リアクション
○ ○ ○ 「魔導砲の説明はセイニィも受けてるよな?」 セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)に会いに武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、アルカンシェルを訪れていた。 面会の許可をとって、牙竜は少しの時間だけ、彼女を誘い出していた。 といっても、彼女の護衛対象である代王達が見える位置にいる。 「復活させる動きがあるようだ」 言って、牙竜は透明の袋を取り出した。 中には、バラバラになった古代文字解読辞典の切れ端が6枚入っている。 「この分の判断は、セイニィに託したい」 「あたしに?」 怪訝そうにするセイニィに、頷いて牙竜は話し出す。 「理由は……エネルギー源だ。復活させて使うとしたら、強力な剣の花嫁である十二星華が選ばれると思う」 理子達の方に少し目を向けて。 それから、セイニィに戻して牙竜は言葉を続けていく。 「神楽崎優子が使うと判断したら、まずはアレナ……かと思うし、次の候補としたらティセラか。『シャンバラのため、女王のため』という大義名分があれば、断れる性格でもないしな」 牙竜は軽く瞳を彷徨わせる。 (ティセラがエネルギー源になると言いだしたら、セイニィも黙っていないだろうな……大切な人のためなら無茶をするタイプだし) 生命を力とする兵器である以上、命を落とす危険もあると思い、当事者候補になりやすい人物の判断を牙竜は支持したいと考えた。 (セイニィは……嫌われるとかもしれない恐怖を振り払い、心に誓ったことを実行する強い意志を持った人物……親友を想う強く優しい心を持っている) 「女王よりも、代王よりもセイニィの決断なら俺は間違いないと思う」 「魔導砲ねぇ……」 セイニィは少し考えた後で、話し始める。 「元々、このアルカンシェルは私達に管理を任されていた私達の家よ? 断るとかではなく……使わないに越したことはないけれど、シャンバラを守るためなら躊躇うことなく使うでしょうね。あたしも、ティセラも、パッフェルだって」 「セイニィ……」 心配そうな顔をする牙竜に、セイニィは不敵な笑みを見せる。 「あんたが心配してくれるのは悪い気はしないけど、さ。でも安心して、あたし達十二星華はこれくらいじゃ死なないから。あ、強力な剣の花嫁っていうのはちょっと違うけどね」 十二星華の強さは、格納している武器の強さだ。 肉体は普通の剣の花嫁とそう変わらない。 ただ、彼女達には寿命はない。限りない生命力を有している。 「ええっと、誰だっけ。そうアレナ? 記憶に残んないのよね、あの娘……だからまあ、色々とアレだったわよね。ええと、彼女一人選ばれるとかそういうこともなくて、使う時には集まれる十二星華全員で集まって発動するんじゃないかしら? 目標のインプットや出力調整は神楽崎優子がやるんだろうし、命に影響が出るような使い方はしないでしょ。……万が一、何者かにスイッチを奪われたとしても、あたしたちが自らの意思で何も滅ぼさないと念じて、手動を握って見せるわ」 「そうか」 牙竜は軽く微笑んだ後、真剣な目で彼女に言う。 「惚れた女の窮地には必ず駆け付ける。だからこの『古代文字解読辞典の切れ端』を君に託す。君の判断に任せる」 「仕方ないわね、受け取っておくわ。でもさその前に、魔導砲を使うような事態にならないよう、あんた達がしっかりシャンバラを守ればいいだけじゃない?」 「ああ、命の危険はなくとも、負担を強いることになるのは確かだしな」 牙竜は強く頷いた後で、表情を笑顔へと変える。 「真面目な話は、ここまで……今度、歌を歌ってくれるか?」 そうセイニィに尋ねる。 「なんで、突然歌が出てくるの」 「いや、セイニィの歌声は綺麗だしな……一緒に歌詞を作るのも悪くないかもって思ってさ。セイニィならいい曲作れそうだし」 「……考えておくわ」 「うん、サンキュ。それじゃ、仕事頑張れよ。次に会う時はデートしようぜ。歌のことはその時にな!」 「歌もいいけど……よろしくね」 セイニィはそんな言葉を残して、護衛の仕事よりもまず渡すべき相手に切れ端を届けに向かった。 ○ ○ ○ 「確かにこのアルカンシェルの主砲である魔導砲は、その砲撃の為に他者からエネルギーを貰わなくっちゃいけない……でも、逆を言えば、万が一アルカンシェルを乗っ取られる事があっても、それだけでは主砲を撃つ事は出来ない、1つのセーフティになってる訳だよな」 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、パートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)、夜霧 朔(よぎり・さく)、朝霧 栞(あさぎり・しおり)と共に、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)の元を訪れいてた。 