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咆哮する黒船

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咆哮する黒船
咆哮する黒船 咆哮する黒船

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■■第三章








 そろそろ日が落ちようとしている浦賀湾であったが、構わず黒船による砲撃音が辺りに響き渡っている。
 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)柚木 瀬伊(ゆのき・せい)、そして柚木 郁(ゆのき・いく)が乗る船を沈めて、諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)は一呼吸着いた。
 それから傍らに立っている風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)へと視線を向ける。
 ――このようにして戦って、どうするのか?
 終わりが見えない気がして、終着点を模索するように孔明は、優斗を見る。
 そして問いかけようとした、その時の事だった。

――ドオォォォォォォォォン!!

 孔明と優斗が乗っていた船が傾く。
 砲撃したのは、黒船ヴィクトリーだった。
 乗船しているローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、傍らを航行している黒船クィーン・エリザベスに乗るグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)を一瞥してから、二隻の統一指揮をしているホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)の姿を探した。その途中で、海中にいるシルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)の姿が視界に入る。
 ローザマリアは、クィーン・エリザベスの援護を受けながら、他の敵黒船の同行に常に細心の注意を払っていた。行動予測で相手の出方を予想しながら、囲まれたり接近される前に先手を打って艦隊を動かしてきたのである。
 それが幸いして、こうして無事に航行できている。
 ここまでには、勿論接近戦もあった。
 だが接近戦を挑んで来る敵の黒船に対しては、距離を取って砲撃するように心掛け、その上で、それでも接近して来る場合は――引き付けておいてから喫水線付近や、黒船の外輪にて、イコン用爆弾弓をサイドワインダーで撃ち込み、難を逃れてきた。
 ――その上での、最後の手段としては、単身敵艦に乗込む事と手念頭に置いている。
 けれど現在までには、未だその最悪の事態は訪れてはいない。
「いざとなったら、光学迷彩で姿を消して、空飛ぶ魔法↑↑で敵艦に乗込みアクセルギアで対イコン用爆弾弓を撃ち込みまくり敵船を破壊し離脱……」
 そんな事を考えながら、ローザマリアは見方の様子と、次なる驚異の姿を伺っていた。

 その時、黒船ヴィクトリーの後方で、轟音が響いた。

 音を放った主は、ペリーの乗るサスケハナ号を攻撃している武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だった。
 黒船リヴェンジを強奪した彼は、その勢いのままに、ペリー達魚人を追い詰めようとしていた。
「ははは! 19の海、盗んだ黒船で暴れ回る。行き先は適当に……」
 そんな事を嘯いてから、牙竜は綺麗な緑色の髪を揺らし、半眼でサスケハナ号をみやった。
「最後は多くの人を巻き込んで自爆だ! 船の蒸気機関に機晶爆弾放り込んで盛大に爆発させる。大砲の火薬も引火してしまえ!」
 牙竜のそうした考えなどつゆ知らず、サスケハナ号の傍まで航行し、黒船ゼーアドラーから、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)、そして草薙 武尊(くさなぎ・たける)がペリー達の元へと飛び移ったのだった。
 その直後、リヴェンジが放った砲弾が、ゼーアドラーを大破させる。
 乗組員達は救命具をつけて、次々と海の中へと飛び込んでいった。
 一方のサスケハナ号の甲板上には、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)の姿が見て取れる。
 相も変わらずリヴェンジから砲弾が飛んでくる最中、ゆかりはスッと目を細めて、ペリーとセシルを見据えた。
 乗り込むまでの間彼女は、スウェーを身につけて防御力を上昇させていた。そしてリカーブボウの矢に、爆炎波と轟雷閃を纏わせ、破壊力を増した上で、機が熟すのを待っていたのである。
 ゆかりは、マスト部分を攻撃して、頭上から落下物を降らせた。
 魚人の水兵達がパニックに陥る。
 サスケハナ号へのボーディングは成功だった。
 ゆかりは続いて、遮蔽物の陰になる適当な場所に陣取ってそこからリカーブボウの、爆炎波矢と轟雷閃矢の攻撃を浴びせかける。
 暴れるようにもがき始めた魚人は、彼女の手によって次々と仕留められていった。
 一方のマリエッタは、ゆかりをカバーしながら、サンダーブラストとファイアーストームなどで豪快に黒船と、その乗員である魚人達を攻撃していた。
「すごいな」
 思わず呟いた武尊はといえば、セシルと正面から対峙していた。
「――所で、こんな事をしていったい何になるというのであろうか?」
 武尊が覚めた瞳で冷静に訊ねると、セシルが僅かばかり困ったような顔をした。
 彼女自身は、上手く言う事を聞かせる事が出来たら、ペリーを配下に置いて黒船で暴れさせようと、単純に考えていたに過ぎないし、言うことを聞かせられなかったら――とりあえず全員ブン殴ったり、海に放り投げたりした後に、適当に操縦しようとしてみようと考え――兎に角、普通の船なら彼女自身が操縦できることもあって、『まあ何とかなるでしょう』、とノリと勢いで、ここまでやってきてしまったというのが真相だった。
 寧ろ船が動かなければ未だ良かったのかも知れない。
 ――動かなければテキトーにそこらへんのレバーをガチャガチャやったり。
 と、セシルは考えていたのだから。
「……とりあえずね、フォークナー海賊団の部下になったペリーさん的に、開国したいらしいんだよねぇ」
「日本は既に開国しているであろう」
「だから私も良く分からないんですわ」
「分からないって、船長であろうが――……危ない!」
 そこへ再びリヴェンジから大砲が飛んできた。
 咄嗟に敵方(?)のセシルを助けてから、武尊は、海を闊歩する黒船を睨め付けた。


