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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【1】暴君暴吏……1


 崩落した都市部に立ち込めるは砂煙土埃。
 ところはコンロン。首都ミロクシャ周辺に広がる滅びの都『廃都群』。
 ブラッディ・ディバインの九龍(クーロン)の罠にはまったニルヴァーナ探索隊は壊滅状態。
 はてさて崑崙的怪異談・後編、いかなる結末を迎えるのか……。
「くそ、失態だ。まさか奴がこの土地に精通しているとは……。ええい、先遣隊はまだ到着しないのか!」
「す、すみません。先ほど合流完了しました……」
「ならばとっとと隊の再編成を進めろ! ぐずぐずするな!」
 指揮官のメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)は苛立ちを隠そうともせず怒鳴った。
 曇天の暗い空の下、大路の石畳は波打ち、崩れ落ちた建物が寝転ぶ。
 崩落から生還した者も多いが、まだ生き埋めになっている者もたくさんいる。
『こちらレン・オズワルド……俺は無事だ。しかし負傷者多数、ポイントD8に人手を回してくれ』
 冒険屋レン・オズワルド(れん・おずわるど)も生還したひとりだ。
 地下道に落ちた彼はポッカリ空いた真上の空洞を見つめた。
 小さく切り取られた暗い空は今の探索隊の心を表しているようだ。
 周りには気を失った探索隊員が数名、大した怪我ではなさそうだがこのままにしておくことも出来ない。
 その時、真上からゆっくり魔法のはしごが降りてきた。
「なんだ生きてやがったか、相変わらず悪運の強ええ奴だな」
「随分と早い到着だな」
 悪魔メイドリンダ・リンダ(りんだ・りんだ)はニヤリと笑った。
 先程、連絡をとって呼び寄せたのだ。この惨状では悪魔の手でも借りたい。
「よし、とりあえず全員上まで運びだそう」
「まったく面倒なもん運ばせやがって、ちゃんと仕事料は貰うからな」
「やれやれ」
 二人は負傷者を地上に運び出す。地下も燦々たる有り様だったが、上も見るも無惨な光景だった。
「負傷者はこっちに運んで! 重傷者は右に、軽傷者は左に寝かせて!」
 素早く的確に指示を飛ばすのはフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)だ。
 ミスティルテインからアドバイザーとして出向中の彼女は、半ば強引に救出隊の編成許可を大尉から取り付けた。
「にしても顔ぐらい出せばいいのに……」
 先ほど会ったメルヴィアの顔を思い出す。
 彼女はあっさり許可を出すと他の仕事があるとそそくさとその場をあとにしてしまったのだ。
 負傷した部下にとっても、怪我を免れた部下にとっても、上官が気にかけてくれないのは士気を削がれることだ。
「なんでアイツひと言も声かけねぇんだよ……」
「大尉だからってお高く止まってよー。マジあり得ないわー」
「気にかけてくるの、フレデリカさんだけじゃねぇか」
「あの子はホラ、ツンデレってやつだから。悪く言わないであげて」
「でもぉ……」
 フレデリカは好印象を持たれたが、しかしやはり大尉の印象はよくない。と言うか悪い。
 何度か傍を通ったが一瞥すらしなかった。
「……それにしても、たったひとりにここまでやられるとはな」
 ふとこぼしたレンの言葉に、フレデリカも眉をひそめる。
「でも死者がいないだけまだ良かったわ。あまり考えたくないけど、ここで死んだらキョンシー化する危険があるもの」
「昨日まで隣で過ごしていた相手に剣を向けられる、と言うことか……」
「そして、私たちも剣を向けなくちゃならなくなる……」
「……この場所が呪われている理由がよく判った」
 そう言って澱んだ街並を見渡す。
「魔物が出るから危険なのではない。生きる為にかつての仲間すら手にかけねばならない環境にある」
 漂う穢れには生き残った人間の悔恨と無念の想いも混じりあっているように思えた。
人が人でなくなる場所、だから危険なのだ
「レン……」
 リンダは視線を向ける。
「そして九龍。奴もまた狂ってしまった一人だろう。寺院の暗殺者が?奴と不浄妃に深い因縁があるのは判った。おそらく道士・白龍(パイロン)とも関係が……いや、あるいは奴こそが白龍なのかもしれない」
「そりゃどう言う……あ、待てよ!」
 再び埋もれた隊員を探しにいくレン。彼のあとをリンダは追いかける。
 コイツ、敵の殺し屋にまで同情してんじゃねぇだろうな……と彼女は内心唇を尖らせた。
 不浄妃と九龍の因縁を絶つ、いや、彼がかつての仲間との絆を取り戻せれば、とレンは考えていた。
 九龍は罪人だ。しかし救いがあってもいい。
「罰か……」
 レンは静かに空を見上げた。