときの感覚とは違っているので、ちょっと椎名真が首をかしげた。
『ああ、姿は見えなくても、声は聞こえるようだな。今は貴様の前に立っているが、見切れるか? くくく……』
そうは言われても、パートナーだから存在を感じ、なんとか声が聞こえるという状態だ。普段だったら、憑依されない限りは、まったく知覚もできないだろう。
「どうなっているんだか。こういう怪談っぽいことにはかなり慣れたけど、なんだかとっても変なことになっているようだね」
『そのようだな。なんだか、このまま姿まで実体化できそうな気もするしな』
「それは、なるべく自重してほしいかな。ほら、怖がっている人もたくさんいるみたいだし」
椎名真が、佐々良 縁(ささら・よすが)と一緒にいる著者・編者不詳 『諸国百物語』(ちょしゃへんしゃふしょう・しょこくひゃくものがたり)の方を指して言った。
「百物語かぁ……。いいねぇ、夏らしくって〜」
すでに充分雰囲気を楽しんでいるような佐々良縁が、著者・編者不詳『諸国百物語』に言った。
「そんなあ、よくありません。なんで、百物語なんですかあ」
「あれ? 百ちゃんにとっちゃ、親戚みたいなもんだろぉ」
百物語同士、なんで怖がるんだろうかと佐々良縁が首をかしげた。
「そんなことありません。だいたい、何か起こったらどうするんですか」
「普通起こるでしょぉ〜」
「ぶふうっ〜」
にこにこと怖いことを言う佐々良縁に、著者・編者不詳『諸国百物語』が頬をふくらませた。自身が百物語を記した書物であるにもかかわらず、彼女は自信に何が書いてあるのかをちゃんと把握してはいない。だって怖いから……。
★ ★ ★
「どうしてもやるんですかあ」
「うん、もう帰れないみたい」
ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)をしっかりと膝の上にだきかかえながら神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が言った。
「明日香さんも来てくれていたらよかったですのに……」
もの凄く残念そうに神代夕菜が言った。神代 明日香(かみしろ・あすか)も誘ったのだが、メイド業が忙しく、今いる場所を絶対に離れられないからと強く断られてしまったのだ。今ごろは、ベッドメイキングでもして、せっせと御主人様の世話をしているのではないだろうか。
神代明日香がいてくれたならずいぶんと頼もしいのだが、ノルニル『運命の書』では、ちょっと、いや、ずいぶん頼りなくて、かなり不安だ。
「どうしたのですか。怖いのですか?」
「ま、まさかあ」
ちょっと引きつりながら、神代夕菜はノルニル『運命の書』に答えた。
「トイレに行きたいなら言ってください。ついていってあげます」
「うん、ありがとうね」
なんだか妙に大人ぶって言うノルニル『運命の書』に、神代夕菜はとりあえずお礼を言った。
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