リアクション
公開録音会場前 「あたし、強くなって戻ってくるから……」 一瞬立ち止まってから、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)は振り返ってつぶやきました。背後の空京大学のホールには、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)たちがいるはずです。 「きっと、羽が生えて強くなって、魔法少女とスカイトレーダーを極めたら、旅から帰ってくるから……」 そう決意を新たにすると、リリィ・シャーロックはその場を後にしていきました。入れ替わるようにして、人々がホールを目指して集まってきます。 今日は、空京大学の音楽ホールでラジオの公開録音があるのでした。 「ふふふふふ、わらわに感謝するのだぞ」 ぴらぴらとチケットを見せびらかせながら、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が緋桜 ケイ(ひおう・けい)とソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)たちに言いました。 「さすがはカナタだ。しっかりとゲットしていただなんて」 緋桜ケイが、ここはとりあえずヨイショしておきます。実際、公開録音があると知って、あわてて応募したのですが、こちらはうまくゲットできなかったのでした。 「ふふふふふふふふふふふ、常連リスナーのわらわに、抜かりなど、絶対にない!」 悠久ノカナタが勝ち誇ります。 「ということで、さっさと入ろうぜ」 ひとしきり悠久ノカナタがしゃべったからもういいだろうと、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がホール入り口を目指してさっさと歩き始めました。 「はーい、公開録音にいらした方は、こちらにチケットを提示してくださーい」 派手なチャイナドレスに魔女の帽子を被った日堂 真宵(にちどう・まよい)が、入り口でもぎりをしています。 「御苦労。さあ、通すがよいぞ」 これ見よがしにチケットを見せて、悠久ノカナタが胸を張ります。 「はいはい、四人様ですね。さっさと……いえ、ゆっくりと中にお入りくださいませ」 日堂真宵が、こいつはどのペンネームの奴だという目でじとじとと四人を見つめながら言いました。 だいたい、いつもバイトの下読みで変なハガキばかり読まされているのです。ここは一発ガツンと、「貴様のハガキは没だ!」と面とむかって言ってやりたいものです。でも、やっぱり、顔とペンネームは今ひとつ一致しませんとさ。悔しいです。 「あのー、楽屋はこっちだよね?」 アコースティックギターをかかえた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、日堂真宵に訊ねました。 「あー、チケットないと、入れませんよ」 素っ気なく日堂真宵が言います。お客様以外は、ただのモブです。 「いえ、今日は歌を歌いに来たんだもん」 「ああ、ゲスト。じゃあ、中に入ったら、右奥の関係者以外立ち入り禁止と書いてあるドアに入ってください。そこが楽屋になってますんで」 そういえば、ゲストも来るからとシャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)に言われていたのを思い出して、日堂真宵が騎沙良詩穂に指示しました。 「土方さん。よければ案内してもらえる?」 「うむ、いいだろう」 手隙に見えた土方 歳三(ひじかた・としぞう)に騎沙良詩穂を預けると、日堂真宵はまたもぎりに専念しました。 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)たちが、ぞろぞろとやってきます。 「チケット確認させてくださーい」 「はーい」 日堂真宵に言われて、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)がチケットを見せます。 「はい、いいですよ」 「今日は、珍しいゲストが来ているんでしょうか。なんと言っても、公開録音ですし」 「さあ、それは、ひ・み・つ……だよ」 非不未予異無亡病近遠に聞かれて、思いっきり科を作って日堂真宵が答えました。似合いません。 「お楽しみは、ちゃんと待つものであろう」 気が早いと、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が非不未予異無亡病近遠をたしなめました。 「早く行きましょうでございます」 それよりも席取りだと、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が走りだそうとしました。 「ハーイ、会場内では走ってはだめデース。そして、これがパンフレットとその他諸々デース」 アルティア・シールアムの前に立ちはだかったアーサー・レイス(あーさー・れいす)が、今日のパンフレットと諸々のおまけグッズの入ったバッグを手渡しました。 中には、空京のカレーショップマップと、空京大学学食のカレー食券と、シャレード・ムーンのプロマイドをかねたパンフレットが入っていました。 「ほら、進行表にゲストが印刷してあるのだよ。ええと……」 パンフレットに目を通しながら、イグナ・スプリントが言いました。 「どれどれ、おおっ、アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)前学長他がゲストで来場となってる。これは楽しみですね」 ゲスト一覧をのぞいた非不未予異無亡病近遠がちょっと驚いて言いました。そこには、各校の校長やら有名人の名前がたくさん列記されています。もちろん、アーサー・レイスのはったりです。こうして書いておけば誰か一人ぐらい来るかもしれません。もしきたら、自分の手柄にするつもりなのでした。しかし、世の中そうは甘くはありません。 「これは楽しみですわ」 「わーい、早く行こうよ」 ユーリカ・アスゲージとアルティア・シールアムは信じちゃってます。かわいそうに……。 |
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