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リアクション
「会場はこちらですよ。順番に入ってくださいね」
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、体験学習に訪れていた子供達をパーティ会場に招き入れていた。
「ねえねえ、おねーちゃん可愛いね。君のパン…見せてくれる?」
「僕も僕も〜」
「オレにもー」
「えっ? 私のパンに興味を持っていただけて嬉しいです。あ、優子さんの白パンとかもありますよ! 人気があるので、無くなる前に是非もらってくださいね!」
「鬼神は白か、白なのか」
「いがいすぎるぞ」
「ね、アレナちゃんのパン…は? あるの、あるの?」
「はい、アレナさんも手伝っていましたから、確か果物パンを作ってました。サクランボとか」
「アレナちゃわんは、やっぱりサクランボか、真赤なサクランボなのか。あまずっぱいのか?」
「早くたしかめなければ」
「ふふ、取り合ったりしないでくださいね。沢山ありますから」
そう、自分の周りに集まっている子供達の手を引いて、席に連れて行こうとするソアだが。
「えいっ」
「やー」
ソアの両手がふさがった途端、後方と前から、男の子がソアのエプロンとスカートをひらりとめくった。
「な、何するんですかーっ」
「おねーーーさーーーーん!」
「パン…見せてぇーーー」
子供達は料理を運んでいる少女達に突撃していっては、スカートをめくったり、ズボンを下ろそうとしだす。
「な、何をしてるの、あなたたち……っ」
ソアはスカートを押さえながら、オイタをした子供の腕をぎゅっと掴んで回収していく。
「こちらにいらっしゃい!」
ずるずるひきづって、部屋の隅へ連れて行き。
お説教タイム。
「いいですか、女の子のスカートをめくるというのはとても失礼なことです。みんなもいきなりズボンをおろされたら嫌でしょう。嫌ですね!」
「見たいっていうんなら、見せてやってもいいぞー」
「いきなりはびっくりするけど、ごういんなのもいいよなあ」
「……」
子供達のそんな反応は無視してソアは言葉を続ける。
「自分がされて嫌なことは、人にしてもいけない。これはとても大切なことです。私がみんなと同じくらいの歳の時には……(くどくど)」
「くれっていってくれるんなら、めくったりしないんだけどなー」
「いや、隠れているからみたくなるんだよ」
「……」
子供達の言葉は、ソアには理解不能だった。
ソアは構わず説教を続けていく。
「そもそも今回のパーティが開かれた目的は……(くどくど)
……ちょっと、ちゃんと聞いてますか!?」
「きいてるきいてるー」
「みてるみてる」
「さわってもいい?」
「もらってもいい?」
子供達はいつの間にかしゃがみこんで、スカートの下からソアの足を――パン…を覗き込んでいた。
なんだか危険だ、この子達。ソアは悪寒を感じていた。
「ゆ、優子さんとアレナさんのパンなら私がもらってきます。ちゃんと反省するまで、ここにいなさい!」
「もらってきてくれるの」
「わーい、おねーちゃんのもちょうだいね」
子供達は期待の眼差しをソアに向けてくる。
「きちんと反省するまでは、あげませんよ!」
「まーまーその辺にしとけよ」
雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、興奮しているソアの肩に手をポンと置いた。
「男どうしで話をしといてやる。ご主人は良い子の皆のことを頼むぜ」
「……わかりました。私の言い方にも問題があったのかもしれません……。お願いしますね、ベア」
ソアはベアに任せると、顔を赤く染めたまま、給仕に戻っていった。
「まあ、ご主人はああ言っていたが、ガキの内は馬鹿やるのもいいもんさ。はっはっは」
「そうそう、はっはっはっ」
「おれたちこどもだもーん。おねーさん達のパン…にきょうみしんしんのこどもだもーん」
ソアがいなくなってから、ベアと子供達はそう笑い合う。
「これも何かの縁だ。特別にお前達に、俺様が極秘入手したロイヤルガードや十二星華の生パンをおすそわけしてやるよ」
ベアはそう言ったかと思うと、持っていた箱をドンと下した。
「じゅーにせいかの、ナマ、パンーッ!」
「うおーーーっ」
子供達が歓喜の声をあげる。
「ふっ、男同士の秘密だぜ!」
「わかった。ひみつにする」
「どうしよ! あ、これ入会申し込み書な。これからよろしくな!」
男の子たちは箱にとびついてくんくん匂いを嗅ぎだす。
「戴いとくぜ、それじゃな」
ベアは生パンの入った箱を置いて、ソアの手伝いに戻っていき。
「たいりょうの戦利品だ。しかし子供の姿じゃあけられん! 早く戻るぞ〜」
「おー!」
子供達は箱を皆で抱えると、いそいそと外へと出て行った。
……もちろん、箱の中身は言葉通り、生のパンだ。
「なんか変だぞ……。パン……パーティが行われるんだよな?」
桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は、警備を請け負って、アルカンシェルを巡回していた。
一般人や要人を招いて、ここアルカンシェルでパン、パーティが行われると話を聞いており、地球から要人を護衛して訪れたのだが。
なんだか雰囲気がおかしい。
