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神楽崎春のパン…まつり 2022

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神楽崎春のパン…まつり 2022

リアクション

「ねーさん、わりぃ! 手伝いやるから約一名のために匿ってくれ!」
 撮影室に入ったティセラの元に、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)と共に、飛び込んできた。
「どうかなされたのですか?」
 ティセラはすぐに、3人を自分の側に招いて、心配そうに訪ねた。
「え? あ、うん……」
 何か雰囲気が変だと感じながら、シリウスは説明をしていく。
「アルカンシェルで任務に当たってたんだけど……サビクがさ、顔を会わせ辛い奴がいるっていうんだ」
 言ってサビクに目を向けると、サビクは頷いて言葉を引き継ぐ。
「……サビク・オルタナティヴだ。こちらは一方的に知ってるけど、はじめまして、ティセラおねぃさん。逃げてる理由は……ま、似たような感じかな」
 そう意味深に言うと、ティセラは弱い笑みを見せた。
「そうですわね。今日は一緒にこちらのお仕事を頑張りましょう」
「了解。で、何を手伝えばいい?」
「割引券の配布や、お声掛けを手伝っていただければと思います。今から行う仕事は……わたくししか、できませんので」
「今から行うお仕事とは、なんでしょう」
 怪訝そうに、リーブラが尋ねる。
 なんだか、すっごく怪しい気がしてならなかった。
「それがねー……」
 ため息をつきながら、3人に説明をしたのは祥子だ。
 1日店長を任せられたティセラだが、そのほかに、モデルをも頼まれていて。
 ランジェリーを着用したティセラ等身大パネルをも作成される予定なのだということ。
「アホか!」
 説明を聞いたシリウスは敢えてそう言った。
「そんな……」
 リーブラはふるふると首を左右に振った。
「お姉さまが落ち目なんてこと、絶対にないと思います」
「確かに」
 シリウスが言葉を続けていく。
「ねーさんで落ち目なら、ミルザムとか空気なんてもんじゃねーし。アルデb(自粛)とか、セルb(超自粛)とか息してねーぞ?」
 最近生存が確認できていない程に見ていないという意味……と思われる。
「使命を終えて、安定した生活を送れていましたらいいのですが……。必要なら、皆の分もわたくしが脱ぐだけですわ!」
 言って、ティセラは服を結んでいるリボンをひらりと解いた。
「お、お姉さまと脱げと言われたら、わたくしも、下着でも裸でもどんとこいですわ! 及ばずながら、わたくしもお力にならせていただきますっ!!」
 真似して、リーブラも自分の服に手をかけた。
「いやいや、ショービジネスに関わる人間として言わせてもらえば、清純派が脱いで花見が咲くものかって感じだぜ? てか、露出路線はミルザムとモロかぶりじゃねーか!」
 シリウスは慌ててリーブラを止めながら、ティセラに言った。
 ティセラはミルザムの名にぴくりと反応を示す。
「お気持ちは嬉しいのですが……。請けてしまった仕事ですから、反故にすることはできませんわ。信用を落とすわけにはいきませんの」
 自分だけの問題では済まない。
 十二星華達や、訪れてくれた皆も一緒にファンの信用を失うだろうと、ティセラは言う。
「それに、ミルザムさんには負けませんわ。彼女は胸の大きさだけで、人気を……都知事の地位を勝ち得たといいますし!」
「いや、なんか違う。違う気がするぞ」
 苦悩するシリウスを押しのけて。
「わたくしは、大丈夫ですわ。さぁご一緒に!」
 リーブラは撮影用の下着を手にして、ティセラと共に着替えはじめた。
「げへへ、着替え終わったら、こっちに来てくださいねー。お友達も、一緒にどうぞ〜。ぐふふ」
 衝立の裏から、気持ちの悪い声が響いてくる。
「……なぁ、カメラマンのおっさん。あんたが裸見たいだけなんじゃ……ねぇよなぁ?」
 ドスの聞いたひっくい声で言いながら、シリウスはカメラマンに近づいた。
