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リアクション
■■オン・ステージ!■■
公園中央には、特設ステージが設営されていた。
椅子もパイプ椅子を並べただけだが、しかし客席は既に結構なにぎわいを見せている。その中には、凶司達、生徒会広報の姿もある。コンテストの配信の前に、客席でインタビューなどをしているようだ。
客席中央には審査員席が設けられていて、何人かのレク研部員が「審査員」の名札をぶら下げて座っていた。……その中には何故か、謎のマスクにマント一丁、誰が呼んだか変熊 仮面(へんくま・かめん)……の、姿もある。――コンテスト、と聞いて、自ら審査員に志願してきたのだ。前日、ノリコに土下座までして頼み込んで。
「はっはっは、実に楽しみだな。コスプレなるもの、見た目だけの美しさを競うものではないぞ。なりきることが肝要!」
審査員席でふんぞり返っているその姿からは、とても昨日の様子は窺えないけれど。
舞台裏では、参加者達が集まって準備に余念がない。
また裏方スタッフ達も大忙しだ。音頭を取っているのは白銀 昶(しろがね・あきら)。音響の機材のセットなど、なんやかやと右へ左へ走り回っている。
「さて、そろそろお時間がやって参りました!」
舞台の上に現れたのは、今日の司会を任されている清泉 北都(いずみ・ほくと)だ。
その隣には、解説役のノリコの姿もある。
因みに北都は超感覚を使い、犬の耳と尻尾を生やして、執事の服に身を包んでいる。執事わんこ、なかなか可愛らしい。
ノリコもノリコで、一応ステージに立つからとレク研揃いの黒Tシャツに合わせて黒い猫耳と猫尻尾を生やしている。こちらは、天然ものの北都と違ってただのフェイク。だが、ちゃっかりピンクのウィッグを被っていたり、小物が凝っていたり、妙に気合いが入っている。
「只今より、本日のメインイベント、空京コスプレコンテストを開催致します!司会は私、清泉北都、」
「解説はわたし、ノリコ・ラージャードがお送りします!」
北都とノリコの声が上がると、客席がわぁっと盛り上がる。
出場する友人やパートナーを応援に来た者は勿論、ただの見物客や、カメラを構えた小僧たちもかなりの数が観覧に来ている。賑やかなコンテストになりそうだ。
「只今より、参加者の皆さんには自慢の衣装で一分間ずつ、自己アピールをして頂きます。審査はレク研部員が行いますが、客席の盛り上がりも大いに考慮しますので、是非、盛大に応援して上げてください!」
「自己アピールタイムの間は撮影自由です。たーだーしっ、最前列での撮影、望遠レンズ、赤外線カメラの使用、動画撮影は禁止ですから注意してくださいね!」
「それではそれでは、早速最初の方に登場して頂きましょう!」
どうぞっ、と北都が舞台中央の出入り口を指し示す。
じゃん、と鳴り響くBGMと共に登場したのは、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)だ。
ふわふわとした愛らしいワンピースに身を包んでいるが、特に何かのコスプレをしているようには見えない。
「エントリーナンバー一番、ネージュ・フロゥさんです。こんにちは!」
「えへへ……こんにちわぁ!」
北都のインタビューに、ネージュは少し緊張気味に応じる。その隣では、ノリコがマイクをネージュに向けている。
「今日は、なんのコスプレですか?」
「えっと、今から、魔法少女に変身します!」
「おおっ、これは早速パフォーマンスが期待出来そうです。では、お願いします!」
北都の声と共に照明が落ちる。とは言っても屋外なので真っ暗にはならないが。
北都とノリコが左右に分かれて気配を断つと、中央のスポットライトが点灯する。
その中で、ネージュはぴしっと変身ポーズを決めた。
「いっくよー、とらんす・ふぉーむっ!」
それらしいかけ声と共にBGMが鳴り始める。極力酸を薄くしたアシッドミストの煙をスモーク代わりにしながら、ぴっ、ぴっ、といくつかポーズを変えて、そして。
ぴょんっ、と飛び上がると、ネージュの身体が光に包まれる。
空飛ぶ魔法↑↑で空中を舞うと、ふわりとワンピースのシルエットがほぐれていく。魔法少女お決まりの変身演出だ。しかし輝いているので子細は見ることが出来ない。倫理委員会対策だ。
そして、しゅるしゅるしゅると何か帯のような光がネージュの身体を包んでいく。
たっぷり時間を掛けてくるくると回りながら再びネージュが地面に降り立った瞬間、光が弾ける。
その中には。
「薄紫の癒しの華珠、魔法少女ルピナスフィア! あなたの心に開花です!」
魔鎧を転じさせた魔法少女の衣装に身を包んだネージュが立っていた!
