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 空を飛んでいるミシェールを見つめて、白雪魔姫(しらゆき・まき)は呆れた。
「しょうがないから、構ってあげるわ」
 と、後を追って歩き出す。
 エリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)もすぐに魔姫の隣へ並んだ。
「逃げているといっても、肉眼で見える高さにいますしね」
「な、何よ? ただ目障りだから、構ってあげるだけだからねっ」
 二人の少し後ろでは、ミュア・ストロベリーパフェ(みゅあ・すとろべりーぱふぇ)がネットの掲示板を見ながら付いて来ていた。
「この子、ゲームが趣味みたいだよ。何のゲームかな?」
 どうやら魔姫だけでなく、ミュアもミシェールに興味があるようだった。
 いくつかボタンを操作して、ミュアはダリルの誘導先であるチャットルームへ入る。

 ふいに下から声がして、ミシェールはその場でくるりと旋回した。
「またあなたなの!? このロリコン!」
 と、再び禁句の言葉でエヴァルトをせめるミシェール。来た方向を戻ろうとして、来栖に止められる。
「そちらにはあの少女がいますよ、ミシェル」
「くっ……」
「しかも、あっちからは小型飛空挺が」
 と、別の方角を指さす来栖。どうやら、そろそろお時間のようだ。
「それでも逃げる!」
 と、ミシェールは叫んで高度を上げた。しかし、次々に迫ってくる追っ手たちを上手に交わす方法など、彼女の頭にはひとつも浮かんでいない。
「ただ逃げる! 捕まったら諦める!」
「……ミシェル」
 元からそういうつもりなのは分かっていたが、呆れずにはいられない来栖だった。そして来栖はスキピオへ声をかけた。

 後方からはセレンフィリティ、地上にはレキ。
 前方の地上にエヴァルト。
 左方向からはペガサスに乗った祥子。そして右側からは……遥か上空から一直線に向かってくる毒島大佐(ぶすじま・たいさ)
「ちょ、えぇー!?」
「なるべく穏便に済ませようと思う」
 そう口では言いながら、大佐はものすごい殺気を放っていた。
「ちょちょ、待って待って待ってぇー!」
 慌てて方向転換し、大佐から逃げることを優先するミシェール。
 しかしその動きが他の人たちに隙を見せる結果となってしまった。
 地上からレキが『エイミング』による射撃をし、銃弾をギリギリ避けた直後に別方向から銃が撃たれる。地上から追いかけてきている樹だ。
「ちょっと助けなさいよ、来栖……! って、あれ?」
 そこに来栖の姿はなかった。いるのはスキピオただ一人。
「どーいうことよ!?」
「怒られるまでが悪戯、最後まで存分に楽しみなさい。だそうである」
「ちょ、それひどい!」
 叫んでいる間に地上から零澄がワイヤークローを放ってくる。
「きゃー!」
 間一髪で逃げ切ったミシェールだったが、見ると大佐たちがすぐそこまで迫ってきていた。
「ああもう。ゲームオーバーだわ……」

 何故かミシェールは首輪をつけられていた。その先を握っているのは大佐だ。
「ったく、いくら構ってほしいからって、やっていいことと悪いことがあるわよ!」
 と、セレンフィリティが呆れまじりに怒鳴る。
「そうだよ、早くミアを起こして」
 と、レキが背中におぶったミアを地面へ降ろす。その隣ではエヴァルトが同じようにミュリエルを降ろしていた。
「まったく……しょうがないわねぇ。仕方ないから解いてあげるわ」
 そう言ってミシェールは、二人の少女たちを眠りから解放させてやった。
 すると、零澄が小さな魔女へ尋ねた。
「それで、君はどうしてこんなことをしたの?」
「ちょっと退屈だっただけよ。外はカップルだらけだし、リア充は爆発すればいいと思って」
「本当にそれだけ?」
 聞き返されて口を閉じるミシェール。
 本当のことを話そうとしない彼女を見かねて、横から魔姫が口を挟んできた。
「友達がいないんでしょう、あなた」
「なっ……そ、そんなことないわよ! あたしにだって友達の一人や二人っ」
「落ち着いてください、ミシェール様。魔姫様は、あなたと友達になりたいと仰ってるんですよ」
 と、エリスフィアが通訳し、ミシェールの顔が変わった。
「そ、そうなの? ……な、なってあげないことはないけど」
「それはこっちの台詞よっ」
 と、ツンデレな態度の魔姫。ミシェールとは何だか気が合いそうだ。
 一同がそれぞれに納得をしたところで、祥子は言った。
「ねぇ、それよりもあなたのその魔法、商売にしちゃわない?」
「え、商売?」
「そうよ。カップル向けのサービスとして昇華させたら、すごくおもしろい企画になると思うの」
 真面目にそんなことを言う祥子に、ミシェールの心が揺らいだ。
「お金になる?」
「ええ、きっとなるわ」
「……そ、そうね。考えておくわ」
 と、アドレスを交換し合う二人。
「友達がいなくて寂しいんだったら、友達になろうよ。っていうか、一緒にお蕎麦食べよう?」
 にこっと笑いかけてくるヘルへ顔を向け、ミシェールもようやく笑みを見せ始めた。
「ええ、いいわよ。でも、お蕎麦を食べるにはまだ早くない?」
「それでしたら、これからパーティーをいたしましょう。もちろん、皆さんも一緒に」
 と、エリスフィア。
 すると、遅れてやってきた天音が輪の中に顔をのぞかせた。
「それなら、僕たちにとってはオフ会だね」
「誰?」
 目を丸くするミシェールに天音は自己紹介をする。
「こんばんは【michelle】。僕のHNは【mineko】だよ」
「……あー!」
 オンラインゲームでよくパーティを組んでいる人物だと分かり、ミシェールはぱっと表情を明るくさせた。
「あなただったのね! って、あたし、てっきり中の人も女性かと……」
「ふふ、そうだろうね。さすがにブラジャーのサイズを教えてもらった時には悪いと思ったよ」
 と、天音。オンラインの知り合いとはいえ、二人の仲はそこそこ深そうだ。
 とっくに目を覚ましていたものの、口を開くタイミングを見ていた呼雪がヘルへ問う。
「あの子、友達か?」
「うん、ついさっきからね」
 にっこり笑って返事をするヘル。
 ふとミアがミシェールの前へ出てくると、その大きな胸を鷲づかみにした。
「罰じゃ!」
 と、嫉妬するように強く揉んでやる。
「きゃ!? ちょっと、何するのよぉ!」
 口では嫌がりながらも、ミシェールの目は笑っていた。誰かに触られることが嬉しいのだ。
「よし、今夜はパーティーだね!」
 と、レキも笑って言った。
「本当に僕たちも行っていいの?」
「ええ、魔姫様もとっても喜んでおられます。あ、もちろん強制は致しませんよ?」
「その後はカラオケでオールだよねっ」
「ねぇねぇ、お蕎麦はー?」
 わいわいと話しはじめた彼らを見て、大佐はそっとミシェールの首輪を外してやった。
「お仕置きは出来なかったが、これで懲りただろう? さあ、行くがいい」
「……うん。あなたの大切な人も巻き込んじゃって、ごめんなさいね」
 歩き始めた魔姫たちを追って、ミシェールは輪の中へ飛び込んだ。