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リアクション
EJ社・内部
警備室に迫り来る部隊を、佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)とレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)が蹴散らしていく。
レナリィが【ヒプノシス】で眠らせると、取りこぼした敵へ牡丹が【放電実験】。精密機械へ与える影響が気になったが、この際やむを得ない。敵にデータを奪い返されたら終わりなのだから。
「正直……既に改造された子供へ血清を与えても、効果があるのでしょうか」
襲撃者をすべて失神させた後で、牡丹は心配そうにつぶやいた。すでに何もかも手遅れなのではないか。そんな不安が彼女をよぎる。
「大丈夫ですぅ。子供たちは、きっと治りますぅ!」
レナリィが励ますように言った。胸を張るパートナーを見て、牡丹もわずかな希望を信じてみようと、自分に言い聞かせた。
「わたしは今回の事件を、解決だけで終わらせるつもりはないわ」
ローザマリアが、警備室のコンピュータをもの凄い勢いで解析していた。エシクと共に、【先端テクノロジー】【機晶技術】を駆使してハッキングを仕掛ける。
「先ずはこのフザけた会社をニルヴァーナから叩き出す。でないと第三、第四の実験が繰り返されるわ」
コンピュータに記録されている、証拠に結びつきそうな資料はすべて検索した。提示報告書や業務日記、更には『ファーストクイーンのクリスタル強奪の計画書』と思われる書類も押収する。
ハッキングは順調だったが、ふと、バックアップを取っていたエシクの表情が曇った。
「……誰かが情報をコントロールしている」
エシクの流していた『偽の情報』が、いつの間にか修正されていたのだ。
ローザマリアの表情も険しい。重要事項と思われるファイルが、どうしても開けなかった。
「あの……。それ、私に任せてもらえないでしょうか」
牡丹が、モニタを睨むローザマリアに近づいた。彼女はかつて【根回し】を使い、EJ社を視察したことがある。もっともその時は、単に技術を学ぶつもりで侵入したのだが……。
厳重なセキュリティのファイルを開くのに、EJ社の情報が役立つかもしれない。
「そうね。やってもらおうかしら」
ローザマリアに解読を任され、牡丹の、技術屋としての血が騒いだ。
「情報に善も悪もないんだよ。すべてはそれを使うもの次第だ」
コンピュータ制御室で、佐野 和輝(さの・かずき)が粛々とつぶやく。彼の身体は、魔鎧であるスノー・クライム(すのー・くらいむ)によって守られていた。
和輝もまた【根回し】を使い、EJ社に契約社員として携わっている。彼が興味あるのはただ一点。EJ社の高い技術力である。
情報そのものを裁くことは、誰にもできない。彼はEJ社におけるすべてのコンピュータをハッキングし、情報の漏出を防いでいた。
「実験体にされたのは運がなかっただけ」
アニス・パラス(あにす・ぱらす)が見ていたのは、改造された八人の子供のデータだ。
彼女は思う。
――アニスも運がなかった。でも和輝が助けてくれた。
「貴方たちにも助けがくるといいね」
「くくっ……。キメラ実験か。これだから、人間と言うのは実に面白い」
隣からリモン・ミュラー(りもん・みゅらー)もデータを覗きむ。嫌いなリモンがそばに来たので、アニスは不服そうに口をすぼめた。
しかし、和輝のためならしかたない。そう彼女は思い直し、【ディテクトエビル】での警戒をつづける。
「肝心の蠱毒計画だが……。邪魔が入ったせいでスムースにはいかないようだ。せっかく、私の研究データを提供してやったというのに」
地下施設を映し出すモニタを見ながら、リモンは愚痴をこぼす。
リモンが提供したデータはほんの一部であり、彼女はその見返りとして、EJ社の情報を根こそぎ奪おうとしているのだが。
「おや、これは素晴しい。サンプルとしては高ランクだな」
「俺たちは契約を満了しているからな。サンプルさえ取れれば、もう付き合う必要はないんだが」
【ディメンションサイト】で契約者の動向を監視しながら、和輝が言う。
「最後に、手伝いくらいはしてやろう」
そしてパートナーたちに、風森 巽(かぜもり・たつみ)の動きに注意するよう告げた。
