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リアクション
「あの程度の要塞、総攻撃をしかければそう時間をかけずに落とせると思うんですがね? 犠牲は少ない方がいいというお考えは理解は出来ますが、愚案では?」
国境の戦場にて、エリュシオン帝国第七龍騎士団の副団長ルヴィル・グリーズが、団長に就任したばかりのレスト・フレグアムに問いかける。
レストの選んだ戦法は、敵の将を狙うというもの。
味方は勿論、敵の犠牲も極力出さない方針のようだった。
「……この戦いには、理由がある」
レストは側近の龍騎士にだけ語っていく。
「百合園女学院のイコンや、魔法技術。それらは我等エリュシオン帝国から流れた技術だ。また、シャンバラ側についた龍騎士団員もいるという始末。我等はシャンバラと地球だけではなく、我等が育てた技術、力に苦しめられている。そして……」
帝国の技術者の全てが帝国に帰還したわけではない。
シャンバラに残った一般人がいるように、イコンの整備や調整にあたっていた技術者の中でも、イコンと共に、シャンバラに残った者もいる。
無論、軍属の者には帰還命令が出てはいるが、行方不明になっている者も少なくはない。
「エリュシオンのイコン、そして魔法を、変わらず主に東シャンバラが利用しているように、イコンの技術も利用されるはず。地球の技術をも用いた新なイコンの製造に、着手していはいはずがない。それを、和平交渉の前に、焙り出すことが今作戦のもう一つの狙いだ」
「和平後であれ、他国に軍事機密の提供をすることはない。こちらが求めようとも。奪う口実もなくなる……ということですか」
言って、ルヴィルは唸り声を上げる。
「帝国でも同等の技術を持てるようにせねばならない」
レストは要塞の方に目を向ける。
攻防の音と衝撃は、彼らが留まる陣まで響いてくる。
「突然の開催の割に……随分と集まりそうだな」
旧帝国魔法院、現ヴァイシャリー魔法資料館にて、金 鋭峰(じん・るいふぉん)が、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に小声で話しかけた。
「この日の為に、事前に色々な噂を流してありましたから」
くすりと、ラズィーヤは笑みを浮かべた。
鋭峰は腕を組み、普段通りの険しい顔つきで訪れる者達に目を光らせていた。
旅客船を装った帝国の飛空艇は、遥か上空を飛び、ヴァイシャリー上空に向かっていた。
龍騎士と従龍騎士、飛龍。そして完全に機械で作られた獣である、機械獣が乗っている。
「新型イコンの奪取が目的なんだよね?」
第七龍騎士団に所属する地球人が、指揮官であるアイアスに問いかけた。
「イコンとは限らない。帝国にとって脅威となる存在を、押さえておくことが目的だ」
「ふーん。目的のモノ、あるといいね」
地球人の言葉に、無言でアイアスは頷く。
旅客船にしては速く、船は飛んでいく。
第1章 学生であるか軍人たるか
百合園女学院、生徒会執行部、通称『白百合団』に所属するメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、パートナー達と共に、ヴァイシャリー魔法資料館が見える高台で、警備に当たっていた。
「こちらは異常ありません〜。買い物や仕事を終えて、家路を急いでいる人の姿が沢山みられますぅ」
携帯電話で、警備方面の指揮をとっている白百合団副団長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に連絡を入れておく。
「私達、一人一人の力はエリュシオンのイコンや飛竜に比べると微々たるものですが……それだからこそ、出来る戦いというものがありますわ」
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、街の人々を慈しみを籠めた目で見おろしながらそう言った。
「この町並みがエリュシオンのイコンやワイバーンによって破壊されたら……とても悲しいですけれど、ここに生きる人達が、生きていれば……街は再建できますから」
だから、シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)は、いざという時には避難活動に精を尽くすつもりだった。
「被害者、出したくないよね。うん、誰一人として被害者は出したくない」
それは難しいことだと解っているけれど、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は理想は高くもっていたいと思う。
それに見合うだけの努力をしていこうと。
敢えて高い理想を掲げ、それを実現するために頑張ろうと心に決めていた。
「日が落ちてきましたねぇ……。何も起きないで欲しいですけれど、何が起きてもきちんと対処できるよう、注意していきましょうね〜」
メイベルの言葉に、パートナー達は強く頷いた。
「こういった催しには確実になんらかのトラブルがあるんだよな」
ロイヤルガードのラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、神楽崎優子と相談の上、パートナーの秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)と共に、魔法資料館正面入り口前を警備していた。
「何も起こらなければ……それに越した事はねぇんだけどなー」
殺気看破で探ってみるが、今のところ何も感じはしない。
資料館に入っていく人物の中にも、怪しい人物はいないように見える。
「……好き勝手密告されて好き勝手に荒らされるのはもう許さないよ」
峰谷 恵(みねたに・けい)もまた、警備の協力を申し出て、魔鎧のレスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)を纏いながら、入口の警備に当たっていた。
「ようこそいらっしゃいました!」
来客には愛想を振りまいて挨拶。近づいて深々とお辞儀をする。
「羹に懲りて膾を吹く……のなら笑い話で済みますが」
「普段は敵意を隠していても、何かへ反応した際は漏れ出すもの」
パートナーのエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)と、グライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)は、恵のやや後方に立ち、訪れる人々に注意を払っていた。
「見た目だけではわからないけど……どう?」
恵は振り向いて、後ろにいるグライスを見た。
グライスは首を左右に振る。
ディテクトエビルで来客を探っていたが、何一つ、ひっかかりはしない。
「ん? あれは国頭か……」
ラルクが知り合いの姿に気づく。
パラ実生もいるようだがいずれも、百合園と親交のある人物のようだ。
彼らもラルクの殺気看破にも、グライスのディテクトエビルにもひっかかることはなかった。
「神楽崎隊長!」
ロイヤルガードの沢渡 真言(さわたり・まこと)は、沢山のナイフと武術行使に適した武具を装備して、パートナーの沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)と共に、館内の警備を担当することになった。
「新しい武器の使い方も覚えたことですしね。この会場の警備ならこれが相応しいかと思ったんですよ」
「そうだな、会場内では魔法の大技などは控えてほしいし、武術をメインとした戦い方が適しているだろう」
神楽崎優子は、そう答えながら真言と一緒に館内を見回っていく。
「暴れる方が会場に紛れるかもしれませんし、スタッフの皆さんに紛れておけば、要人達をお守りしやすいのではないでしょうか」
真言のその提案に、優子は首を縦に振った。
「白百合団員がそのように動いてくれるとは思うが、警備側のメンバーも数名加わっておくと連携がとりやすそうだ」
「私はもともと執事ですし、何事もなければスタッフのお手伝いをさせていただくということで、加わらせていただきますね」
「頼む。団長には私から話しておくよ」
「マスターが会場内を、という事であれば、私は外周りにいた方が良いでしょう」
マスター……真言を手伝うために訪れた隆寛は、外での防戦と連絡係の担当を希望する。
「頼んだよ。ただ、交戦時は実力を発揮するために、パートナーとは極力一緒に行動をしてほしい。適宜、合流してくれ」
「わかりました」
軽く礼をして、隆寛は外の警備へと向かっていった。
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