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リアクション
モーロア卿の凛とした声が響く。カーリアは、キッと卿を睨んだ。
「嘘よ。あたしはこの大剣で」
「2百年前、私が我が領内の森で彼女を見つけた時、確かに彼女は瀕死の重傷を負っていた。
意識もなく、意思疎通は出来なかった。
何者かに追われているのかと思ったから、屋敷の中でも誰にも知られぬよう秘密の離れで私ひとりが看護した。
傷は重く、回復の兆しは一向に見えなかった。
それでも少しだけ力が戻った時、彼女は自らの魔力を奮って、この結晶を作り、自らを封じた。
――恐らく、怪我による衰弱を止めるため、この中で己の肉体の時間を止めたのだ。生き延びるために」
その言葉で納得したのはリース・エンデルフィアだった。
確かに、あの石柱は彼女にとっての延命カプセルだったのだ。
ただ、本当に、石柱の中にいくらか液体の成分があるのか、それとも揺らいで見えたのは心象からくるイメージヴィジョンだったのか、それは分からない。
ただし、揺らぐ映像はエメ・シェンノート、キリト・ベレスファーストも見ている。それは彼女自身の心が動いたためではないかという印象があった。
いずれにせよ、あの石柱全体が彼女の生きる意志を反映していることは間違いなさそうだった。
「う……そよ……」
カーリアの表情に動揺が走る。
その時、警備員が数名入ってきて、捕縛された襲撃者を連行していった。ブルーズが取り押さえている襲撃者も、引き渡された。
だが、引き渡される瞬間、一瞬の隙を突いて警備員の手を振り払った襲撃者は、
「くそっ!! 死ね!!」
靴底から投刃を取り出し、こちらに背を向けたカーリアめがけて投げつけた。
「!!」
「危ないっ!!」
柄に瑠璃色の鱗を埋め込み、刃に猛毒を塗った短刀だった。
それは、飛び出したフォーヴの胸に刺さった。
広間が一斉にざわめく中。
「これで……師匠の、愛と、比肩できた、だろうか……」
薄れゆく意識の中で、フォーヴは切れ切れに呟いた。
倒れたフォーヴのもとへ、すぐにミア・マハが飛んできた。
「死ぬでないぞ、若造」
【浄化の札】を張り、【命のうねり】で回復を図る。
襲撃者は再びきつく取り押さえられてしょっ引かれた。
ざわざわする広間の中で。
「……。今度こそ……!」
カーリアはひとり、大剣を握り直し、千年瑠璃の石柱に歩み寄る。
「私には、あなたの特殊能力は通用しない……!!」
だが、石柱の前にいた恭也とキリトが、行く手を阻む。
「駄目ですよ、カーリアさん!」
「どうして、そんなことをする……?」
2人の問いに、カーリアは片手で胸を押さえた。
「この剣で私と彼女、両方を貫いたなら、再び一つの魂に戻れると思った……!
まだ生きているというのなら……2百年前は失敗したけど、もう一度……!」
<カーリア、ごめんね。カーリア>
涼やかな、声なき声が、石柱から響き渡る。
カーリアの目が大きく見開かれる。
「……まさか……千年瑠璃……?」
<カーリア、あなたの剣を受けた時、私思い出したの。シュバリスの記憶を>
<ごめんね、あなたにだけ、辛いものを持たせて、ごめんね>
<迷ってたの>
<シュバリスを恨む人たちの末裔に、殺されるなら殺されてもいいと思ってたの>
<でも、やっぱり死ねない>
<私が死ねば、魂の片割れであるあなたに、何か起こらないとも限らないし>
<何より私、生きて……会いたい>
<ごめんね、カーリア>
<私、このままで、ヒエロを待つわ>
けぶる青の向こう、静かな声と、儚げな笑みのヴィジョン。
「私は……どうするの……?」
カーリアは膝をついた。
「あなたも……ヒエロもいない、この世界で、私は零れ落ちたひと欠片のまま……」
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