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リアクション
レッスン2 教わってみましょう。その2
ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は、豊浦宮所属の魔法少女である。
――豊美ちゃんに認定されてるんだから。
――後輩に、ダメダメなところは見せられない。
と、意気込んでクロエの前に出たものの。
ネージュは、魔法少女としての派手な技は使えない。
魔法少女はコスチュームを着こなせて一人前だというのに、ルピナ・スフィラーレ(るぴな・すふぃらーれ)以外のコスチュームもないし。
だけど。
――あたしには、癒しの力と才能がある。
何も、戦うだけが魔法少女ではない。
怪我をした人を癒したり、心の重荷に押し潰されそうになっている人を助けたり。
そういった活動をすることだって、魔法少女としての立派な役目である。
「クロエちゃん。魔法少女っていうのは、戦うだけじゃないんだよ」
教えてあげる。
非戦闘系の魔法少女のあり方を。
「派手な魔法を使って悪い人をやっつけるのも魔法少女。
だけど、困った人や傷ついた人を率先して癒したり助けたりすることも、魔法少女のあるべき姿なんだ。子供たちの遊び相手になってあげたりとかも、ね」
『博愛』、『奉仕』、『癒し』。
その三つが大切なことだ。
ネージュは辺りを見回して、木陰で休む四谷 大助(しや・だいすけ)に近付いた。先ほど七乃やグリムゲーテがクロエに戦い方を教える際に悪役を演じた彼には、いくつか小さな怪我があった。
「あたしの魔力と想いをこのブーケに込めて」
あなたの怪我を癒す風に。
みるみるうちに治った傷を、クロエが、大助が、驚いたような感心したような表情で見つめる。
「これが、あたしの魔法少女としての力」
『癒し』を花言葉に持つ、『ルピナスの宝珠』の魔法少女らしく。
「あとは変身、かな?」
言いながら、ルピナを見た。ルピナがこくりと頷く。
「ボクは魔鎧のルピナ」
「まがいさん」
「うん。魔鎧だって魔法少女のコスチュームになれるんだよ。経験次第では魔砲少女や魔杖少女にだってなれる。ボクだと魔剣少女になるのかな?」
こんな風にね。
言って、ルピナが魔鎧化した。ネージュがルピナを纏い、変身完了。
「精神疎通だってできるから、コンビネーション行動だって取れる。非戦闘系は行動手段が乏しくなりがちだけど、こうすればより個性的で幅広いスキルの選択ができるはずだよ」
「そんなところかな?」
教えられることは教えたつもりだ。
あとはクロエがどう活かしてくれるか。
どんな魔法少女になるのか。
「見守ってるね、クロエちゃん」
言って、優しく笑いかけた。
*...***...*
新人魔法少女の教育ということで。
ナナ・ノルデン(なな・のるでん)は、はるばるクロエの住むヴァイシャリーまでやってきた。
「いいですか? 魔法少女たるもの、街の人たちから頼られるようにならないとなりません」
真面目な顔をしてナナの教えを聞くクロエに、ナナも真摯な態度で教鞭を振るう。
「そのためには、まずは善行を積み重ねましょうか」
「ぜんこう?」
「はい。たとえば、ご老人のお手伝いをしたり、困った人を助けたり、ですね。あとは野良ゆる族を保健所に引き渡したり」
最後の、ナナなりの冗談はクロエが真面目すぎたのかぎょっとした顔をされてしまった。
「……は、冗談ですけど」
付け足すと、ほっとした顔をしたのでよしとする。
「できることなら、野良の方はパートナーを見つけてあげると良いですね。
そうやって些細なことでも良い行いをしていけば、自然と頼られるようになります」
人々の幸せを守って。
みんなに頼りにされて。
「それではじめて、一人前の魔法少女になれるんですよ」
実践してみせようと、困っている人がいないか周囲を見渡してみる。と、リンスと目が合った。
「何かお困りですか?」
