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アイドル×ゼロサム

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《6・望む。それに、》

 青井アスレチック場には、すべりだいやブランコなどの遊具広場も存在している。
 ただしそれらは子供が遊ぶためだけでなく、かなり上級者向けのものが多い。高さがかなりある鉄棒やうんてい、のぼり棒。生徒達の訓練のために揃えられた様々な器具がそこにはあった。
 そんな場所を闊歩する黒衣の仮面男クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)
「俺のヒーローとしての勘がささやいています! この周辺に審査員がいると!」
 誰に言ってるんだとツッコまれそうな宣言とともに、彼はこの一帯をあっちこっち駆け回り。
 ひとしきり探し終わってぜぇぜぇと息を切らしていると、
「審査員は見つかったか?」
「うわっ!?」
 いつのまにか横に審査員として各所をまわっていたダリル・ガイザックが現れていた。
 胸元にエントリープレートがないことに気がつき、このあたりはいま一般人は入れないという事実を加味して。となれば、
「そういうあなたは審査員の方ですか? そうなんでしょう!」
「ああ、なかなかに熱意のある様子だったからな。こちらから声をかけさせて貰ったんだ」
「そうでしたか。じゃあ、さっそく審査をしてくれますか」
「了解。審査内容はダンスだ、もうはじめてくれて構わないぞ」
「なるほど、じゃあいかせてもらいますよ!」
 そう言うと、クロセルはなぜかわざわざジャングルジムのてっぺんまでのぼってから。
「とぅっ!」
 しゅたっ、という効果音がつきそうなほど華麗に降り立つ。やはりヒーローとしてこのこだわりは外せないらしく。さらに降下中に氷術と光術を使っていた。
 細かい氷の欠片を自身の周りに展開し、それらを光術できらめかせるという演出。
 そこからは、ブレイクダンスを披露していく。
 エントリーと呼ばれる立った状態のダンスから、主にパワームーブという飛んだり跳ねたり回ったりのアクロバットプレイを中心に動いていく。時折そのへんの遊具を駆使しての動きも組み合わせている。
 実際のところ、本人はブレイクダンスのつもりでなくヒーローとしてのアクティブなダンスで魅せているだけなのかもしれないが。
 それでもなかなかに見ごたえのあるダンスを繰り広げ、ラストは腕を水平にして膝立ちになる、なにかヒーローものでありそうな決めポーズで締めくくった。
「ふむふむ。なるほど、演出の点は、こう。ダンスはこのくらいか」
 ダリルの評価が気になるところだったが、ここで足踏みしてもいられないのでクロセルはかるく会釈をしたのちに走り去っていった。
「さて、次の人は」
 と、視線をめぐらせれば、
 いつの間にかこの場を訪れていた西川亜美、ミルディア、ヴァーナーの三名がなにやら姦しく語り合っていた。
「いいの? わざわざこんな衣装用意してもらって」
「大丈夫! 商人の基本は『1投資して10回収する』ことだからね♪」
 亜美はミルディアが準備しておいた、赤のフォーマルドレスを身に纏っていた。
 どうやらさきほどまでの審査を間近で見ていて、投資するに足る人材だと判断したらしい。
「さあ。それじゃ、ダンス審査を受けるとしましょうか」
 このときヴァーナーは、亜美は職業がソルジャーなのだから、ソードダンスでもやるんじゃないかと想像していたが。すぐにその予想は覆される。
「じゃあ、ちょっと相手してくれる? ワタシにあわせるだけでいいから」
「え? あ、はい」
 亜美は自分のMDプレーヤーから、ワルツの曲を流して。
 ヴァーナーの手をとり、はじめたのは意外にも社交ダンスだった。
 百合園学園生ならべつに覚えている生徒も珍しくないが、それはあきらかに授業で習う程度のものではなかった。亜美は男性側のステップを踊り、ヴァーナーを優雅に導きながら踊っていく。そこそこ身長差があるというのに、まったく両者のバランスが乱れない。
 清楚に、ときに紳士的に、まさに社交の場にふさわしい踊りを魅せつける亜美。
 それを見ている誰もが、時間を忘れてしまうほどだった。
 踊りが終わってもヴァーナーは興奮がおさまらず、なんだかドギマギして。
「すごいよ、亜美おねえちゃん! まるでプロみたいだったよ!」
「昔、父さんに教え込まれたからね……やったのは久しぶりなんだけど、カラダはおぼえてるもんね」
 久しぶりであのレベルかと驚嘆するミルディア。
 審査員のダリルとしても、技術や身体のバランスに目を見張って言葉を失ってしまった。
「亜美ちゃん、やっぱり凄いなあ。あたしも負けてられないよ」
 そして、しみじみとつぶやくのは秋月 葵(あきづき・あおい)。彼女はついさきほど空飛ぶ魔法↑↑で空を移動中に、ここを発見してやって来たのである。
 他にもリリ、ララ、ユリ、ユノの一行も到着しているが、彼女たちは手洗い場でなにやら着替えの最中だった。
「え、えーと。それでは次の人どうぞ」
 ようやく我に返ったダリルに言われ、歩み出る葵。
「イッツ・まじかるショータイム♪」
 マジカルステージ♪によるアピールで、開始からいきなり変身!を使って、ツインテールの髪型をほどいてロングにする。そこから光精の指輪から光を生み出して、踊りながらあたり一面をきらびやかに印象付けていく。
 さきほどの亜美が純粋なダンスのみで魅せる手法なら、こちらは演出をまじえて魅せる方法だった。
 ほどなくして審査が終了すると、また元の髪型に変身!して、次の審査へ足早に向かう葵。
 それと入れ替わりに、ユリが着替えを終えてやってきた。
「!?」
 その姿に、普段冷静なダリルも思わずのけぞりかけた。
 なぜなら、ユリが着ていたのはかなりきわどいシリウスの舞踏衣装だったからである。これは男であれば魅了されないほうがおかしい。もっとも、唯一胸が残念ではあったが。
「ほらユリ! 恥ずかしがってないで、はやく踊るのだよ」
 リリに急かされて、羞恥で耳まで赤く染まっていたユリはゆっくりと魔性のカルナヴァルを踊り始める。
 その踊りはなんとも妖艶で、見ている者を惑わせるように腕や脚をゆるやかに、ときに激しく動かす緩急のあるものだった。
 途中ララがメモリープロジェクターを使い、背景イメージを投影しての演出も相まって、ダリルはなんだか頭に霞がかかったようになってきた。
 そもそも魔性のカルナヴァルという踊りは、以前十二星華のザクロを封印した、ミルザム仕込みの驚異の御技。
「ね、ねえ。これちょっと危ないよね?」
 異変に気づいたユノが強制的に止めなければ、危うくダリルが封印される事態になっていたかもしれなかった。