「だ、断じてそれは違う! 『だけ』ということはない! こ、これは、シャンバラ国民の願いなのだ。ティセラちゃん達はそうして愛されて許されるべべべきなのだよ! は、反対するということは、ティセラちゃん達の息の根を止めようとするもど、同然!」
 迫力に押されながらも、男は言うべきことを言った。
「売り出すにはほかにいくらでも方法があるっての。オレらでいっちょプロデュース! とかさ。マンネリってるならリーブラとか……そこの自称蛇遣い座とかさ。新メンバーで試しにやってみるとかどうだ? 流行の追加メンバー枠ってヤツでさ?」
 シリウスはティセラ達の方に顔を向ける。
「誰が自称蛇遣い座さ、誰が!? 勝手にグループ組ませない!」
 サビクから即、つっこみが入る。
「でも、それを記事にしてくださる方がいませんと、わたくしたちの存在は世界から消えてしまいますわ」
「パネルは今日、この塔で、沢山の来店者に見ていただけるのですよね!」
「うぐっ」
 ティセラとリーブラの言葉に、シリウスは自分の無力さに気付く。落ち目……もとい、記事になることが少なくなった、十二星華達を蘇生するためには、大群衆のアクティブ契約者のファンか、大いなるプロデューサーの力が必要なようだ。
「……円は、どうする? ……円も手伝うのなら、私もやるわ」
 パフェルが撮影用の下着を一枚手にした。
 円は彼女の手から下着をとって、首を左右に振る。
「パッフェルはやらなくていい。ティセラはパッフェル達にやらせないように、頑張ろうとしてくれてるんだろうし……」
「セイニィサイズより小さいのは扱ってませんしね」
 部屋に入ってきたルアが円の胸をちらりと見て、ふっと微笑む。
「う、うううう……」
 円は何も言い返すことが出来なかった。
 セイニィサイズってどれくらいなんだろう。気にならない、別に気になんてなんないけどっ、後で見てみよう、そう心に決める。
「撮影が終わってからでいいので、私とも写真を撮っていただけますか? ルームメイトがあなたのファンなんです」
 隠れ白百合商会会員のルアはティセラにそうお願いをして、快諾の返事を貰う。
「ぐへへへへ。まだかなまだかなー。ティセラちゃわ〜ん」
 カメラマンの気持ちの悪い声に、シリウス達が身震いしたその時。
「たのもー」
 客の一人が、許可も得ずに撮影部屋に侵入してきた。
「ティセラさんの等身大パネルが置かれるって聞いてきたノヨ」
 現れたのは、キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)だ。
 一応、セイニィとアレナの友人だ。多分。
 今日は豪華なろくりんくんの着ぐるみを纏っているので、いつもよりはまともな外見だった。
「ティセラさん簡単に脱いで裸の安売りしたら、余計落ち目になるだけヨ。 脱ぐにしろ何にしろタイミングやプロセスが大事ネ。ミーは、ゆるキャラの盛衰を色々見てきてその辺りは詳しいワヨ」
「……確かに、あなたは落ち目を乗り越えて、頑張ってらっしゃいましたわね。でも……」
 悲しげな眼でティセラはキャンディスを見る。
「冬季ろくりんピックが終わった今、世間のあなたに対する目は、私達以上に役目を終えた着ぐるみ、かと思いますわ。これからどのように、シャンバラで生きていくおつもりなのでしょう」
 グサリときそうな言葉だが問題ない。キャンディス自身はマスコットでもなんでもないのだから。ろくりんくんの着ぐるみを纏ってるだけで。
「ノウハウを教えるワヨ。ティセラさんは友達の友達だから、協力は惜しまないワ」
「ええ、お願いします」
「デモお金が絡むと友情にヒビが入る事も少ないから、はじめにチャント決めておくべきネ。マネージメント料は六厘でイイワヨ」
「わかりました。6輪ですね(何の花がいいでしょうか……)」
 交渉が成立し、キャンディスはさっそく下着の検分を始める。
 手でとってみたり、つけてみたり。
「等身大下着パネルは数量を限定して、プレミア感を高める事が大事ヨ」
「ええ」
「ロイヤリティーを取るのも忘れちゃいけないネ。勝手に増産されないように写真や印刷工程のデータは自分達で管理するノヨ」
「ロイヤルティですか(忠誠心でしょうか)。データはいただくのですね」
 真剣にティセラはキャンディスの指導を受けて。
 カメラマンとその旨交渉の上、撮影に臨んだ――。

