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リアクション
薔薇風呂に浸かる玲と安徳天皇がこの後の事などを話をしていると、扉の開く音がする。
「あら、玲さん達もここにいたのね」
玲が振り向くと、そこには小谷 友美(こたに・ともみ)がいた。
「こんにちは、友美さん」
「こんにちは、ってさっき入り口で会ったでしょう? わぁ、凄くいい薔薇の香り。美容に良さそうね」
友美はかけ湯をして薔薇風呂に浸かる。
「ふぅ……」
「あの? ささらは?」
「え? 流石にここまでは一緒に入れないでしょう? ふふ、一緒に温泉なんてまだ早いわよ。でも……そのうち……きゃぁ! 私ったら!」
頬を染めて恥らう30代を見る玲。
「デートは楽しかったか?」
安徳天皇が尋ねると、友美は頷く。
「ええ。とっても! プールにマッサージと、ささらったら、本当にエスコートが上手いのよ」
「あの、友美さん……私のパートナーの事を褒めて頂けるのは嬉しいのですけど」
玲が友美に近寄り、小声でそっと尋ねる。
「……本当にアレと付き合っていいの? 私のパートナーながら、色々と残念ですよ、アレ。変態だし両刀遣いだし、変な所で鬼畜メガネだし…そんなのと付き合ってていいんですか?」
「そうかしら? 今日もプールで水着が取れかけた私を両腕で抱きしめて庇ってくれたりしたわ」
「……」
玲は友美の水着が取れたのは、偶然ではなく、予めささらによって仕込まれた罠ではないかと思う。それくらいささらは朝飯前にやりかねない。
「……お二人の恋愛を邪魔する気はないけど、迷惑掛ける位なら考えないといけないなと思って。一応、アレでも私の恩人でお兄ちゃん……みたいな人だから」
「私は、恋人同士にはトラブルなんて付きものだと思うわ」
湯を肩にかける友美が言う。
「へ?」
「だって、迷惑をかけるかけないを心配して付き合っていたら、ずっと肩に力が入って疲れちゃうでしょ? この人とならどんな困難でも乗り越えれるわ、って思わなきゃ」
大人の余裕と彼氏がいる安心感からか、友美の語る恋人論に妙な説得力を感じる玲。
「新婚夫婦みたいなことを言うんじゃな、おぬし」
安徳天皇が呟くと、友美は両頬を押さえてイヤイヤと首を振る。
「そんな! まだ早いわよ!!」
「……友美さん」
玲が真面目な顔で友美を見る。何かしらの覚悟を決めた表情に、友美も真面目に返す。
「何かしら?」
「ささらの事をこれからも頼みます」
ペコリとお辞儀をする玲に、友美は笑顔で頷く、お辞儀して返す。
「はい、頼まれました……そう言えば、もし私がささらと結婚したら、玲さんは妹になるのね」
「え……そ、そうですね」
「愛美と玲さん……ふふ、いつか姉妹みんなで温泉に行けたらいいわね」
「……」
「わらわも連れていくのじゃ」
「勿論、安徳様も一緒ですよ?」
三人がなごやかに話をしていると、また後方の扉が開く音がする。
「おや、皆さん。楽しそうですね? 何のお話ですか?」
「あら、ささら。丁度あなたの話をしていたのよ?」
「やれやれ……友美さん。ワタシ達の秘密はワタシ達だけの宝物にしましょうと約束したじゃありませんか? ……まぁ、玲さんや安徳さんになら別にバレても構いませんけどね」
「ふふふ。ささらも薔薇風呂に来るなんて、奇遇よね。やっぱり薔薇の美しさがそうさせたのかしら?」
「薔薇も美しいですけど……ワタシが引き寄せられたのは友美さんのせいでしょうね」
「え?」
「今日拝見しました友美さんの水着姿は、まさに『高貴で純潔無垢なユリ』の様に甘美な美しさでしたし、『向日葵のような笑顔』も素敵でした」
「そんな甘い言葉。誰にでも言っていると、私、スネちゃうわよ?」
「誰にでも、なんて言いませんし、もちろん、それはワタシの本心です」
「嬉しいわ」
「さて、もっとお互いわかり合うため、温泉に一緒に入りに来ましたし、ワタシも早速……」
そうやって、タオルを腰に巻いた獅子神 ささら(ししがみ・ささら)が、桶でかかり湯をした後、湯船に足を入れようとすると、
「……斬りますよ?」
玲が湯船から鋭い目つきでささらを睨む。
「玲さん? どうしたんです? そんな殺気だった目をして? ワタシはあまり二人きりで楽しむのもいけませんし、安徳様とも楽しみましょうと思って来ただけです。……もちろん、玲さんとも」
「どうしたんです? じゃないでしょう!! 混浴ならともかく、なんでナチュラルに一緒に入ろうとしてるんですか!? こっちは女湯です!!」
玲の叫びに、ささらは前髪を掻き上げ、薄ら笑いを浮かべる。
「友美さんに会うためなら、高い壁だって恋の翼で飛び越えられます」
「ロミオとジュリエットの台詞なんて素敵!」
「友美よ。その話、バッドエンドじゃぞ?」
安徳天皇が安易にささらを褒める友美に突っ込む。
「第一、ジェンダー論を語れば古来からのレディファーストさえも消えてしまいますし……」
「……」
玲の放つ殺気が一段と強まり、湯船の彼女を中心にゆっくりと渦が生まれはじめる。
「……本当に、斬りますよ?」
「……玲さん、そんな怒らないでください」
玲の迫力にささらは仕方なく踵を返す。
「仕方ありません、皆さんが上がって来るまで牛乳でも飲んでますか……その後は、友美さん?」
「はい?」
ささらは友美に振り向き、意味有りげな笑みを浮かべる。
「一緒にゆっくりと飲みましょうか……朝まで」
「……」
友美の顔がボンッと火を吹くように真っ赤になるのを見ながら、ささらは薔薇風呂を後にした。
「困ったわ……」
「友美さん?」
「もっと気合の入った下着を持ってくるべきだったわ!!」
「……」
「勝負下着というやつじゃな」
安徳天皇が湯船の薔薇をお手玉しながら呟く。
「こうなったら、もっとこの温泉を巡って玉のような肌にしておかなくちゃ!!」
妄想を暴走させる友美と、冷静な鬼畜眼鏡のささらは、案外ウマが合うのかもしれない。そう思う玲であったが……。
「あの、友美さん?」
「何?」
玲は再度友美に対して質問をする。「……本当にアレと付き合っていいの?」と……。