なし

リアクション

　ノリコの叫びが自分たちに対する指示だと――正直四人とも、一瞬気付かなかった。音が耳を通過してから脳にたどり着くまで、脳がその情報を処理するまで、それぞれタイムラグがあった。
　が、やっとノリコの言葉を理解すると、グラキエスとエルデネストは顔を見合わせ、背中の翼をはためかせて素早く飛び上がった。
　二人が巨大な熊の対処に当たるのを察したレリウスとハイラルは、舞台の上の少女――房内の確保に向かう。
「な、なんじゃぁああ！」
「なにをするのじゃ！」
「ああっ、コラやめろ！」
　仮面を付けた三人がそれぞれ、パフォーマンスの妨害を阻止せんと、警備の四人に相対する。
　しかし、エルデネストの全身からおぞましい気配が立ち上ると、房内はうっと口ごもる。巨熊と変熊の方はあまり意に介していない様子だが、それでも少し勢いが落ちた。
　追い打ちを掛けるようにグラキエスがヒプノシスを放つと、房内はその場に円くなって寝息を立て始める。イオマンテの方はかなり抵抗しているが、それでも睡魔への抵抗でいっぱいいっぱいという様子だ。変熊仮面はとっくに高鼾。
「こちらは我々が」
　空中組の二人にレリウスが手を振る横で、ハイラルが房内をそっとマントにくるんで抱きかかえてやる。せめてもの優しさだ。
　一方グラキエス達は、イオマンテの両脇に回り込んで太い腕を掴むと、そのままずりずり何処かへ引きずっていく。
　舞台上のノリコがスタッフを呼び出し、呼ばれて舞台裏から飛んできた白銀昶は事態の収拾の為に走り出す。
　そんなゴタゴタした時間が少しだけあってから――

「えー、裸のキャラクターのコスプレをするときは、他の人に不快感を与えないよう、肌色レオタードなどでしっかり対策してくださいねっ！」
　ノリコが無理矢理その場を纏めた。



　とんだハプニングがあったものの、なんとか舞台の進行は元のペースを取り戻した。
　全ての参加者のパフォーマンスは一応、これで終わったこととなる。
「さあ、今一度、参加してくださった皆さんに大きな拍手を！」
　北都が合図をすると、今日コンテストに参加した全ての参加者――退場処分となった二人（？）を除く――が舞台上に整列した。
　気合いの入った完成度の高い衣装がずらりと並ぶと壮観だ。
「それでは、結果の発表です。採点は衣装、パフォーマンスの観点から行われ、パフォーマンス部門賞、衣装部門賞、そして総合優勝が選出されます」
　北都が、採点結果が書かれた紙を封筒から勿体付けて取り出す。
「まずはパフォーマンス部門。スキル不足を見事にアイディアで補ったことが大きく評価されました。魔法少女ルピナスフィアの見事な変身シーンを再現した、ネージュ・フロゥさん！」
　ぱっとスポットライトがネージュを照らし、客席からは喝采があがる。
「えー、ちなみに次点は藤原優梨子さんでした。ケルト文化への造詣、小道具を有効に使った演出が評価されましたが、客席の盛り上がりの点でマイナスが響きましたねー」
「それでは続いて、衣装部門です。こちらは、見えない部分や小道具の一つ一つにまでこだわり抜いた、金元なななさんと団長コスで魅せてくれました、ルカルカ・ルーさんとダリル・ガイザックさんのお二人です！」
　今度はライトがルカルカたちを照らし、客席からも惜しみない拍手が送られる。
「非常にレベルの高い仕上がりでした。ただ、パフォーマンスに凝りすぎて、時間が少しオーバーしてしまったのが勿体なかったですねぇ」
　ノリコがしみじみと解説を加えるのを聞いて、そっかぁ、とちょっぴり悔しそうな表情を浮かべるルカ。
「さあ、そしていよいよ総合優勝の発表です」
　厳かにドラムロールが鳴り響き、スポットライトが舞台上を行き来する。
　息が詰まるような沈黙。
　どん、とファンファーレと共にスポットライトが一人を照らし出す。
「完成度の高い衣装と細部までのこだわり、そして何よりも抜群のなりきりっぷりをみせてくれました、セイニィ・アルギエバこと、シャーロット・モリアーティさん！」
　ツインテールの髪をゆらして、シャーロットは信じられないとばかりに周囲を見渡す。
「おめでとうございます、今の心境は？」
「あ、あの、えっと……あ、ありがとうございます！　べ、べつにうれしくなんかないんだからっ！」
　嬉しさのあまりか、ツンデレ具合がすこしぎこちない。
　もとよりシャーロット自身は、しゃべり方も丁寧で、どちらかと言えば穏やかな性格だ。
　それがここまでの変貌をみせたことが、高く評価されたようだ。
「受賞者のみなさんに、盛大な拍手を！」
　受賞した三組には表彰状と小さいものだがトロフィー、それから観客からの盛大な歓声と拍手が送られた。
　こうして、空京コスプレコンテストは無事に幕を下ろしたのだった――