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デスティニーランドの騒がしい一日

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デスティニーランドの騒がしい一日

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第2章 裏側

「よし、こちらの芝の様子はいいようだね。そこのベンチは……あぁ、いけないいけない。裏のペンキが少しハゲているよ。早速塗り直さなくては」
「ふーん、ヴォルトさんはそんな所までチェックしてるんだねぇ……あ、わんわんわん」
「ばう」
 開園前のパークのチェックをしているヴォルト・デスティニーを、自身も掃除をしながら眺めている清泉 北都(いずみ・ほくと)白銀 昶(しろがね・あきら)
 アトラクションの様子は勿論の事、パーク内のベンチや芝の調子まで事細かに確認をしているヴォルトは、笑顔で清泉を振り返る。
「ああ、勿論だよ。ベンチ一つ、芝一つにしてもそれがお客さんをもてなす大切な存在だからだからね。何一つ疎かにしてはいけないよ」
 ヴォルトの言葉に何度も何度も頷く北都。
 オーバーオールについているキャラクターバッジが、がちゃがちゃと賑やかな音を立てた。

「ぱーぱぱぱぱぱんぱんぱーん」
「は? 何言うとんねんこのパンダが」
「ぱー…… 貴様っ、この暗号が分からないとは不勉強な! 教育してやるからそこに直れ!」
「いやあああ!?」
 スラッフルームで、たりんと垂れたパンダとトカゲの着ぐるみ……もとい、垂ぱんだとトッピーが喧嘩をしていた。
 垂ぱんだの中身は朝霧 垂(あさぎり・しづり)
 トッピーの中身は瀬山 裕輝(せやま・ひろき)
 二人とも、パークを盛り上げる為にオリジナルの着ぐるみ姿を披露していた。
 しかし、垂の言う『暗号』は、一日ではスタッフの間に浸透しきれなかったらしく、裕輝には理解不能だったらしい。
「まあまあ。一日で暗号を理解するっていうのも難しい話だし」
「そうそう。現にあたしたしもさっぱり覚えてないわ!」
「そんな事に胸を張らないで」
 垂を窘めたのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 常日頃セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の相手をしているからだろうか、口をはさむタイミングや相手のあしらいが板についている。
 当の相方のセレンフィリティは、「いやーあたしってば何着ても本当に似合うわねー」と、ガラスに映る自分の姿に見入っていた。
 妖精の衣装に身を包んだセレンフィリティは、たしかに本人でなくても見惚れるほどの美しさ。
 それはセレアナも認める所だが、そんな事を口にしてこれ以上彼女を図に乗らせる必要はない。
 セレアナ自身は葉っぱを基調にした少年の衣装に身を包んでおり、これまたセレンフィリティに勝るとも劣らない凛々しさ美しさ。
 二人並んで立つとかなり圧倒させられる情景になる。

 そんなお気楽な面々を余所に、スタッフルームの一角は、静かな緊張に包まれていた。
 雅羅・サンダース三世の姿が見えない為探していたルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、本部と連絡を取った時から、妙な胸騒ぎを覚えていた。
 同じシャンバラ教導団だからと極秘で教えられた、強盗犯人がこのデスティニーランドに潜伏しているという事実。
 まさか、雅羅が……
「お願いダリル。テレパシーを」
「ああ、分かっている」
 聞き終わる前に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はルカルカの意図に気づく。
「メシエ、君も頼む」
「分かりました」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の言葉にメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は静かに頷いた。
 ゆっくりと眼を瞑るダリルとメシエ。
 二人は、テレパシーで雅羅と接触を取ろうとしていた。

(雅羅……雅羅)
(あら、誰?)
(今どこにいる?)
(ええと、言っていいのかしら? ネタバレになるから言わないでくれって言われてるんだけど)
(他に誰かいるのか?)
(ええ。三二一さんと……あとは内緒)

 ……おかしい。
 ダリルとメシエは、雅羅とテレパシーで会話をしつつ、どうにも拭いきれない違和感を感じていた。
 雅羅は、たしかにどこかに隔離されているらしい。
 しかし彼女の言葉には、全く緊迫感がない。
 もしかして彼女は、自分の身に降りかかった状況を理解していないのではないだろうか?
 考え込むダリルに気づいたメシエが顔を向ける。
「どうしました?」
「十中八九、雅羅は強盗犯人の人質になっているのだろう。しかし雅羅たちは、自分と一緒にいるのが強盗犯人だと気づいていないらしい」
「そんな馬鹿な!」
「いや、今までのやり取りからして、多分何かのショーだとでも思っているのだろう」
「では、彼女に協力してもらうためには現在の状況を説明するしかないのでしょうか」
「うむ……」
「ちょっと待ちなさいよ!」
 ダリルとメシエの会話に割って入ったのは、見た目そっくりな美少女二人。
 多摩 黄帝(たま・きてい)穿蛇亜 美々衣(せんたあ・みみい)だった。
「人質になってるサンダースだって、れっきとしたデスティニーランドのお客さんなのよ。あえて夢を壊すような無粋な真似をするもんじゃないわ」
「美々衣の言う事にも一理あるわ。なんとか、誤魔化したまま人質を助けられないかしら」
 黄帝と美々衣の言葉に難しそうに眉を潜めるダリルとメシエ。
「しかし、彼女たちが捕えられている場所の特定が……」
「それなら、任せて!」
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が胸を張る。
「あたしがランド内のお花に、雅羅ちゃん達を見かけなかったか聞いてみる!」
「聞き込みならオレ達も負けないぜ」
 ルカルカたちの前に、海賊と犬の衣装をつけたヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)が立つ。
「このホック船長とゴーフィーに任せてくれ! 子供達のハートを鷲掴みしつつばっちり情報を聞き出してやるぜ。な、セリカ?」
「や、やあぼくゴーフィー(異様に爽やかに)」
 ポーズを決めるヴァイスと、慣れない着ぐるみでよろけつつなんとか決めるセリカ。
「それも必要だけど……」
 ふと、何かを思いついた様子でルカルカが手を叩く。
「犯人から、連絡があったんだよね。車を要求してるって。よかったらその交渉をルカに指せてもらえないかな? なんとか逆探知してみせるよ」
 ダリルがね、と小さく付け加える。
「それに、最終的には犯人に車を渡すんだよね。その時に接触のチャンスがあるかもだしね」