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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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Lesson0 魔法少女の誕生です。その2


「きましたわ……」
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が、ぽつりと呟く。
 視線の先には、魔法少女組合からの会誌。
 それを見て、 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はああ、と頷いた。
 ――この間、クラス『だけ』は魔法少女になったんでしたっけ。
 女の子だから魔法少女に憧れているのか、それは定かでないけれど。
 そろそろ、『だけ』を外したいと思っているのは近遠にもわかった。
「ユーリカさん、魔法少女になりたいんですか?」
「!! 近遠ちゃん、あたしの考えがわかるんですの!?」
「はい、もちろん」
 それだけ期待に目を輝かせていたのなら、パートナーでなくともわかる。
 とは言わないでおこう。だって、近遠がわかったことに対してなんだかとっても嬉しそうだし。
「何、魔法少女になるのか?」
 近遠とユーリカの話が聞こえたのだろう、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が顔を出す。
「はい。あたしも魔法少女になりたいんですの!」
 イグナの問いに、ユーリカが頷く。希望に満ち溢れた瞳を見て、イグナの瞳が優しくなった。
「そうか。ならば我は見守っていよう」
「見守っていてくださるのですか?」
「ああ。危なくなったら、すぐに助けに入るのだよ。だから貴公は、目標だけを見て邁進せよ。頑張ってくるのだぞ」
「はい! イグナちゃん、ありがとうですわ!」
 イグナの後押しも受けて、ユーリカのやる気はどんどん上がっていく。
「アルティアは、ユーリカさんがちゃんと魔法少女になれると信じているのでございます」
 ふんわり柔らかく微笑み、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が言った。
「アルティアちゃんまで……あたし、みんなに見守ってもらえて幸せ者ですわ! 絶対絶対、魔法少女になってみせます!」
 みんな、というからには近遠もその中に入っているのだろう。まあ見守るつもりでいたけれど。
 ――見守るというより、その独特な魔法体系が気になるから観察……となるのでしょうけど。
 なんてことは、もちろん言わない。
「はい。みんなで見守っていますよ。頑張ってきてくださいね」
 ぽん、と背中を押してやった。力強く頷いて、ユーリカが家を出た。
 向かう先はヴァイシャリーの人形工房。
 新魔法少女誕生に、豊美ちゃん自らが教えに来たり、するらしい。
 ならばなおさら観察甲斐があるなと考えながら、近遠はユーリカの後を歩いた。


*...***...*


 さて、各方面から期待を向けられている豊美ちゃんはというと。
「魔穂香さーん。やっぱり今日くらいは、ジョギングは遠慮しても良かったんじゃないでしょうかー」
 ゆったりとしたペースで走りながら、現在時刻を気にしていた。
「今日は、クロエさんの初めてのお仕事の日なんですしー……」
 決して、走ることが嫌なのではない。日課にしていることをないがしろにするつもりもない。
 ただ、待っているだろうクロエのところに、早く行ってあげたかったのだけれど……。
「豊美さん、こういうのは毎日続けることが大切なんですよ?」
 魔穂香が、静かな声で淡々と言うので。
「で、ですよね、あははー……」
 と笑うことしか出来ず。
 少しでも早くコースを回り終えようと、ペースアップすることしか叶わなかった。とはいえ、極端にペースを上げると魔穂香が何か言うかもしれないので、ほんの少しだけだったが。
 焦燥感を覚えながらもジョギングを終えた豊美ちゃんが一度家に帰ったところで見たものは。
「……あれ?」
「待っていたわ、豊美ちゃん!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の姿だった。


 話は少し、遡る。
 その日、夏の暑さにやられたセレンフィリティは、つけっぱなしのテレビをぼんやりと見つめていた。セレアナが「観るつもりがないなら消しなさいな」と言うが、それすらだるくて面倒で。
 ただただぼんやり、流れるコマーシャルを観続ける。
 いくつものCMが流れては消え、流れては消え。
 どれくらい時間が経っただろう?
「私、飛鳥豊美、13歳。ここパラミタで、魔法少女をやらせてもらってますー」
 そんな出だしのCMに行き着いた。
「……魔法少女」
 何かが、琴線に触れた。じっとテレビを見つめる。
「魔法少女は、今日も皆さんに、平和で安心な暮らしをお届けしますー。
 『あなたの街に、魔法少女。』よろしくお願いしますー」
 にこやかな笑みを浮かべ、魔法少女の宣伝を、豊浦宮の紹介をする豊美ちゃんの姿。
 続いて魔法少女の衣装に身を包んだ少女たちの姿が映し出された。
 それを見て、
 ――あ、これだ。
 と、セレンフィリティは思った。なぜそう思ったのかはわからない。
 ただ、これしかないと感じた。直感だ。そこに理屈なんていらないのだと、思う。
 魔法少女になる。
 決めた。もう決めた。
 となれば行動するのみなので。
「行くわよ」
「はっ?」
 セレンフィリティは、唐突な誘いに戸惑うセレアナの手を引いて街に出た。向かう先はコスプレショップ。ここなら魔法少女の衣装を売っていると踏んでのことだった。
 予想は的中。衣装を着て、次に向かうは豊浦宮。
 魔法少女の代名詞であり、豊浦宮の社長である豊美ちゃんに直談判するために。


「と、いうわけよ」
「なるほどー。セレンフィリティさんは、魔法少女になりたいんですねー」
 話を聞いて、豊美ちゃんは頷いた。
「ええ! セレアナと一緒にね」
「私はいいわよ」
「そんなこと言わずに。二人で魔法少女になるのよ!」
 セレンフィリティの押しに、無理やり連れてこられたらしいセレアナがはいはいとおざなりに頷く。
 どうやら二人とも、魔法少女になるようだ。
「それでは、お二人も一緒に向かいましょうかー」
「向かう?」
「はいー。今日は魔法少女デビューを果たす子に、いろいろと教えに行く日なんですー」
 ね、と魔穂香に笑いかける。
「……私も行くの?」
「先輩魔法少女ですし。嫌だったり、他に予定がありましたら残念ですけど……」
「……まあ、いいわ。嫌でもないし、予定もないから」
 若干、面倒そうだけど。
 ともあれ、協力者も得たし。
 魔法少女になりたいという精力的な少女(と、巻き込まれた少女)もいるし。
 また、豊美ちゃんの到着や師事を待っている新米魔法少女もいることだし。
「行きましょうか」
 ひとまずは、ヴァイシャリーの人形工房へ。