◇◇◇

 そんなパートナーの危機一髪をよそに、ルカルカは。
 しばらく岩場地帯でベルフラマントを身に纏って隠れていたのだが。
「ん? んん? 怪しい気配。さては、オーディションの審査員やな? でてこいやぁ!」
 誰かに発見されてしまったようなので、潔く姿を現すと、
「まいどーおいどー☆」
 派手な漫才師風キラキラのスーツ姿を纏った蚕 サナギ(かいこ・さなぎ)がお尻をふりつつそこにいた。
「わしカイコ言うねんあんじょうよろしゅーテネシー州!」
「………………………………………………………………………………………………………………………」
「あれ笑てもええねんで?」
「さぶー」
「だれがサブやねん! ま、男も好きやけどな」
 とか言ってウィンクするサナギ。
 なんかややこしい人に見つかっちゃったなあと、多少げんなりするルカルカだが。審査員として責務をまっとうしなくてはという意識の下に、こほんとせきをひとつして。
「と、とにかく。歌唱力の審査をするわよ。いつでもどうぞ」
「よっしゃあ! エントリーナンバー・15! イチゴー苺―わしカイコ♪ 一発歌ってみせたるでぇ!」

 わしの名前はカイコやで〜♪
 わしやいうても鳥ちゃうで〜
 カイコいうても首ちゃうで〜
 カイコぴーひょろ糸はくで〜
 生糸になって絹になる〜
 シルクるくるくカイコやで〜
 養蚕ようさんごろうさ〜ん♪
 せんきゅー☆


 ラストはまたウィンクして、自分に酔っている感を出していた。
 なんともふざけた歌だったが、なにげに音程やリズムは悪くなかったのでそのへんは評価しておくルカルカ。
「ちなみに、この曲でなにを伝えたかったのかを教え――「偉大なわしの存在や!」――はぁ、そうですか」
「さぁて。そんじゃあわしは次の審査に行くんで。さよ〜なら」
「ああ……はいはい」
「な、なんだか変わった人がいたようですね」
 と、その間にここへ着いていたのは風森巽とティア。
 当然、いざ巽も歌の審査に挑まんとするのだが、ティアがなにやら荷物をごそごそとしだして。
「よし。歌唱力なんだから、幸せの歌や驚きの歌の要領で歌えば良いよな?」
「さーて。これ見てね。タツミなら、即興で歌えるはずだから安心して♪」
「あ、あのティアさん? その歌詞とデモテープはなんでしょう?」
「へいきへいき! ヒーロー大原則ひとーつ! 絶対に諦めない事!」
「いやそれこの場面で使うセリフじゃないような」
 とか言っている間に、テープから音楽が流れはじめる。
 巽はあたふたしながらも、歌詞の紙に書いてあるとおりに歌いはじめた。

 【曲名:Soul Cool Warning】

アレコレ考えて 悩みだしても
「もしも」ばかり 答え出せなきゃ
立ち止るだけ

アチコチ目移り 探してるのは
諦める理由? 後悔だけが
溜まるばかり

目を塞ぎ 耳塞ぎ 口塞いでも 響くAlert
見過ごせない 聞こえる声 叫び出す Soul Cool Warning
埋もれてた 動き出す理由 思い出せ

躊躇いも迷いも振り払う様に 風 走り出したら  
舞い上がる様に 果てしない蒼空(そら)へと駆け抜けろ


 ちなみに、Soul Cool Warningを続けて読んだらソークー1になるというユーモアが盛り込まれている。
「こ、こういうことされると心臓に悪いんですけど」
「ちゃんと歌えたんだからいいじゃない。結果オーライだよ!」
 そんなふたりを見つめるルカルカとしては、
 本当にいまのがはじめて歌詞をみて行なった即興だったとするなら、なにげにかなり高度なことをやってのけたのだろうと考えるが。ここは単純に、歌の評価だけで得点を定めておいた。