ピンクのツインテールに、裾を花模様が彩るフリルワンピース。胸元にはお約束の大きなリボン、足元はオーバーニー。手にするのは淡い紫色のルピナスを束ねた魔法のブーケだ。
魔鎧が変化しただけあって、質感はまるで本物そのもの。
因みにルピナスフィアとは、巷で噂の魔法少女。正体は、ひ・み・つ。
テレビアニメから飛び出してきたような演出に、主に男性諸君からうおおおおお、と野太い声援が起こる。まるで本物のルピナスフィアたんみたいじゃねーか! という驚嘆の声も混じっている。
「えええいっ、咲き誇れぇ!」
さらにネージュは魔法のブーケを振りかざすと、魔法――超感覚を発動させる。
すると、ぴょこんぴょこん、と狐のおみみとしっぽが現れ、一層萌え度を増す。
超感覚で発現させているものなので、当然質感は本物どころの話ではない。周囲の音に合わせてひくひくと動く耳がぷりちーだ。
その格好でポーズを決めれば、客席は一気に盛り上がる。フラッシュが次々炊かれ、眩しいほど。
「これは、いきなり大盛り上がりを見せましたねー」
「そうですねー、衣装もとても凝ってますし、何よりパフォーマンスが素晴らしいですね!」
じゃん、とBGMが鳴り終わり、ネージュが最後の決めポーズを取った横から、北都とノリコがぱちぱちと拍手をしながら現れる。
「さあ、審査員の皆さんはどうだったでしょう……」
「うむ……お嬢さん、萌要素を増やせば良いというものではない、大事なのはいかにバランス良く美しく纏めるかであって――」
「はい変熊さんありがとうございましたー」
一応審査員席に振っておきながら、変熊仮面が口を開いた途端に北都が遮る。
なっ、貴様、人の台詞を、と変熊が抗議の声を上げるが、ノリコも北都も気にしない。
「ネージュさん、ありがとうございました。では続いてエントリーナンバー二番、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)さんと、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)さんのお二人です!」
北都の声に合わせ、ネージュは客席に頭を下げて引っ込んでいく。それと入れ違いに現れたのは、シャンバラ教導団の名物新入生・金元 ななな(かねもと・ななな)に扮したルカルカと、団長・金 鋭峰(じん・るいふぉん)に扮したダリルのふたりだ。
「おお、これは、シャンバラ教導団名物のお二人ですねー」
「衣装の完成度はかなりのものね」
インタビューする北都とノリコも溜息を漏らすほど雰囲気が出ている。
ルカルカはもともとなななと身長が近い。そこへ、アホ毛もばっちりセットされた緑色のウィッグとカラーコンタクトを入れればうり二つ。
なななにしては少々胸が豊満だが、これでもサラシで多少潰すなどの努力はしている。同じ学校なので特製の軍服の入手も可能。完成度はかなりのものだ。
一方のダリルが着ている衣装は、ルカルカが手ずから作ったもの。コスプレイヤーのルカに掛かればこれくらいの裁縫は朝飯前だ。
……とは言え、団長の服は飾り縫いや勲章など、細かいパーツが多いので、それはそれは手間暇掛かっている。それを一生懸命用意していたルカの姿を知っているから、ダリルは黙って付き合ってやっている。
目つきが悪いのは元々だし(ルカ談)、長い髪は黒染めスプレーで染めて、結って帽子の中に入れてしまえばごまかせる。さらには腰に下げている刀など、細かい持ち物に至るまで団長と同じ物だ。
心なしか、客席が緊張に包まれている気がする。
「では、アピールタイムスタート!」
北都のかけ声と共に、ルカはぴょこん! と舞台中央に躍り出ると、敬礼の姿勢を取って待機。
その前にはダリルが立ち、客席に向かって手を翳す。
「諸君、この会場内にティーカップパンダが紛れているとの情報が入った。探索への協力を要請する!」
団長の声色、仕草を完璧に真似してみせるダリルに、客席の数人が思わず立ち上がって敬礼の動作を取った。教導団の生徒だったらしい。
「ティーカップパンダの捜索は、なななにお任せなんだよ!」
そこでルカルカがひょっこり団長の後から顔を出す。
「むむむー、どこだどこだー?」
なななに扮したルカは、ぴょこりと立ったアホ毛を左右に揺らしながら、予め客席に放っておいたティーカップパンダの捜索を開始する。「そこだぁっ!」
客席の間、舞台の袖、お客さんのポッケの中……と、次々パンダを捕獲していく。
……ちなみに捕獲したパンダはダリル扮する団長が預かっているのだが、なんというか、ミスマッチ。
「あ、あれ、最後の一匹がいないよぉー」
残っているのはひと単語だけ人の言葉を覚えるという、おしゃべりパンダ一匹。
アピールタイムは一分間。そろそろ残り時間が気になるところだ。
「むむむー……どこだどこだー?」
ルカはきょろきょろと辺りを見回す。と、パンダたちと無表情で戯れていたダリルがつっとルカの胸元を指さした。
「少尉の胸、いつもより大きくはないだろうか」
とその瞬間、ルカの胸元からパンダがぴょん! と飛び出してきた。
「なぁんだ、こんなところにいたのかぁ。灯台最も暗し、だね!」
「もと暗し、だ、少尉」
素なのか芝居なのか解らない調子でダリルが言ったのを合図に、ルカの胸元でパンダが「けいほう! けいほう!」と鳴き出した。
すかさずルカは、舞台裏へと通じる通路へ様子を見に行くふりをして、光術を炸裂させる。
客席からみると、さながらサーチライトで照らし出されているような演出だ。
「あ、大変だよっ、宇宙怪獣軍団が迫ってるって宇宙艦隊からの電波が!」
アホ毛に手を遣り焦るルカに、ダリルは鷹揚に頷いて、「確認に行く、少尉も同行せよ」と低い声で告げる。
そして二人は、急ぎ足で舞台裏へと消えていった。
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