 一方の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、勢いのままに、黒船天城プッロを視界に認めていた。
 両船は、一列に並ぶので、牙竜から見ると、天城が一隻だけ突っ込んで来るように見える。
 彼は、天城を見て腕を組む。
 既に敵の攻撃を受けてボロボロになっているかのようなその出で立ちは、混乱を誘った。
「あれ? 先にこいつをトドメ刺した方が早いんじゃないか?」
 牙竜の呟きが海に熔けようとしたその時、天城の上甲板に設置された機関銃が火を噴いた。スキルの弾幕援護を用い、天城 一輝(あまぎ・いっき)が、牙竜を牽制しつつ突入する。

 ぼろ船に見えたのは、ハウスキーパーを用いたコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)の手による偽装である。

「なっ」

 天城は、そのまま体制を変えた。その為、リヴェンジに乗っていた牙竜は思わず声を上げる。
 天城は、リヴェンジの近くで回頭90度した。この時、外側に向かって転覆するかのように大きく傾くが、それだけの運動エネルギーは、多少の波濤を充分に無視してみせた。
 さらに大砲を全門一斉射撃した時のエネルギーで相殺し、安定した射撃を開始する。
 続いてシャープシューターとスナイプが放たれた。
 そこへ、ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)の乗る黒船プッロが同時砲撃を始める。
 その時、クロスファイアを使う契機が生まれた。
 ――『十字』ではなく『交差』させる事で砲弾を干渉させ、兆弾と化した砲弾は摩擦熱により回避不可能の全体攻撃の効果を生む。
「……そうこれが『クロスファイア』だ」
 そう口にした一輝は、リヴェンジに飛び移り、さながら『第一次ポエニ戦争』の実況といった風情のこの戦況の実況中継を始めたプッロを一瞥しながら、静かに笑う。
 すると、天城の上空で観測係をしていたローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)が、一輝に声をかけた。
「他の船が――」
 手にしている女王のソードブレイカーを握り、反撃しようか思案している様子で、ローザが言った。

 しかし、その直後、天城もまた傾いた。

 フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)戸次 道雪(べつき・どうせつ)の乗った黒船が突撃してきたからである。
「確かに、今は真昼間だけれど……段々日没が近づいてきたとはいえね――まあいいさ。そんな事よりも、早いとこあのその他大勢を討ち平らげ、今夜は鮪で祝勝会といこうじゃないか」
 フィーアはそう返答すると、グラスに酒を注ぐ。
「乾杯!」
 乾杯――プロージットと、道雪に対して杯を掲げてから、フィーアは中身を飲み干した、
 それからグラスを床に叩きつけて割る。
「僕は鮪を盗みたいんじゃない。奪いたいんだ」
「駄目じゃこの娘子……早う何とかせんと……」
 道雪が丁度そう呟いた時、汽走戦列艦ナポレオンによって、二人の船は砲撃され、沈没した。