『ツァンダー変身ベルト』で“仮面ツァンダーソークー1”に変身した風森巽は、EJ社の幹部を探していた。重要人物を捕まえれば、血清の発見にも役立つかもしれない。
狙うは最高経営責任者(CEO)の待機する部屋である。
「この部屋が怪しいな」
巽は、表札のない部屋を見つけると、さっそく侵入した。
部屋の中は薄暗い。つんとする腐臭が鼻をついた。
目をこらした、巽の前には。山積みにされた子供たちの死体があった。
実験に失敗したのだろう。蟲を移植され、不自然な姿となった子供たちが、天井付近まで折り重なっている。彼らの姿は、まるで規格の異なるプラモデルを無理やり組み合わせたようだ。
「ふざけやがって……!」
怒りをこめて、彼は血が滲むほど強く、唇を噛み締めた。
だが。すぐに我を取り戻す。
彼の【殺気看破】が、人の気配を感じたからだ。
「そこに誰かいるのか?」
部屋を覗きこんだ研究員が、つかつかと入ってくる。
すかさず、巽はスタンガン程度に調節した【轟雷閃】で当身を食らわせた。気絶した研究員を物陰に連れ込むと、たたき起こして、尋問をはじめる。
「おい。幹部の場所を吐くんだ」
「し、知らない……っ!」
「素直に喋ったほうが身のためだぜ?」
だが、研究員は知らないと言い張る。嘘をついている様子はない。
幹部の居場所は、ごく一部の人間にしか知らされていないのだろう。
「仕方ない。自力で探すか」
そう言って立ち上がった巽に、研究員が襲いかかった。
「死ねっ! このバッタもどき!」
振り下ろされた注射器をさらりとかわすと、巽は拳を固める。
「ありがたいね。アンタをブン殴るのに、罪悪感が沸かないよ」
巽の鉄拳がうなる。
研究員は激しく吹っ飛び、壁に等身大の穴をつくった。
「予想、はずれちゃったなぁ……」
十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が肩を落としながら廊下を歩く。
彼は、『たいむちゃんを誘い出すため情報を流した者がいるのでは?』と睨んだが、それらしい証拠はつかめなかった。
「みゅ〜。お兄ちゃん、次はがんばろうね!」
コアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)が、宵一を励ます。
「うん、ありがとう。まあこんな事件、もう起こってほしくないけど……あれ?」
宵一はふと、足を止めた。
なにもない壁が急に開き、EJ社の研究員がつぎつぎと飛び出してくる。慌ただしく走り去って行くと、扉が閉まり、元のなにもない壁に戻った。
「なんだろう、あれ……」
「みゅ〜?」
敵の姿が見えなくなったのを確認すると、宵一は壁に手をやった。
「おい。キミは、何をしているんだ?」
イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が、壁をまさぐる宵一に聞いた。彼の後ろでは、フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)が睨みをきかせている。
「あ、俺は怪しい者じゃなくて……」
宵一が先ほど目撃した、謎の扉のことを伝えた。
「ほう。では、この向こうが怪しいな」
イーオンは独自に集めた資料を取り出す。
EJ社の技術と資金力。民間企業のレベルを超えていることに、疑惑をもったイーオンは、背後関係を念入りに調べていた。
手にした大量の資料。そこからイーオンは、一人の男の名にたどりついた。
『金鴻烈(ジン・ホンリエ)』
その男こそ、EJ社の最高経営責任者だった。
「へえ! 金鴻烈っていうのか。我がいまから殴りに行く相手は」
風森巽こと“仮面ツァンダーソークー1”が、腕を鳴らしながら近づいてくる。
「キミも、CEOを探しているのか」
「うん。どこを探しても見つからないんだけど」
「鴻烈の居場所は、どの見取り図にも書かれていない。だが――。奴が、この隠し扉の向こうにいる可能性は、非常に高い」
イーオンが、フェリークスを扉の前に立たせた。
「フェル。こいつをこじ開けてくれ」
「イエス・マイロード」
フェリークスは、隠し扉に【ピッキング】を仕掛けていく。
「にひひ〜っ。残念でした〜♪」
コンピュータ室で、アニスが笑う。
彼らの動きを監視していた彼女は、警報ブザーを発動させていた。
けたたましいサイレンが、施設内に響きわたっていく。
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