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リアクション
「レンさん、見てください……って、これはレンさんに見せるものじゃないですねー」
店の前で、ノア達はレンと合流を果たす。
買った物を確認しあっているパートナー達に「いい加減にしないと、生ものが痛むぞ」と、小さく声をかけた後で。
見送りに出ていたティセラにレンは軽く目配せをする。
近づいてきた彼女に、まだ開けていない缶コーヒーを手渡して、共に店を。
十二星華の名前や貼られているイラストを見ながら、語っていく。
「覚えているだろうか?」
かつて、ヴァイシャリーの貴族たちの間で、レンがティセラに銃を向けたことを。
また別の戦いで、対峙したことを。
「あれから多くの時間が経った」
お互い、見るべき視点、守るべきものも変わったことだろう――。
だが、昔のことを蒸し返すつもりでこんな話をしたわけじゃない。
静かに、レンはティセラに語り続ける。
「ただ改めて力を貸して欲しいと思ったから声を掛けた」
コーヒーを手に、ティセラは不思議そうな表情となる。
「これから多くの人間が戦場に立つことになる。何がどうという話ではない。ニルヴァーナの探索しかり、塵殺寺院しかり、戦いが起これば否応なく多くの人間が巻き込まれる規模の話がゴロゴロと転がっている」
「そうですわね」
恐れるわけでも、ただ憂うだけでもない。
ティセラは決意の込められた目でレンにそう答えた。
「求められているのは強い力だ。そして、君の強さは折り紙付きだ。戦ったことのある俺からも保証する。
だからこれからも皆を守る為に戦って欲しい。
と、レンは言葉を続けた後、軽く首を左右に振った。
「否、今の発言は不適当だな。これからも俺たちと一緒に戦って欲しい。 仲間として……」
言った後。
レンは彼女を真剣な目で見つめて――頭を下げた。
「はい。仲間として、よろしくお願いいたしますわ。シャンバラを想う人々と、こんな風に手を取り合う日が来てほしいと、思っておりました。間違ってしまったわたくしを止めようとしてくださったことをも、深く感謝いたします」
そうティセラもレンに頭を下げた。
「楽しい思い出もありますよね。学校行事でもまた、一緒に頑張りましょう」
声をかけてきたのは、メティスだ。
「ええ、よろしくお願いいたします」
ティセラは、メティス、それから気に入った下着が買えてとっても満足顔のノア、此方を見て頷いてみせるザミエルをそれぞれ見て。
優しく美しい微笑みを見せた。
そのティセラが店長業務から外れている間に。
「完成したぜ〜」
ブラヌが仲間達と共に、完成したティセラ等身大パネルを持って店頭に現れた。
「おおー」
「こ、これは!」
「ほ、欲しい。抱いて寝たい!」
などと客たちから声が上がり、カメラのフラッシュが光る。
「…………………」
その様子を、目を見開いたまま、硬直してみている女性がいた。
「ティ……セラ、そう、ティセラが動けない、動くべきではない時に、親衛隊の名のもとに全ての泥や罪を被って行動するつもりだった。どうやら、それは今のようね」
黒い笑みを浮かべつつ、女性が店頭へと近づいていく。
「ええっと、気晴らしにきたんだよね?」
付き合いで訪れたシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が前を行く女性――リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)に尋ねる。
リカインはティセラが洗脳されている時、ティセラ親衛隊として彼女についていた。
そのことはもう表沙汰にしない方がいいだろうとは思うけれど、露骨に避けるのも不自然だし、いい加減、普通に挨拶くらいはしないと。
そんな風に考えて、一日店長を行うというティセラを訪ねてここを訪れたのだった。
だけれど、彼女の前に現れたのは、ティセラではなく、ティセラの写真が使われた等身大パネルだった。
「あのパネル、破壊するわよ。その回収をお願い。破片から黒幕や真意を探り出して……あと」
リカインは手身近にシルフィスティに説明をするとグレートヘルムで顔を隠して、ミッションスタート!