「おお! あれは、リヴェンジではないか!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が操縦し、ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が乗り移ったばかりの黒船を見とがめたアンリ・ド・ロレーヌ(あんり・どろれーぬ)が声を上げた。
 興奮しているアンリを後目に、フラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)が冷静に目測する。
「第一の目標は、サスケハナ号――外観・総トン数2450、最大速力10ノット、兵装20.3cmパロット式ライフル砲2、22.9cmダルグレン式滑腔砲12、7.62cmライフル砲」
 そう口にしてから、フランは腕を組んだ。
「攻略するには、トン数で掛かる砲衝撃を緩和しつつ、速力と機動性でサスケハナを勝る部分に重きを置いて、船尾に回りこみ22cm32+アルファ基搭載のペクサン砲&ダールグレン砲でトドメを刺す――どうかな?」
 しかし聞いていない様子で、アンリは興奮している。
 思わず唇を尖らせながら、フランは、沈みかけている独籍らしい黒船ゼーアドラーと、好き放題砲撃している黒船リヴェンジを見据えた。
「第二の目標――英国の軍艦等――ゴールデン・ハインド号じゃないのが残念だけど。ええと、外観はフランスの船より30年は、建艦技術で劣り、ドイツは1世紀も遅れて居るじゃん!」
 腕の袖をまくりながら、フランは続ける。
「こちらの攻略は――」
 それにかぶせるようにルイ・デュードネ・ブルボン(るいでゅーどね・ぶるぼん)の声が響き渡った。
「ガレオンなんぞ、総搭載砲数90門の敵ではないわ! 構わんから吹き飛ばしてやれっ!!」
 なお彼らが乗船している汽走戦列艦ナポレオンは、ラ・ナポレオン・ロワイヤル(?)である。艤装は22cm、ペクサン砲32、22cm、ダールグレン砲、他30、速力14ノット、総トン数5120トン、120ミリ錬鉄装甲を採用している。
「確かにあのリヴェンジの動き、なんだか危ないし、サスケハナ号よりも先に狙った方が良いかも」
 英断を下したフランは、ヒロイックアサルト――太陽王の降臨を得意のダンスで表現中のルイの横で、砲撃を行うことにした。

――ドオォォォォォォォォン!!

 こうして、黒船リヴェンジは海深くへと、沈んでいった。
 その光景に安堵していた汽走戦列艦ナポレオンに衝撃が走ったのは、その直後のことだった。
 乗船していた一同が振り返ると、そこには旗艦ヴィクトリークィーン・エリザベスの影が見えた。
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の根回しにより、予めローザの持つ対イコン用爆弾弓から取り外した対イコン用爆弾を持てるだけ持って海へ飛び込んでいたシルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)のあげた成果である。汽走戦列艦ナポレオンは、バランスを崩し始めた。
 鯱の獣人であるシルヴィアは、獣化し海中を鯱の発揮し得る水中に於ける最高速度で目標まで一気に駆け抜けたのだった。そして、標的の黒船に近付いたら遍く艦船の絶対的な弱点――竜骨のある艦底部中央に爆弾を仕掛けたのである。
 その作戦が見事成功したのだった。
 そのまま急速に離脱し十分離れた彼女は、破壊工作と機晶技術で遠隔爆破したのである。
 爆破後すぐさま水中深く潜り、次の標的を探しつつ、一息つく為に水面に顔を出したシルヴィアは呟いた。
「あたし達、海軍特殊水中工作班の御家芸なんだよ?」