ゼスタは、制御室でカメラを操ってアルカンシェル内の状況を見ていた。 作業台の上には、古代文字を解読するために必要な、辞典の切れ端が集まっている。 その切れ端に、垂は持ってきた大量の切れ端を重ねて。 「テープ借りるな」 パズルのように、並べて貼り付けていく。 「戦場にでて戦う事と魔導砲の為にエネルギーを提供する事……敵を倒し、仲間を守るために命を賭けると言った点で、それぞれに違いなんて無いよな」 垂は戦いを好まない。 だが、強力な敵が出現した今、使える物は使わないと守れるモノも失ってしまう可能性がある。 そう考えて、魔導砲の復活に協力的だった。 「これだけ集まれば修理は可能……だな?」 栞は貼り付けられていく辞典に目を通しながら、ゼスタに問う。 「まあ、そうだな。パターンが分かれば大まかな解読は出来る。俺がするわけじゃないけど」 ゼスタも辞典を摘まんで確認していく。 「すぐにでも着手できるのなら、手伝わせてもらう。早い方がいいからな」 「私も手伝います。見学に訪れている方もいますが、エネルギー室方面には立ち入らないでしょうし」 栞と朔はそう協力を申し出でる。 「製造自体は、教導団かどこかの施設で行うと思う。搭載するための準備は進めておいた方がいいかもな。ただ、主砲は復活させても、使うことは考えていない」 なぜならアルカンシェルは月へ物資を運ぶという大切な役割を担っている。 他にその役割を担える船はなく、製造するとしても多大な年月を必要としてしまう。 だから、アルカンシェルは極力戦闘を避けなければならない。 「脅威にさらされた時、逃げる為に必要だと俺は思うわけだ」 女王の意見は聞けていないが、代王の理子からはアルカンシェルを戦闘に利用する予定はないし、戦闘行為を行わないようにと指示が出ていた。 「それにこの切れ端だが、主砲の復活には賛成だが、使用には反対する者も多くてな。使わないのならと条件付きで置いていったヤツらもいる。アルカンシェルは今後も物資や人員を運んで、ニルヴァーナ探索隊をサポートをしていく。皆の生命線であるアルカンシェルを誰にも狙わせない為に、主砲を復活させるんだ」 「戦場で最も有用な兵器ではあるんだがな……」 垂が険しい顔で考え込む。 「だがな、魔導砲のエネルギーを受けてぶっ飛んだ物体が衝突したら、生身の人間は普通に死ぬぞ? 巨大なエネルギーを浴びた者が、正気でいられるかどうかも怪しい。知ってのとおり、魔導砲は広範囲型の兵器だ。範囲内の敵だけ滅ぼし、味方はなんの害も受けないという使い方は難しいと思うぜ。威力を落とすにしても、巨人1体だけ狙うとかはまず無理だ。最低集落全部くらいの範囲は攻撃範囲内に入っちまうだろう」 ゼスタの言葉に、垂の眉間に皺が寄った。 「まぁまぁ、そんなに考え込まなくても良いじゃん〜」 途端、ライゼの明るい声が響く。 「これでも食べてリラックスリラックス〜」 食堂でもらった試作のパンを取り出して、ライゼは皆に渡していく。 「ありがとう」 受け取った垂の顔が少し柔らかくなった。 「お茶も淹れよ〜。ポットポット」 ライゼは部屋に置かれている紙コップやポットを用いて、皆にお茶を淹れていく。 そんな彼女の様子を穏やかな目で見守った後、垂はゼスタにこう尋ねた。 「いざという時だって、以前のように無理やりエネルギーを奪い取るような真似をしなければ、剣の花嫁を失うことなく、充電できるんだろ?」 「そうだな」 「ふふふんふん〜♪」 鼻歌を歌いながらライゼは2人の話をも聞いている……。 明るく振る舞う彼女だけれど……彼女も、剣の花嫁として、教導団員として、魔導砲が復活した場合は、進んでエネルギー供給への立候補をしようと思っていた。 仲間達を守るために。 「どちらにしても、復活は目指していいんだな? 切れ端が集まった後、設計図も見させてもらいたい」 「邪魔する人……はいないとは思いますが、警備もさせていただきますね」 栞と朔は、ゼスタから資料を受け取ると、目を通して作業順の検討を始める。 まずは解読。作業手順をまとめ、必要な部品と人員の確保だ。 |
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