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はっぴーめりーくりすます。3

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はっぴーめりーくりすます。3

リアクション



10


 もうあと三十分もすれば、日付が変わる。
 そんな遅い時間に、瀬島 壮太(せじま・そうた)はリンスの工房を訪れた。部屋着のような格好にカーディガン、といった軽装でドアを開けたリンスに、「寝てた?」と問うと彼は首を横に振った。
「起きてた」
 クロエはもう休んでるけど、と言いながら壮太に背を向ける。早く入っておいで、と言われている気がした。
 工房は暖かくて、ぐずぐずの思考がさらに溶かされるようだった。考えが全然まとまらない。椅子に座ったまま、何も言えず、何も動けず、ただぼうっとしていた。それでもリンスは何も言ってこなかった。それがただ、ありがたかった。
「…………」
 テーブルに頬杖をついて、数ヶ月前のことを思い出す。ソレイユであった、あのことを。
 ――『今時の子って野郎同士でもアクセ贈り合うわけ?』
 マリアンの何気ない一言で、意識してしまった。
 意識したら、普通に付き合えなくなった。
 バイト先で会っても、挨拶くらいしかできない。メールも電話もしなくなった。
(っていうか、今までがベタベタしすぎてたんだ)
 距離感なんてほとんどなしに接していたし。
 アクセサリーを一度ならず二度までも贈った。
 デートに誘ったこともある。
 それどころかキスまでもした。
「…………」
 思い出すと死ぬほど恥ずかしいことばかりしているのに、まるで自覚のないまま友人面。
(オレって何なの? バカなの?)
 頭を抱えてテーブルに突っ伏した。叫ぶ。
「ああーキモい! オレきもい……!」
 じたばたと足を動かすと、リンスの座っていた椅子で足の甲を強打した。悶える。「大丈夫?」と平淡な声でリンスが問うた。どれに対しての問いだろう。今までの奇行か。ぐちゃぐちゃな思考にか。それともぶつけた足か。どれだとしても答えはNOだ。
「……おまえって誰かと付き合ったことある?」
 答えの代わりに質問を投げる。三秒してから、何言ってんだオレ、と思った。
「やっぱ何でもねえ」
 撤回して、また黙った。黙ってあれこれ考える。
 自分でも、なんとなくわかっていた。
(オレはたぶん、)
 あいつのことが好きで。
 欲しいと思うけど。
 それはきっと、適わないことだ。
(だってあいつはマリアン先輩のことが好きなんだし)
 だから。
 だから、結果は見えているのだ。
「…………」
 それでも壮太は、逃げないと決めた。
 きちんと決着をつけなければいけないと、そう思っている。
 だけど。
(怖い)
 傷つくことが。
 フラれることが。
 どうしようもなく、怖い。
「瀬島」
 不意に、リンスが口を開いた。喉が渇いて返事ができなかった。
「後悔しちゃだめだよ」
「…………」
「後悔しないように、行動しておいで」
 どうしてこいつは、欲している言葉をくれるのだろうと、思った。
「それで傷ついたら、またここに来ればいい」
 こんなに容易く、一歩を踏み出させてくれるのだろう。
「うん」
 掠れた声で、頷く。まだ、頭を抱えたままだけど。
「ひどい声。何か淹れてくるよ」
 言って、リンスが席を立った。足音が離れていく。
「ありがとう」
 聞こえただろうか。
 反応を見なかったのでわからないが、たぶん、伝わっていると思う。
(……おし)
 準備ができた。
 『傷つくための準備』が。
 だから大丈夫。
 話をしに行こう。


担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいは初めまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 ……本当にお久しぶりです……!
 こんなに長い間マスターシナリオを出さなかったのは初めてなので、ちょっと勝手がわからなくなっていたなんて秘密ですよ秘密ですとも。

 早いもので、もうクリスマスシナリオも三回目なのですね。
 なんだか感慨深いものがあります。キャラの成長面で。
 あのキャラがもういくつになっただとか、心の変化だとか。
 今回はそういった変化を多く書けたような気がします。
 変化に限らず楽しく書けたので、みなさまにも楽しんでいただけたら嬉しいなあ、と思いつつ、今回はそろそろ筆を置きます。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。