 そうした光景を見守っていたらぶりーえんじぇる号は、いよいよ仕掛ける決意を固めた。

「なんだろう?」
 ひっそりと近づいてくるらぶりーえんじぇる号の陰影に、旗艦ヴィクトリーにのるローザマリアと、クィーン・エリザベスにのるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が振り返る。
 そこには、全員目深に帽子を被り、マントの隠れ身で乗員が乗っている事を悟らせない用にしている為、さながら幽霊船のような雰囲気の黒船があった。
 近づいてくれば、確かに船員が射るらしいことは分かったが、乗員が誰かは判別できない。
 その時ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)の、朗らかな声が響き渡った。
「後で元に戻してあげるから、少し我慢しててね〜」
 宮殿用飛行翼で飛び立ち、隙をついてクィーン・エリザベスの黒船の操舵手の傍へと降り立った彼女は、『我は科す永劫の咎』を用いて石化させた。
 それとほぼ同時に、夜霧 朔(よぎり・さく)が、レーザーガトリングと六連ミサイルポッド×2によるスプレーショット及び弾幕援護を撃ちまくった。とはいえ、撃ちまくるとは言え、シャープシューターとスナイプ、そしてとどめの一撃を併用して攻撃するという、一発一発がそれぞれ急所を狙った鋭いものである。撃ち終わった後朔は、ミサイルポッドの武装解除を行った。計画には、不要であるので、飛び立つ前にパージを行ったのである。
「事実にも破壊にも感情は不要、ただ在るのみ、行うのみ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、ゴーグルをつけ目を守りながら、状態異常対策の為の虹のタリスマンを弄びつつ呟いた。投げ出されぬよう手摺の横に立っている。
 彼は殺気看破やイナンナの加護を活用しつつ、神の目で敵の隠れ身を暴露、連絡はテレパシーやHCを用いて、行動予測で読み合いに勝ち、此処までやって来た。
 ――防衛計画も活用し、海戦を制そう。
 彼はそう決意した。
 そしてダリルの指揮で全員が一つの獣の様に連携して動きはじめる。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、スキルの先制攻撃での砲撃と、エンドゲームによって先手を二手取った。その上で、嵐のフラワシと焔のフラワシを用いる。それを見守ってから、ダリルとカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、ジェットドラゴンの炎や光閃刃で攻撃し、同時に目晦ましを行った。
 旗艦ヴィクトリーに乗っているローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)達が、目を覆う。続いてカルキノス達の手による崩落空がもたらした畏怖がその威力を発揮した。その動揺が水面を伝い、クィーン・エリザベスを飲み込んでいく。
「他船が『偶然』盾になるのはバトロワの必然だ」
 そう嘯いたダリルの正面で、クィーン・エリザベスヴィクトリーらぶりーえんじぇる号の間で、体勢を崩したのはその直後のことだった。
 沈みゆく船を見守りながら、カルキノスは、海中に潜水していた。指輪で水中呼吸の問題を克服し、暗視で海中においても視野を確保している。カルキノスは、敵の船腹に黒のリンガをドラゴンアーツの怪力で疾風付きし、行動阻害を狙った。
 それとほぼ同時に空爆音が辺りに谺する。
 ――これで動きを抑え、腹へ、キメ技の機晶爆弾付きラムアタックをかまそうって訳だ。
 内心そう考えたカルキノスの頭上を、その時朝霧 垂(あさぎり・しづり)と朔が空爆の為に飛んでいった。
「ここだ!」
 声を上げた垂は、朔の背中に乗った状態で飛び、クィーン・エリザベスの上空にいた。
 真上に到着した所で、垂が一人で落下しながら乗船を試みる。
「黒船だぁっ!! WRYYYYYYYYYY!!!」
 落下の途中で、自身の所持している黒船を物質化しながら、彼女は叫んだ。
 曰く――一度、言ってみたかったんだ、との事である。
 彼女が見守る中、上空から激突した黒船は、クィーン・エリザベスを沈めるに至った。
 それを眺めながら、垂自身は黒船同士がぶつかる直前に離脱し、再び朔の背中に乗って、その場を離脱する。そして己達の黒船へと戻っていったのだった。
 垂達の帰還を確認しながら、夏侯 淵(かこう・えん)が呟いた。
「慣れ親しんだ合戦の空気とカルキの荒ぶる力の発動に高揚を禁じえぬ。地球を開国するのは、感慨深く名誉な事。勝利し、全ての黒船の遺志を継ぎたいものだ」
 その時、沈められた黒船から逃れた人々が叫び声を上げた。
「「凶悪だ! 悪魔か!!」」
 本日何度目に聞くとも知れない、誰が叫んでいるとも知れない声である。兎角海から響いてくることが多い。
 その声に、ルカルカや垂が、例の如く反論する。
「「「違う。らぶりーえんじぇる!」」」
 それを見守り淵は、顔を背けた。
「俺は船名は言わん。『淵じぇる』等と歴女とやらに言われるのも含め、恥ずかしいゆえ……」
 歴史上の人物故の苦悩だろう。

 このようにして、黒船同士の争乱は、朝霧 垂(あさぎり・しづり)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)達の手による、らぶりーえんじぇる号の勝利で幕を閉じようとしているかに見えたが――。