とくに、一般人……のはずの子供達の様子がなんだかおかしい。
女性スタッフを追い回しているというか、くっつきまわっているというか。
「ま、まあいいか。俺は俺の仕事をするだけだ」
煉の仕事は要人を守ることだ。
子供達のことは、引率者やスタッフに任せて、自分は役目を果たすことにだけ、集中しよう。
そう思った矢先。
「そういうのは、ダメ、くるな、触るなー!」
大声と荒々しい足音が響いてくる。
「トラブルか!? ……ッ!」
急ぎ、煉は駆けた、そして角から速足で飛び出してきた人物を慌ててキャッチ、抱き止めた。
「おい、大丈夫か……」
腕の中の人物を見て、煉は思わず固まった。
それは……男の子達のセクハラから逃げてきた代王セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)その人だったから。
更に、ハッと煉は気付く。
右手が、不可抗力で……何か、小さいけれど柔らかで不思議な感触なものに触れてしまっていることに……。
「うっ、ぎゃーーーーーーーーーっ!」
セレスティアーナが真っ赤になって叫んだ。
同時に、真っ赤な魔法が飛び散った。
「うわあああああああああっ。うぎゃああああああああ」
絶叫して狂ったように魔法を連発していくセレスティアーナ。
「大丈夫、大丈夫よ。落ち着いて、落ち着いて」
慌てて理子が飛びつき、セレスティアーナを宥めていく。
「さ、叫びたいのは、こっちの方だ……」
煉は謝る間を与えられず、吹き飛ばされていた。
「やっぱり……あいつに関わるととんでもない目に遭う……」
切れ切れな息でそう言いながら、這うように避難していく。
しばらく顔を合せない方がいいかもしれない。
「初対面のはずだが……おかしい」
見学に訪れてる子供達を撮っていた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がふと手を止める。
取材に訪れたという30代くらいの男、そして子供達の引率者の男。
自分達はカメラを用いて、写真を撮りまくっているのに、こちらがカメラを向けると、身をかがめたり、物の後ろに隠れたりと、避けていくのだ。
彼らだけではなく、大半の子供達も。
「いや、どこかで見たことがある奴も……ああ、そうか」
大佐は気付いた。
前に、さらし者にした連中であると。
「まだ懲りてなかったのかー」
ふ ふ ふ ふ ふ っと。
黒く、静かな笑みを浮かべて。
一旦部屋から離れると、隠形の術で姿を隠し、明らかにパン…にばかり興味を示している子を、ひとり、またひとりヒプノシスで眠らせて、捕まえて。
別室へと運んでいくのだった。
「何かがおかしい」
空京駅で迎えて、ミルザムの護衛についている青葉 旭(あおば・あきら)は極めて真剣だった。
「子供がいるのはわかる。だが、十二星華グッズばかり纏った男の子だけというのはおかしくないか? ファンを集めたのならともかく」
そのくせ、十二星華でアルカンシェルに訪れているのは、アレナ、セイニィ、テティスだけという。
「考え過ぎですよ。可愛い子供達です」
ミルザムは微笑みながら子供達を見ていて。
握手を求めてくる子供に握手をしてあげたり、抱っこをせがむ子供をだっこしてあげたりしている。
だがその前に必ず。
「手に画びょうを持っている可能性がある」「服にナイフを仕込んでいる可能性がある!」「ボタンに毒を仕込んでいる可能性があるッ!」
といっては旭が前に立ちふさがり、ミルザムに変わって握手したり、抱き上げたり、ボディチェックをしたりと、細かなチェックをしていた。
そして、ミルザムがお手洗いに……というならば、危険がないか隅々まで調べる為に、女子トイレに突撃しようとする。
「落ち着いて!」
旭はその度に、パートナーの山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)に、羽交い絞めにされて止められていた。
「女の子の領分は、女の子で警備するのよ。子供達にも過度に警戒しすぎたらダメよ。トラウマになっちゃう〜」
「しかし、今日は特に心配でもある」
旭はミルザムと一緒に居るジークリンデをちらりと見た。
公式的には、今日のパーティには都知事であるミルザムが招待をされて、ご友人の方もよろしければ、一緒に……というスタンスなのだとは考えている。
女王の力を今は持っていないとはいえ、シャンバラにとってジークリンデの方が要人であることは旭も理解していた。
だからこそ、普段よりもさらに警戒が必要なのだ。
「僕も一緒ですから、大丈夫ですよ。……まあ、お手洗いまでは一緒にはいけませんけれど」
秘書のようにミルザムに付き添って、彼女に気を配っている風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が旭に顔を向けて、微笑んだ。
共に、クイーン・ヴァンガード特別隊員としてミルザムを護ってきた仲間だ。
「トイレのことはワタシに任せて〜。そうピリピリ、カリカリしないの」
ぺしぺしと、にゃん子は旭の背を叩いた。
多分彼は、ミルザムをダシに使われたと感じて、苛立っているのだろう。
にゃん子はそう感じ取って、周りに注意しながらも彼の様子も気にかけていた。
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