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リアクション
Lesson0 魔法少女の誕生です。その1
スカートがふわりと揺れて、ポニーテールの髪も踊る。
クルッと回ってぴしっとポーズ。
「……これでいいですか?」
「うん、最高!」
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の、羞恥に顔を赤らめた問いに小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は大きく頷いた。
「だからベアトリーチェ、もう一回!」
ベアトリーチェの羞恥を知ってか知らずか、美羽はもう一度と頼み込む。美羽の頼みを無下にすることもできないベアトリーチェが、顔を赤くしたまま同じ動きを繰り返した。
クルッと回ってぴしっとポーズ。
きゃるん、とか、きゅるん、とか、そういった類の擬音が合いそうな愛らしいポーズである。
ベアトリーチェの動きを見た後、美羽はクロエの顔を見た。ベアトリーチェをじっと見つめるクロエの瞳は、期待と希望にきらきらと輝いている。
クロエの頭を撫でて、
「どう? クロエ。こんな感じだけど、わかった?」
美羽は問いかける。
「わかったわ!」
「じゃあ最終試験! 私と一緒にせーのでポーズ! せーのっ、」
クルッと回って。
ぴしっとポーズ。
美羽とクロエの動きはシンクロしていて、それはもうちょっとした感動を覚えるほど様になっていて。
「おめでとうクロエ! これで立派な魔法少女の仲間入りだよ!」
「ほんと?」
「もっちろん! この『魔法少女マジカル美羽』のお墨付きなんだからもっと自信持っていいよ」
胸を張って言うと、クロエがやったぁと嬉しそうな声を上げた。
「……で、あれは何をやっていたの」
美羽、ベアトリーチェ、クロエのやり取りを工房の中から眺めていたリンス・レイス(りんす・れいす)が、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に問いかけた。
コハクは、魔法少女の衣装作りの道具を片付けながら苦笑する。
「『魔法少女には、心得や行いなど大切なことはいろいろあるけど……魔法少女である以上、やっぱり大事なのはかわいい衣装と決めポーズだよね!』って美羽が言いまして」
魔法少女の衣装を作っていたベアトリーチェをポーズのお手本役に引き入れたのだった。
引き継いだ衣装作成も無事に終わり。
あとは、決めポーズを習得したクロエがこれを着れば立派な魔法少女の誕生だ。
「ただいま!」
噂をしたところで、三人が工房に戻ってきた。
「あ、衣装できてる! さすがコハク、やるねっ」
美羽が笑って衣装を手に取る。ひらりと衣装を広げたとき、また何か閃いたらしい。一秒間表情が固まり、それからにやぁと笑みが零れた。
「ベアトリーチェ! 変身!」
「えっ?」
「変身だよ。魔法少女なんだから、そっちのお手本も見せなくちゃ」
美羽の言葉に、ベアトリーチェが判断を仰ぐようにコハクやリンスを見た。リンスはきょとんとしたまま何も言わない。というか、言えないでいるのだろう。自分だってそうだ。
「ベアトリーチェさん、変身できるんですか?」
一度も見たことがないけれど。
でも、できるなら、これから魔法少女を目指そうとするクロエにはいい刺激になるのではないだろうか。
誰も否定の声を上げることがなかったからだろう、ベアトリーチェがおずおずと一歩前に出た。
刹那、ベアトリーチェの姿が光に包まれて一瞬見えなくなり――
「ええっ」
再び姿を認めたとき、思わずコハクは声を上げた。
かっちりと着ていた学校の制服は、りぼんとレースとフリルがいっぱいの女の子らしいミニドレスに変わり。
いつものポニーテールは、ツインテールに変わり。
普段見慣れた眼鏡もなくて、それはすごく印象が変わっていて。
「なんか幼い?」
リンスが首を傾げながら、言う。そう、幼い。とコハクも内心頷いた。
「もー。リンス、それ以外に言うことないの?」
美羽が頬を膨らませてリンスを見る。女の子側からすれば、今の感想はNGだったらしい。
「ベアトリーチェおねぇちゃん、かわいい!」
「だよねー! やっぱりクロエはわかってるね」
クロエの感想が正解だった。
実際、可愛いとコハクも思う。ただ、いつもと違うというか、意外な一面というか、そういうところに注意が行ってしまっていたというか。
「よっし、じゃあ魔法少女になったことだし!」
「なったことだし?」
「その格好でもう一度決めポーズやるよ!」
「えっ……、ええっ?」
ベアトリーチェの腕を取って、美羽がまた工房の外へ向かう。クロエもきゃぁきゃぁ、楽しそうだ。
「リ、リンスさーん。コハクさーん……」
止めてー、とこっちを見るベアトリーチェに、
「頑張れ。可愛い魔法少女なアイブリンガー、ここから見てるから」
リンスが手を振った。
たぶん、美羽を止めることは出来ないと悟っているのだろう。
大正解だ、とコハクもベアトリーチェに手を振った。
*...***...*
「ふむふむ。魔法少女に必要なのは、決めポーズと変身スキルかぁ……どこかで会得しなきゃねっ」
愛海 華恋(あいかい・かれん)は頷きながら、今見たものを噛み締めるように口に出して言った。
それから、
「ほら、理沙。今のところちゃんとメモしてっ」
びしり、白波 理沙(しらなみ・りさ)に指示を出す。
「だから、なんで私がメモ係なのよっ」
文句を言いながらも、理沙はきちんとメモを取ってくれていた。
メモ帳には見出しがあって、大きく『魔法少女になるための心得』と書かれている。その下にいくつもの心得が綴られていて、つまりそれだけのことを書く時間、クロエを見ていたということになる。
「かれんおねぇちゃんは、おべんきょうねっしんなのね!」
クロエが華恋に笑いかけた。華恋は薄い胸を張って得意げに笑う。
「ボクも魔法少女になるために一緒に頑張らなきゃだからねっ。先輩の教えを学んでおかなくちゃ」
「それなら余計に貴方がメモを取るべきでしょ」
理沙がもっともなツッコミを入れるが、それはそれ、これはこれ。
「理沙は蒼空学園の新生徒会の書記なんだから、メモには慣れておかなきゃね」
「お心遣いありがとう」
皮肉めいたことを言われても気にしない。
――だって、自分でメモするの面倒だもん。
心の中で舌を出す。
それにこうして一緒に学んでいれば、「魔法少女ってそんなにすごいものなの?」と胡散臭そうに華恋を見ていた理沙も、魔法少女のすごさに気付くかもしれないし。
「そういえば、豊美ちゃんはまだ来ないのかな?」
今現在工房に居るのは、クロエと美羽たち、それから工房の主であるリンスくらいなのだ。本家本元魔法少女、飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)こと豊美ちゃんがここには居ない。
「ヒーローはおくれてとうじょうするものよ!」
「あっ、なるほど! クロエちゃん、ボクより先に魔法少女に名乗りをあげただけあるね!」
「えへー。でしょーでしょー」
「ほら理沙、今のもメモるっ」
「今のも!? 明らかに不要でしょう、今のは……」
実は日課のジョギングに勤しんでいて来るのが遅かっただなんてこと、少女たちは知らない。
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