「どきなさい。どかないと、一緒にバラバラになるわよ!」
誓いの剣を手に、リカインは走り込む。
「な、なななんだ」
群がっていた少年達が道を開けた。
「ちょっとまて、見てのとおりこれは普通に健全なパネルだ。ティセラ本人じゃねぇぞ?」
「どこが健全なのよっ!」
「わわわっ!」
リカインは剣を振りおろし、パネルを真っ二つ。さらに何度も剣を振って、バラバラにしていく。
「これだけバラバラにしたら、貼り付けても飾れそうにないけれど」
言いながら、言われた通りシルフィスティは破片を集めて、サイコメトリで探っていく。
カメラマンの強い想い、飾っていたこの男の邪心が読み取れる。
(ティセラさん〜。リカインに頼まれたんだけど)
それをそのまま、シルフィスティはティセラにテレパシーで伝えた。
「まだあるのね! ティセラ親衛隊の私が、全て滅ぼしてあげる」
運び込まれた次なるパネルに向かって、リカインが突進していく。
(……覚悟は出来てるから『ティセラ親衛隊と名乗る乱入者』を止めてもらえないかな)
スルフィスティのテレパシーに対して、「わかりました」とだけ返事が届き。
「わたくしを慕って訪れた方々に恐怖を抱かせる相手を、放っておくことは出来ませんわ!」
即。戻って来たティセラに、リカインは打ち倒された。
勿論。それは演技で。
倒れた振りをしたリカインは事務所に連れていかれて、ブラヌ以外の幹部の前に晒された。
その瞬間に、起き上がったかと思うと、幹部たちを一網打尽にしてひっとらえたのだった。
「心配してくださるのはありがたいですが、やりすぎですわよ?」
ティセラは彼女がリカインであることに気付いていた。
「いやいや、この仕事は普通のモデルの仕事なんかじゃないですよ? 女性向けじゃなく、男性向けに作られてましたから、あのパネル!」
下着のデザインがよく解る写し方ではなくて、下着ちら見せのパネルだったのだ。
「全くけしからんのう、これは回収じゃ!」
事務所に入ってきたはにわ茸が、いそいそと残されている貼り付け前の写真を回収していく。
「あ……あなたは……あなたには渡しませんわっ!」
途端、ティセラは顔を赤く染めて、はにわ茸に向かって、星剣を振り下ろした。
「ぐへ……っ」
凄まじいダメージを受けて、はにわ茸はばたりと倒れた。
「あ、写真だけ切るつもりでしたのに、思わず間違えてしまいましたわ。本位ではありませんのよ。でも写真を離さなければ、次は本気でいきますわよ」
「安心しろ、この程度のDVでわしらの愛は壊れんのじゃー!」
言って、はにわ茸はキノコハットの胞子を振り撒き、隙を作ると、写真を抱えて猛ダッシュで逃げて行った。それはもう怪我人とはいえないスピードで。
「うう、申し訳ありません。わたくしは浅はかでしたわ……」
ようやくティセラは依頼組織の怪しさに気付き。
「では、一緒に破壊しましょう」
「ええ!」
リカインと共に、事務所のコンピューター、監視モニター、写真類を粉砕しつくした。
その間。鮪もまた回収に動いていた。
「これで全部か、ヒャッハー!」
「よ、よろしく頼むぜ」
警備に当たっていた白百合商会会員から、ティセラが試着をした衣装全てをその手にしていた。
正確に言えば、『ティセラがあの衣装をやはり気に入って再度着用したいと要求している汗だくで!』と言い、持ってこさせたのだ。
撮影の為に外したティセラやブラヌ達に代わり、鮪は誠心誠意接客をして、訪れた女性達に見せパンを試着させることに成功していた。
試着は2着までという注意書きは無視して、何枚も何枚も!
そしてゲットしたパンツを成果物として、白百合商会に提出して信用を得たのだ。
「うおっ、まだほのかに温もりが……」
「使い方間違ってるぜェ、ヒャッハー」
途端、鮪は提出した見せパンを奪い取って。
「ヒャッハァー馬鹿めこの俺が会員と思ったか! 俺の名を言ってみろ」
面をとって、顔を見せる。
「き、貴様は……パンツ四天王と呼ばれる男!」
「ま、まさかそのお宝は……」
「ヒャッハー。勿論全部、俺のモンだぜ〜!」
当然のようにそう言って、鮪はズタボロのはにわ茸と共に、非常口から塔の外へと飛び出す。
「あばよ、ヒャッハー!」
そしてスパイクバイクに乗り込むと、爆音を立てながら消えていった。
「この先は、店長として仕切らせていただきますわ」
その後も、ティセラは訪れたファンの為に、1日店長を続けた。
運営は白百合商会会員ではなく、円やパッフェル、祥子たち友人に手伝ってもらって。
「等身大パネルもあるヨ。最後の1個だけどネ」
キャンディスが入口付近にキャンディス自身が作成したティセラの等身大パネルを飾った。
ティセラとリーブラが並んでおり、その2人の前にキャンディスが立っている。
美しい2人の身体を全て隠している。とっても残念なパネルだった。
「うぐぐぐっ。店の売り上げは多分上々だ。だが、だがっ、お宝が何一つ残らなかったと知ったら、俺の立場がががががっ」
逃げ延びたブラヌは、柱の影から、店の状態を探っていて。
「そうだ!」
アルバイトの女の子――ルアがティセラと写真を撮っていたことに気付いたブラヌは、彼女を呼び出した。
そうして、生写真の提供を要求した。上司として!
「バイト料、弾んでいただけるのでしたら……」
「任せろ、今すぐには払えねぇけど」
「では、送金していただいた後に、お送りしますね」
ルアは「ふっ」と笑みを残して帰っていった。
賃金受け取り後に。
ルアは約束通り、ブラヌに写真を送った。
ちなみに、中身は怪獣の着ぐるみを着ていたり、置き物の全身鎧の中に入った、シュールなルアの生写真だ。
ティセラが仕切りだしてから十二星華ショップは大盛況となり、彼女は時間を延長して接客に勤しんだ。
ただ、「後の事は任せて」と、ティセラは閉店後すぐに、友人達に送りだされる。空京へと。
皆に感謝をしながら、彼女は急いで空京駅に向かい、アムリアナを見送ったのだった。
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