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リアクション
第漆話 ゆる族の怪
「今度は私の番だよ」
なんとか混乱がおさまると、ソア・ウェンボリスが前に進み出た。
「今日は、『これ』についてお話させていただきたいと思います」
そう言うと、ソア・ウェンボリスが何やら古びた着ぐるみを手の上に広げた。
「見たことがある人もいるかと思いますが……『ゆる族の抜け殻』と呼ばれる、破れた着ぐるみです。
ある日、私、アイテムに詳しい購買のお婆さんに聞いてみたんです。『これって本当にゆる族の抜け殻なんですか』って。
……今にして思えば、聞かなければよかったです。
お婆さんは、『それは間違いなくゆる族の抜け殻だよ』って言った後、ある秘密を教えてくれたんです……。
実はゆる族の抜け殻は、正確にはゆる族の『死体』なんです。
よく冗談で『ゆる族に中の人などいない!』とか言いますけど……、本当にゆる族の着ぐるみの中には、人は入ってなくて、……代わりに、霊魂が入っているんです。
五千年前に亡くなったパラミタ人の一部は契約によって復活しましたが、別の方法――魂の器となる着ぐるみに入ることによって復活したのが、ゆる族だったんです。
そして、何らかの理由で着ぐるみが破れたゆる族は、そこから霊魂が漏れて死んでしまう……。
だから、ゆる族の抜け殻には、着ぐるみに戻れなくなった霊魂がまとわりついてて……、『身体がほしい……、身体がほしい……』って泣いているんです……」
語り終えて、ソア・ウェンボリスがふっと蝋燭を消す。直後、暗闇の中を何かが近づいてくるのを感じた。
「嫌な感じがします……、きゃっ!!」
ソア・ウェンボリスが、何かに軽く叩かれて、あわてて頭を押さえた。
「ぐっ……調子に乗りやがって!。んなわけあるか、御主人」
光学迷彩で姿を消していた雪国ベアが、ゆる族の尊厳をかけて、ソア・ウェンボリスに突っ込んだらしい。
『そっかあ。お部屋にあるぬいぐるみの中に入ることができたら、私もゆる族として復活できるのですね。でも、だったら、可愛いぬいぐるみがいいなあ。今度朔夜さんに取り憑いたら、とびっきり可愛いぬいぐるみを縫いましょう』
完全に勘違いした者が約一名誕生した。
「うっ、悪寒が……。桜さん、また何か悪巧みを……」
思わずブルンと身震いをして、笹野朔夜がつぶやいた。
第捌話 写真の怪
「それでは、ある写真の話をしたいと思う」
久途 侘助(くず・わびすけ)が、静かに語り始めた。
「写真は、皆、よく知ってるよな?
昔、日本では、写真の真ん中に立つと魂が抜かれると言われていた。
まっ、ただの迷信かどうかは想像に任せる。
が、そんな噂がたったら、写真屋は商売にならなくなる。
ってことで、写真の真ん中にいる者には、日本人形を持たせたんだ。
魂を抜かれる者の身代わりとして。
写真屋は、新しい技術でそりゃあ繁盛した。
そして、写真を撮るたびに、人形からは魂が抜かれていった。
使い古された人形は捨てられ、新しい人形が用意され、また魂が抜かれた。それが延々と続くんだ。
人形の魂は、どこへ行くんだろうな。
……ほら、お前の後ろにいる……その影は何だ?」
またかと、みんなが廊下の障子の方を振り返った。いきなりの振りだったので、タイミングを逸したアンネリーゼ・イェーガーと笹野朔夜が人影を出しそびれて悔しがる。
「さて、ここに一枚の写真がある。
写っているのはもちろん家族写真。真ん中の者は人形をかかえてる。
不思議な話だが、見る者によって人形の表情が変わるらしい。
人形がどんな表情をしているのか……。
……誰か見たいヤツはいるか?」
「はいはーい」
香住火藍が、元気よく手を挙げた。
「うっ、火藍ですか……」
久途侘助が、ちょっと嫌そうな顔をする。
「で、どんな写真なんですか?」
前に進み出た香住火藍が、久途侘助の持っていた写真をのぞき込んだ。
「あら、可愛い女の子が人形をだいて写っていますねえ」
「その人形に注目してほしい。どんな人形が写っているのかな」
「可愛らしいテディベアですよ」
ふっ、想定内だと久途侘助が心の中でほくそ笑んだ。別段ただの写真なので、見える物はその通りテディベアしかない。
「ちなみに、俺に見えている人形は……いや、言わないでおこう。世の中知らないでいた方がいいことも……」
「変だなあ、なんでこのテディベア、一つ目なんでしょう」
「へっ?」
横行にポーズをつけて香住火藍を怖がらせようとしていた久途侘助の身体が一瞬にして硬直した。
「えっ? 見えていないんですか。ほら、このテディベア、一つ目で、額に大きな角が生えているじゃないですか」
「そ、そんなはずは……」
久途侘助が写真を見なおすが、別段、写っているのは普通のテディベアだ。雰囲気を演出するために骨董品屋で買ってきた古写真なので、特別合成などもしてはいない。ただ、ちょっと、女の子の顔からテディベアの顔にかけて、茶色い染みがあるのが気にかかりはするのだが、古い写真なのだから別に珍しいことではないはずだった。むしろ、この染みの古さが味わいというもののはず……なのだが……。
「どれどれ。我にも見せるのだよ」
悠久ノカナタ(藤原識)が、写真をのぞき込んだ。
「おお、確かに。それにしても、ごちゃごちゃした集合写真だのう。みんな、じっとぬいぐるみを凝視しているではないか」
写真一杯に集まって写っている奈落人たちの姿を見て、悠久ノカナタ(藤原識)が酔狂だなという顔で言った
「いや、三人しか写っていないはずだが」
「またまた、御冗談を」
もともと三人の写真の話なのだから、写っているのは三人だけのはずである。
だが、悠久ノカナタ(藤原識)は違うとばかりに苦笑した。
なんだか、さっきと染みの形が違っているような気も、いや、なんだか目のような形に変わってきているような……。
「やばいかね、こりゃあ。終わり、終わり」
久途侘助は、あわてて蝋燭の炎を吹き消した。
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