 その時沈みゆこうとしている、ペリーの乗ったサスケハナ号が、一足早く”開国”――と称して、異界への門を開こうとしていた。
 サスケハナ号へと慌てて近づいていったのは、桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)、そしてミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)、また七瀬 歩(ななせ・あゆむ)伊東 武明(いとう・たけあき)が乗る黒船である。
「その開国、ちょっと待って」
 円の声に、沈みゆくサスケハナ号の動向を見守っていた、垂とルカルカが顔を向ける。
 そこで歩が援護をし、恐れの歌で戦意を喪失させる。
「開国すると、力を手に入れる事は出来るらしいんですが――その後、異界へと繋がってしまうようです――兎に角、大変なことになるようです。……黒船は、黒船でしか壊せない……サスケハナ号を沈める為には、黒船の大砲が必要です」
 武明が冷静に、ルカルカ達に事態の説明を始めた。
 それを見守りながら、オリヴィアが、空飛ぶ魔法↑↑と異国の没薬を使用して、皆の自由度とSP回復手段の獲得を図る。そこへ、サスケハナ号から砲撃が飛んできた。
「きたか」
 オリヴィアは、銀色の髪を揺らすと、手際よく操舵を始めた。
 まずは、45度で――アイスフィールドと氷術を使い、砲撃から黒船を逸らす。
 続いて、アイスフィールドを斜めに構え、砲撃を単に防御するだけではなく、受け流す。
「次は、90度」
 次々と砲撃を交わしながら、オリヴィアは次第に、船の沈没よりも開国に注力しているせいか、無我夢中で攻撃してくるサスケハナ号の様子に舌を巻いた。
「沈みそうなのに、中々沈まないんだよね」
 運転をオリヴィアに任せ、円が、機晶スナイパーライフルでスナイプとエイミングを使用し狙撃する。狙撃ポイントは、大砲の枠の下だ。上手くヒットし、亀裂が走る。
「黒船の大砲で浸水させれば後は自然と沈むかな?」
 円の問いに、オリヴィアが唇を噛む。
「既に浸水しているようだから――難しいかも知れないわね」
「じゃあ、自爆させるように狙ってみよう。黒船の攻撃では沈むんでしょ? 自爆でもね」
「確かにそうかも知れない。だけど向こうからの砲撃も酷いというか――まぁ、どうしようもないわね」
 流石に防ぎきれなくなってきて、オリヴィアはブリザードで氷の塊を作り出した。その時丁度、水中からも泳ぎながら、魚人が襲ってきたので、その氷は、良い防御となった。オリヴィアは、夜霧のコートで霧となり、魚人の攻撃を透過すると、逆に切り返す。
「ミネルバ、右」
 それまで鉄の守りを起動し、守備を固めていたミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)に、オリヴィアがディテクトエビルを使用し知り得た驚異を示唆する。
「オリヴィアだよりだねー! 方向はこっちかー。回避回避ー。エビルさん超便利ー」
「静かに、乗り込んできてるわ」
 オリヴィアが嘆息する。
「じゃあ、円と変わるー。ミネルバちゃんも接近戦ー!」
 ミネルバのそんな声を聞きながら、円が慌てて操縦を代わる。
 すると隣で、円のDSペンギン達と共に、武明が砲撃を始めた。
「おお、ペンギンの水兵さんが、砲撃要員。伊東さんも頑張れー」
 ミネルバはそう言うと、魚人を斬り捨てた後、周囲に効果をもたらしている空飛ぶ魔法↑↑の効果を利用して、サスケハナ号へと乗り込んだ。外輪だけをレーザーブレードで壊していく。
 そこへ、歩が支える横で、武明が砲撃を放った。
「やった、かな……?」
 円が呟いた、その時のことだった。が、その砲弾は、運悪く近海で戦況を見守っていたらぶりーえんじぇる号の船体を傷つけた。らぶりーえんじぇる号に乗船していた面々は、カレーの鍋を手に待避を余儀なくされる。
 その時、サスケハナ号の傍にあった暗礁の上へと、ペリーが這い上がり、奇声を発しはじめたのだった。