「わわっ、素敵な下着がいっぱいです。十二星華の皆さん、趣味がいいですねー」
「ノアは成長期ですし、ちゃんと体に合う下着を選びましょうね」
 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)と一緒に、下着を選んで回っていた。
「この柔らかな素材の、ピンク色の下着、とっても可愛いです。でも、このシンプルな白い下着も……」
「カプリコーンのコーナーにある白い方が合ってるかもしれないわね。ピンクの方は、もう少し大人になってからかしら」
 メティスの言葉に、ノアはうーんと悩む。
 年齢的には、サダクビアのコーナーにあるピンク色の可愛い下着の方が合うのだが、外見が幼い為、まだちょっと似合わなそうだ。
「そろそろ決めないと、コーヒー代がかさむぞ」
「コーヒー代?」
 別のコーナーで下着を選んでいたザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)が、二人の元に戻って来た。
「あ、レンさんのことですね!」
 ノアははっと気づく。
 パートナーのレン・オズワルド(れん・おずわるど)も一緒に買い物に訪れていた。
 4人で、近くのスーパーで生鮮食品の買い物をした後、レンに荷物を持たせて、女3人は、下着を買いにこのショップを訪れたのだ。
 レンはショップの外のベンチで缶コーヒーを飲みながら待っている、はず。
 少しだけの約束だったけれど、もう1時間以上、ノア達は買い物を楽しんでいた。
「レンさん待ちくたびれているかもれませんね……」
 ノアはこれまで購入した分を持って、レンが待つベンチへと向かうことに。
「なので、一旦荷物を預けて、もう少し時間がかかるとお話ししてからじっくり選びましょう!」
 まだまだ女の子達の買い物は続きそうだった。

「彼女達とは好みが違ってな。決めかねてたんだ」
 数分後。ザミエルは店に戻って来たティセラと一緒に、下着を選んでいた。
 ノアとメティスは可愛い系を好むが、ザミエルは黒のデザインを好んでいる。
「ん? これなんかは、ティセラに合うんじゃないか?」
 ザミエルが指差したのは、総レースの黒いショーツだった。
 サイドの藍色のリボンが可愛らしい。
「これは、わたくしのコーナーですわね」
 くすりとティセラは笑みを浮かべる。ティセラが愛用している下着では勿論ない。デザイナーがティセラをイメージしてデザインしたのか、これを穿かせたいと思っているどこぞの誰かがデザインしたのか……。
「仕事が終わりましたら、自分のコーナーの下着を一通りいただけることになっていますの。似合うかそうかはわかりませんが、着用させていただきますわ。ザミエルさんには……」
 ティセラはその隣の、レース部分が少なく、リボンもないショーツを選び、ザミエルに勧めたり。
 大人の女性同士、談笑をしながら下着選びを楽しんだ。
「……そうか、すぐに空京に戻るのか。予定がなければ、夕食でも皆で一緒にとも思ったが」
 そして、今日の予定を聞いたザミエルはにやりと笑みを浮かべて、こう続ける。
「今度、女同士で夜通し騒ごうぜ!」
「ええ、喜んで」
 ティセラは優美な微笑みを見せた。