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リアクション
さて……コンテスト会場で恐ろしい事件が起こる、そのほんの少しだけ前。レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)とハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)の二人は、公園内の見回りを行っていた。
コスプレ参加者に紛れられるよう、二人とも結構しっかりコスプレしている。
レリウスは、高襟のジャケットとドレスシャツを纏い、髪をオールバックにした吸血鬼風。
ハイラルは、青いベルベット風の素材で出来たゴシックなジャケットに、大きな黒い帽子を被って海賊の船長風。浅黒い肌によく似合っている。
「殺気看破にかかる不穏な気配はなし。公園内の鳥や草花も異常は感じていないようです」
レリウスは周囲への警戒を怠ることなく見回りを行っている。人が多い所為で見通しが悪いけれど、それすら、どんな状況でも目標を発見できるようになるための訓練だと思っている。真面目なのだ。
「なんつーか、やっぱ真面目だなー……手伝いなんかしないで、コンテスト出ればよかったのに」
ハイラルが茶化すように言うと、レリウスはむっとした表情をパートナーへ向ける。
「はいはい、お前はそう言うの苦手だもんなー……お、グラキエス達だ」
レリウスの堪忍袋の導火線に火が点きそうだと悟ったハイラルは、丁度良いタイミングで友人達が通りがかったのをいいことに、話の矛先をそちらへ向ける。
おーい、と軽く手を振ってやれば、通りがかったグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の二人が足を止めた。
二人とも、ハイラルと同じように手伝いで警備に当たっている。目立たないようコスプレをして。
グラキエスは、普段は滅多に着ない露出度の高い、ゴシックパンク風の衣装。ベストは脇に大きくスリットが入り、辛うじて、渡された紐やアクセサリーがパーツ同士をつなぎ止めているという感じだ。前も開いていて、肌が大胆に露出している。お情けのようにショールが巻かれて、眺めのグローブとグリーブが、少しでも露出を減らそうとしている。
その背中からはネロアンジェロと名付けた、黒い強化光翼が生えていて、ついでに悪魔の角までついている。見た目はもう、立派な悪魔だ。
一方のエルデネストもまた悪魔風の衣装だが、こちらは飾り縫いの入った貴族風の長衣。元々種族が悪魔なので、それくらいしないとコスプレ気分にならないのだろう。地獄の天使と悪魔の羽で、パートナーとおそろいの演出だ。
普段はグラキエスが主だが、今日は衣装の雰囲気の所為で、それが逆転しているようにも見える。
「あれ、今日はお二人ですか?」
前回同行したときはもう一人、魔鎧のパートナーを連れていたはずだ、と思い、レリウスがグラキエスに訊ねた。
「ああ……彼なら、ここだ」
グラキエスは苦笑すると、身につけているショールと手袋を順番に指さして見せる。
「露出度が高すぎるんだと」
そう、グラキエスが纏っているショールと手袋、それから脛当ては、パートナーのアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が転じたものだ。グラキエスが着ている服の、あまりの露出度の高さに慌ててパーツに転じてそれを覆い隠そうとしているのだ。その厚い忠義が涙を誘う。
「確かに、見た瞬間は、少し驚きました」
「でも、よく似合ってるぜ二人とも」
ハイラルがサラリと世辞を言う。社交辞令ではあるが、多分に本音も混じっている。
「フ……ありがとうございます」
するとエルデネストは、妖しく笑うとグラキエスの隣に立ってポーズを決めてみせる。
……そのついでとばかり、繊細な指先がさわりとグラキエスの衣服の隙間に滑り込んだ。グラキエスが微妙な顔になる。
その瞬間、レリウスとハイラルの脳裏を、あまり思い出したくない記憶が過ぎる。以前、教導団の任務で一緒になった折に見せつけられた、一方的なキスシーン。
いや、趣味趣向は人それぞれ、否定するつもりはないし、これだけ美形のふたりだ、見苦しいというよりはむしろ目の保養……いやいや……
とにかく、公衆の面前ではやって良いことと、やっては行けないことがある。グラキエスとエルデネストのひととなりを知っている自分たちならまだ良いけれど、一般の観客にあんな場面を目撃させる訳には行かない。
「エルデネスト、主にいかがわしい手つきで触れるな!」
今はショールに転じているアウレウスも、思うところは一緒らしい。ショールが騒ぐが、エルデネストはまるで意に介さない。
「良いではないですか」
ふふふと笑いながら、つぅとエルデネストの指先がグラキエスの背筋で遊ぶ。おいやめろ、とグラキエスが身を捩る。……レリウスとハイラルはいたたまれない。
「エルデネスト、スタッフたる者が公衆の面前で風紀を乱すのは、いかがなものかと」
思わずごほんと咳払いをして、レリウスが牽制球を投げた。
「そ、そうだぞエルデネスト……」
良いように弄ばれかけていたグラキエスが、レリウスからの助け船にホッとした表情をみせる。
「お嬢さん方は、喜ばれて居るみたいですが?」
が、エルデネストは自信満々に言って、周囲を見遣る。其の視線の先には、遠くから絡み合う二人の方へカメラを向けて、きゃーきゃー騒いでいる数人の女性の姿。ちなみに複数組。
――写真は被写体の許可を取ってから撮りましょう。
「……そう言う問題では……」
余計調子に乗ってグラキエスとの距離を縮めるエルデネストに、ハイラルがついに割って入ろうとした、その時。
謎の地響きと咆吼が公園内に響き渡った。
「な、何事です!」
殺気は無い。しかし、鳥たちが騒いでいる――それも異常に。
「あちらです!」
鳥たちの声を聞くハイラルを先頭に、四人(と、魔鎧ひとつ)は走り出す。
その先には、コンテスト会場のステージ……の、後に、謎の黒い影。
「なんだ、アレは?!」
闇雲に暴れているという気配はないが、客席から騒然とした気配が伝わってくる。四人は急ぎ、客席へと飛び込んだ。
そして――状況は理解できた、が、何が起こっているのかは全く理解不能だった。
巨大な熊が、腰を揺らして踊っている。別に熊が毛皮一丁でも何ら不自然ではないのに、何故かマスクとマントを付けている所為で妙に全裸感が強調されて見える。
そして、舞台の上では少女がひとり、同じくマスクとマントだけを纏った全裸姿で仁王立ちして何か騒いでいる。
客席は騒然としていて、その中で一人、やっぱりマスクとマントだけを纏った男が嬉しそうにはしゃいでいる。
そんな謎の狂乱の中、舞台上で取り残されている男女の、女の方は主催者だ。それだけは解る。
警備担当としてはこんな時、おいどうした、と声を掛けるべきなのだろうが、あまりによく解らない展開に、思わず言葉を失って立ちつくす。
「……!!」
が、四人のその目立つ容姿に、ノリコが気付いた。
そのことで、我を取り戻したのだろう。表情にも精気が戻る。
「そこの四人! 確保ォ!!」
ノリコが叫んだ。
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