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第14章 コンサート 歌とハプニング

「聞いて、あたしの新曲、『ラブ・レター』!」
 ラブ・リトルの歌とダンスは、見ているだけで観客を楽しい気持ちにさせる。
 それは【幸せの歌】の力でも【熱狂】のせいでもない。
 彼女自身が、歌うことがとても好きだから。
 とても幸せそうに歌っている彼女の存在そのものが、観客を魅了している。

 ラブが歌っている間、舞台の裏では転換のための装置替えが進んでいた。
 KKY108のメンバーは、所定の場所にスタンバイしながら次の曲を待つ。
 丁度、ラブの歌が終わり幕が開く、その時だった。
「あっ!」
 小さな悲鳴。
 それは、雅羅のものだった。
 舞台を照らしていた照明のひとつが外れ、彼女の上に――
「雅羅っ!」
「危ねえっ!」
 即座に動いたのは、理沙と恭也だった。
 理沙は雅羅を庇うように覆いかぶさり、恭也は手に持つ番傘で照明を弾き飛ばす。
 ガタン!
 電源のコードが千切れ、舞台全体の照明と音響が落ちる。
「まずい!」
 その時、歌声が響いた。
 チェルシーが、歌いだしたのだ。
 その場を繋ぐための咄嗟の機転。
 しかしその歌は堂々としていて、決してその場しのぎのものではないことが分かる。
(まだ、治らないかしら?)
(ごめん、まだ……)
 電源の復旧は遅れている。
 チェルシーの歌も、まもなく終わる。

 FLYNG TO BURN OUT
 この世の全てを 飛び越えて
 己の常識を 打ち砕けば!

 チェルシーの歌声に、もう一つの歌が重ねられた。
 輝夜の歌声。
 彼女が用意してきた、彼女自身の歌。
「THNDER STOM!」

 加速増して 走りゆく先に現れる
 限界の壁が そびえ立つ
 SO FAR AWAY
 届かぬ場所へいつしか
 永遠さえも貫く速度でぇ!

 SPAKING! THNDER STOM!!
 吹きすさぶ風 轟く雷鳴よ あぁ降り注げ

 BLAZING! THNDER STOM!!
 猛き嵐よ 光る速さで翔けろ
 BLAZING! THNDER STOM!!

(聞けぇ、あたしの歌!)
 暗転はむしろ演出の様にさえ感じさせる突然のロック調。
 熱い歌声と激しいダンス。
 見えてはいないものの、それは聴衆の魂を熱狂させる。

 TURNING TO RED THE SKY
 支配されていく 宵闇を
 一筋光る 稲光が!

 今だ満ち足りぬ その生き様ならば
 届きはしない あの高みへ

 奮い立つのならば、今
 膝を折るときは まだ早すぎるとぉ!

 輝け! THNDER STOM!!
 夜空が割れる 光、刃、輝き ああ地を裂く

 吼えろ! THNDER STOM!!
 これが運命(さだめ)か 人よ、神さえ超えろ
 SPAKING! THNDER STOM!!

 ぱっ。
 照明と音源が復旧した。
 舞台裏の準備も整っていく。
 その様子を確認しながら、輝夜の歌はクライマックスへ向かう。

 夜明け呼ぶ声 見送る背中
 星屑をまき散らし ああ彼方へ
 鮮やけし空 眩き世界 自分色に染め上げろ
 BLAZING! THNDER STOM!!

 SPAKING! THNDER STOM!!
 吹きすさぶ風 轟く雷鳴よ あぁ弾け飛べ
 BLAZING! THNDER STOM!!
 猛き嵐よ 光る速さで翔けろ
 FINAL THNDER STOM!!!!

 歌が終わった。
 歓声を受けながら、輝夜はすっと身を翻して去る。
 くるり、舞台が回転する。
 無事準備が整った、KKY108のメンバー全員が登場する。
「それでは、聞いてください! 私たちの歌、『BON―NOU!』」