「ん……前にザンスカールで買った特殊な材料、なくなっちゃって」
「人形作りの材料ですか」
「そう。急いではいないんだけどね」
急いでいないといっても、いつ必要となるかはわからないわけで。
「ザンスカールでしたら、私、お使いに行ってもいいですよ」
何せ、イルミンスール魔法学校に通っているものだから。
そのついでに買うことは難しいことではない。
「ありがと。助かる」
「どういたしまして。……とまあ、クロエさん。こういう風に、足を伸ばした先で人々を助けることも大切なのですよ」
「はいっ、わかりました!」
元気の良い返事に自然と顔が綻んだ。
けれどひとつ、大切なことを伝え忘れていたと思い至って真剣な顔に戻す。
「魔法少女といえど、残念ながら皆が皆、善人ではないのも事実です」
良い人がいれば悪い人がいる。それは至極当たり前のことなのだ。
「きっと誰かが悪い見本を見せてくれるはずなので、私の教えはここでおしまいです」
「ナナおねぇちゃん、ありがとうございました」
ぺこり、頭を下げるクロエに手を振って、ナナは帰途を行く。
――悪い見本なんて、ないにこしたことはありませんけど。
――見ておくことは、大事ですし。
難儀なものですね、と一人ごちた。
*...***...*
ナナの言うとおり、魔法少女には――いや、人には悪いことを考えるタイプの者がいる。
フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)はそちら側の人間だ。
「魔法少女になったんだって?」
腰をかがめてクロエに目線を合わせて微笑む姿は、魔法少女のあり方を教える先輩魔法少女のようにも見えるのだけれど。
「おねぇちゃんはどうしてそんなかっこうをしているの……?」
思わずクロエが怪訝そうに訊いてしまうような格好をしていた。
上半身は、きちんといつものように服を着て。
下半身は、下着以外何もつけていない。
「これかい?」
クロエの問いに、フィーアは背筋を伸ばして自分の姿を見せるようにくるりとその場で一回転した。
髪の毛と、超感覚で生やした犬耳や犬尻尾が揺れる。
「可愛い尻尾だろう?」
「うん。さらさらそうで、すてきよ。でもね、そっちじゃなくて、おようふくのことなの」
追求されたので答えてあげることにした。
「それはね、魔法少女の基本スタイルだからさ」
「え、……えっ?」
明らかに戸惑うクロエに、くすりと笑う。
「したぎ、まるみえなのに?」
「昔の偉い人は言ったんだ。『パンツじゃないから恥ずかしくない』ってね」
「でも、みえてるのはパンツだわ」
「いいや? これは魔法少女の基本的な格好。つまり制服なんだ。ということは、パンツではない。だから恥ずかしくない!」
ばばん、と胸を張って言ってのけた。勢いに、クロエが押されているのがわかる。
「さあさあ、魔法少女ならこれは基本的なスタイルなんだから。みんなこの格好をしようじゃないか」
ここにはたくさんの新人魔法少女がいる。
「で、でもはずかしいでしょう?」
「パンツじゃないから大丈夫さ。それにこういう言葉もある。『赤信号、みんなで渡れば怖くない』」
別にここまでしてパンツが見たいわけではないのが、フィーアの困ったところだ。
面白そうだからやっている。
悪意がないから、最も性質が悪かった。それはフィーアも自覚している。
――でも、面白いからね。ついやってしまうね。
新人魔法少女の反応を、くすくす笑いながら見ていると。
「嘘教えないでくださいー! パンツ姿が魔法少女の基本的な格好なはずがありませんー!」
豊美ちゃんの鋭いツッコミ魔法が放たれた。避ける術もなく吹っ飛ばされて宙を舞う。
もう少し混乱する場を見ていたかったが仕方ない。
――それにまあ、これはこれで空中遊泳みたいで面白いかな。
落ちる時に痛そうなのが問題だけれど。
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