「困りましたわね、黒船が皆沈んでしまいます」
 唯一残っている円と歩の黒船を一瞥しながら、”開国”を果たそうとしているペリーに視線を戻し、ベイバロン・バビロニア(べいばろん・ばびろにあ)が嘆くように呟いた。歩達にした所で、魚人達に正面から襲われている為、中々とどめを刺すことが出来ない状況であるらしい。
 サスケハナ号は自爆しかかっているようだったが、このまま時間の経過に任せるのでは、僅差で”開国”までに間に合わない可能性が高い。
「どこかに黒船が残っていないかしら」
 ベイバロンの言葉に、操舵しながら瓜生 コウ(うりゅう・こう)が嘆息した。
「此処に残っているだろう」
「なるほど、コウの黒船がありましたわね。でも、どうするのです? 今から砲撃して、上手く間に合うかどうか――何せ、予言をしたのは貴方自身ですもの」
「開国を阻止すればいい。恐らく願いが先に叶うはずだ。だから、開国はせず 世界の果てにあるという魔境GUNMAを目指して航海に出ることを願いとする」
「群馬?」
「魔境GUNMAだ」
 コウはきっぱりとそう応えると、大荒野などでかき集めた仲間と共に浦賀湾で黒船を進めていった。掲げられたジョリー・ロジャーが、再び吹き始めた風に揺られている。黒地に白で、髑髏と二本の大腿骨があしらわれた海賊旗を目印に、コウ達の乗る黒船は、単艦で戦いを挑む。
「あの方達は、一体どこから?」
「大荒野、等、だ。高地民族っぽいのと羽根が生えてるのがそうだ、きっと役に立ってくれるだろう。このために、所謂ハイランダールール故に相応しい連中もつれてきたんだ」
 ハイランダー・ルールとは、ある種のカードゲーム等の規則の一つで、『一人生き残ったものが全てを得る』という戦いを指す。
「それで、具体的にどうやって戦うのですか?」
 ベイバロンの問いに、コウは小首を傾げて、短く息をつく。
「『とある魔術の超破壊工作』――イタリア語で言うtiro finale――機晶を用いる」
 ようするに、最強最大究極奥義技を用いた最後の砲撃を行う作戦である。マスケット銃クラスではなく、それこそ黒船の大砲を用いたような、究極の一撃をティロ・フィナーレと言う。
「つまり?」
「大砲に弾として機晶爆弾を詰め、火術による爆発力強化と雷術による電磁加速を利用して撃ち出す準備をしている――だがこの策は、砲への負荷も高い」
「だからこその最終砲撃……すなわち英語で言うラストシューティングなのですわね」
 ベイバロンの言葉に頷き、コウはサスケハナ号へと立ち向かった。
 襲いかかってくるペリーの仲間の魚人達は、羽根が生えているものや、高地民族っぽいもの達が、次々と薙ぎ払ってくれる。
 時折、剣と剣が交わる高い音が響き、振り払われた白銀が浦賀湾の水面を騒がせた。
「もう、何も怖くない――!」
 コウは、そう叫ぶと、とある魔術の超破壊工作を行った。
 ――色々と言っているが、要するに彼女は黒船で砲撃したのである。

――ズドオォォォォォォォォン!!

 それが、クリティカルヒットとなった。
 こうしてサスケハナ号は、沈没した。
 だが、時同じくしてペリーの声が響き渡る。
「いあ るるいえ くとぅるう ふたぐん いあ いあ!」

「……開国してしまいましたわね」
 ベイバロンが呟くと、沈みゆくサスケハナ号を嘆かわしそうに見据えながら、コウが俯いた。
『――願いは?』
 どこからか、人ならざる声が、直接響いてくる。
 明確にそれは生物の声帯の発する音とは異なる忌まわしき音だったが、耳にした者にはその意図が伝わってくる。
「っ、世界の果てにあるという魔境GUNMAを目指して航海に出ること!」
 コウが声を荒げて応えると、ゆっくりと海賊旗をはためかせ、黒船が動き始めた。
 沈もうとしていたサスケハナ号は、何か深淵よりあり得ざる力を得たようで、動力を取り戻した様子で、コウ達の乗る黒船の後ろに続き、ゆっくりと航海を始める。
 続々と魚人達がそこへと集まっていき、最後には、浦賀湾にいて生き残っていた魚人達は、ペリーを筆頭に、皆、サスケハナ号へと乗船したようだった。
「やはり、予言とは成就してしまうものなんだな」
 俯いたコウの隣で、ベイバロンが穏やかに笑う。
「たまにはゆっくりと船旅を楽しむのも良いではありませんか。それより――魔境に着いた後はどうするのです?」
「着きはしない。GUNMAに黒船がたどり着くことはない。GUNMAには海がないからな」
「……では、一体どのようにして私達は帰るのですか?」
「大丈夫だ、きっと。不吉な結末の未来を夢には見ていないし、予言もしていないんだから」
 不思議と悪い結果にはならないように思いながら、コウは自身が予言した内容を回想する。
 ――星辰正しき折に『海から来るものども』の蠢動の気配も感じはしたものの、一生船旅を続けるというような未来は視ていない。
「もうすぐ日没だな」
 そう述べて顔を上げたコウは、夕日で煌めく海を眺めて、微笑したのだった。