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リアクション
第5章 奪還
じりじりと暑い。
溶岩洞とマグマ溜まりを隔てる最後の岩盤の、その前で。
――役者はそろった。
『我の邪魔立てをするな!!』
真人の放った『召喚獣:不滅兵団』が、玄王獣めがけて一斉に襲いかかる。だが、さすがに人間の脅威たる玄王獣、瘴気を交えたその咆哮が突風のように鋼鉄の軍勢を突き飛ばす。
「厄介な息じゃのう!」
こちらにまで飛んでくる瘴気を、白き詩篇は『清浄化』ですぐに無害化する。
「さすがに手強いですね。まぁ、予想の範疇ですが……」
真人は、『雷術』で追撃するタイミングを見計らいながら呟く。不滅兵団は足止めだ。敵である霊体の下にベスティを咥えた白颯がいる以上、迂闊に全力を叩きこむわけにはいかない。とにかく、封印の準備が揃うまでの時間稼ぎと、マグマに飛び込むのを防ぐ足止めに徹する。
「瘴気の浄化はわらわに任せよ。真人、ペース配分を誤るでないぞ」
「えぇ」
「ぐえーあっついなしかしー」
岩盤を隔てた向こうから染み出してくるような熱気に、緊迫した場面ではあるがリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)は思いっきり呻き、五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)を振り返る。後方支援に徹する、と後ろに佇んで、無理をしないような雰囲気なのは、体力に不安のある彼だから結構なことだとは思うが。
ふと、遠い目をしているようなのが気になって、リキュカリアは声をかけた。
「東雲、体辛い? 大丈夫?」
「ん? 大丈夫だよ」
何事もなさげに返事して、東雲は氷獄コキュートスを握りしめ、前を向く。
(それにしても、玄王獣はどうして蘇ろうとしてるんだろう。もう一度生きたいって事なのかな?)
そんなことを考えてしまう。
瘴気を吐いて害をまき散らしていたかもしれない玄王獣だが、考えてみれば人間だって二酸化炭素を吐き出して、少なからず害を与える生き物ではないか。有害の度合いが違うと言われればそこまでだが、その度合いを決めたのは少なくとも彼ら以外の生物だろう。玄王獣もその一族も、ただ「生きて呼吸していただけ」なのかもしれない……。
勝手な想像で同情するつもりはないが、自分に置き換えて生への執着を思うと、ちょっと、分かるものがあるような気がした。
――一方、リキュカリアは策を巡らせる。
玄王獣の目的はフェニックスらしい。だから、それを内包した魔道書を咥えて離さずにいる。
一方こちらには『召喚獣』の『フェニックス』がいる。
……もし、何か上手いタイミングでこのフェニックスを使い、囮にして玄王獣を騙せたら、ベスティを引き離すことができるのではないだろうか?
ベスティからフェニックスが出てくるような状況になるのが一番だが、実際に出てこなくても「ベスティから飛び出した」と玄王獣に思わせられれば……
「しかし暑い! ベットベトで我の自慢の毛並みがしっとりである。我がエージェントも見向きしないのである。どうしてくれる!」
猫にしか見えないポータラカ人のンガイ・ウッド(んがい・うっど)が騒いでいて、英霊の上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)が「うるさい…」という表情で顔をしかめている。
(いざとなったら、あれを投げつけて意表を突くとか……)
一方、広場から数十メートル東に水路を遡ったところで、生駒とジョージは、土が崩れて塞がった部分を見つけた。
「この土を取り除けば、水が流れるのかな?」
土はこんもり盛り上がって水路を塞いでいるが、その向こうからは、恐らく染み出た地下水が岩を流れるちょろちょろという音が聞こえてくるし、どことなく湿った空気も感じられる。
「想像以上の量だね。応援がいりそう」
生駒がそう言って、ほとんど塚のようになっている土の厚みを測ろうとした時、その裏側に回ろうとしたジョージが、顔をくしゃくしゃにしかめて飛びのいた。
「キイイ!(動揺)」
「どうしたの」
「これは酷いぞ。水が穢れまくっている。いまこの土崩したら、瘴気を溶かした水が祠の方に流れ込むぞ」
二人は『ポータラカマスク』で有毒な空気を遮断しているが、しかし水が穢れているのは確かに、生駒も見て確認できた。
封印方法を記した石盤には『清き水の流れ』という文言があった。今水路に流れを戻したところで、この水では封印の役に立ちそうにない。
「どうしたもんかなぁ……」
最奥。
「ベスティさんを返して下さいうさ。
フェニックスだって、ベスティさんの情報の一部だから、燃やしてしまったら、きっと何も残らないです…うさ」
ティーが、瘴気に侵されないギリギリの位置に立って玄王獣と向き合い、説得(「うさ」?)を試みている。だが、それがストレートに通じるなどと、楽観的には考えてはいない。パートナーの鉄心が隙を窺うための、いわば陽動だ。
「貴方の牙も、貴方の毒も、群れを守れなかったはずです……
今更、全て終ったあとに、一人残って暴れたって、何になるんです?
白颯さんが貴方達の血を引く眷属と言うなら、それを苦しめてまで!」
『喧しいわ! 人間などが我に講釈する権利があるとでも思うか!!』
やはり、玄王獣は反発して激昂し、ティーの言葉など耳も貸さないという風だ。だが、激昂した分、隙ができた。それを待っていた鉄心が動く。
『!!』
『アクセルギア』と『ポイントシフト』の併用で、素早く白颯の前に立つと、軽く鼻先を殴りつけた。それによって口を開いてくれればと願った。
だが、予想外なことが起きた。不意討ちとダメージに怯んで頭を下げた白颯が、額を鉄心に向ける形になった時。
「危ないですっ、鉄心!!」
異変に気付いたイコナが叫んだのと、鉄心が慌てて飛びしさったのがほぼ同時。白颯の額から三本の角が現れ、それが槍のように一瞬、鉄心に向かってぎいんと伸びたのだ。
スキルで移動スピードを強化していたおかげで間一髪避けられたが、まさかそんな反撃手段があったとは予想外だった。玄王獣は己の肉体的特徴を、瞬時、白颯に移して顕現させたのだ。
「頭下げてくださいっ!!」
今度は別の声が、鉄心の背後から飛んできた。驚きつつ、反射的に言われたとおりに頭を下げると。
「んぎゃがぁっ!!」
酷い叫び声とともに、何か動物らしきものが数体、猛スピードで玄王獣に向かって飛んで行った。
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