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リアクション
第17章
「でりゃあああぁぁぁっ!!」
屋上では、白津 竜造と未来からの使者 フューチャーXとの激闘が続いていた。
「……」
竜造が振り抜いたブールダルギルの軌跡が、フューチャーXの身体をかすめる。歴戦のラヴェイジャーである竜造が放つその一撃は、喰らえば間違いなく致命傷だ。
だが、フューチャーXはその一撃をギリギリのラインでかわす。振り抜いた竜造の隙を見逃さず、胴体に蹴りを放つ。
「っ!!」
その蹴りに竜造が一瞬だけひるむ。だが、すぐに体勢を立て直して攻撃に移る――。
その繰り返しだった。
「……どうした」
その幕間に、フューチャーXは呟いた。
「あぁっ!? 今さら命乞いかぁ!?」
一定の距離を保ち、竜造が睨みを利かせる。
「違うな……まるで逆だ。……貴様の実力はそんなものではあるまい」
「んだとおぉっ!!?」
その一言に更に竜造が激昂した。更なる力を込めて刀剣を振りかざし、渾身の力を込めてそれを振り下ろした。
だが。
「――ふん。頭に血が昇ってしまっては、どうしようもないな」
フューチャーXはそれを余裕の表情で回避してしまう。
そもそもフューチャーXの目的はこの場においてはカプセルに入ったアニーを守ることであり、竜造とまともに戦う必要なはい。
防戦一方で構わないならば、竜造との距離を保ちつつ、カプセルに近づかせないようにすることは確かに可能だろう。
だがしかし、今のこの状況はフューチャーXが作り出したものではなかった。
「……おかしい」
竜造のパートナー、松岡 徹雄は呟いた。
「っと!!」
その徹雄を、強力な炎が包み込む。フレデリカ・ベレッタが放ったヴォルッテクファイアだ。
「余所見している暇はないわよ」
成り行きとはいえフューチャーXの雇い主となってしまった彼女、このまま竜造たちを放っておくわけにもいかない。
幸輝に雇われた竜造たちがフューチャーXの始末、またアニーの奪還のために襲い掛かってくるならば、応戦しないわけもない。
「……さすがにこりゃあ、多勢に無勢って奴だねぇ」
炎のダメージを隠しつつ、徹雄は状況を把握しようとした。
竜造とその魔鎧であるアユナ・レッケスはフューチャーXと交戦中。
自分はフレデリカとそのパートナー、ルイーザ・ルイシュタインの相手。
もうひとりのパートナーであるゼブル・ナウレィージは、一人アニーの奪還に向かい――というよりは、このどさくさに紛れて研究材料を横取りしようとしたのだが――。
「……ここは通さないわよ」
月摘 怜奈に阻まれていた。
「のおぅ、のおおのぅ!! どうして邪魔するのでぇすかっ!!
このまぁまではアニーとやらはは死んでしまうのでしょう!!
なぁんともったいな〜い!! だからこのワタクシが傷つけずにかぁのじょを救出しようとしているのでぇすよ!?」
ゼブルはフラワシ『ラブ・デス・ドクトル』を召喚している。鉄のフラワシの効果で来るであろう攻撃に備えつつ、ジリジリとカプセルへとにじり寄る。
だがもちろん、怜奈も接近を許すつもりはない。
「そんな詭弁、信じるわけないでしょ……。
それに、アニーさんを看てくれるのはあなただけではないようよ?」
「なぁんですとぉ!?」
ゼブルの絶叫を受け、アニーが入ったカプセルの上部に、ふわりと舞い降りた人影がひとつ。
「……アニーさんは清明が守るのですっ!!」
斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)のパートナー、天神山 清明(てんじんやま・せいめい)だった。
そもそも彼女はパートナーであり親である天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)に連れられてこのビルに来ていた。
葛葉と大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)はもとより幸輝とは契約関係にある。
特に葛葉は以前から幸輝の『幸運能力』の研究に力を貸していた。
葛葉の目的、研究はいかに他人を不幸にするかに向いている。そのために幸輝の『幸運』を操る能力に興味を示していたのだ。
今回もその研究材料である四葉 恋歌とアニーを守り、更なる研究成果を求めるために幸輝に協力していたのである。
だが、清明は善良なる精神の持ち主であるがゆえに、そのような事情を話して協力するはずもない。
そこで葛葉は『未来人のフューチャー・アーティファクトが必要な病人がいる』という理由で清明を連れ出したのである。
「まだ状況は飲み込めません……けれど、父様達がアニーさんや、アニーさんを助けようとしているあのお爺さんをどうにかしようとしていることは分かったのです……えいっ!!」
新たなる決意を瞳に宿し、清明は巨大な注射器型のフューチャー・アーティファクトをカプセルの上部に突き立てた。
地下の研究施設において、このアーティファクトとカプセルは連結してアニーの生命維持の役割を担っていた。一通りの感覚を掴んだ清明にとって、コネクトは容易である。アーティファクトをカプセルに接続したまま、清明はひらりと地面に降り立つ。
「父様達が心変わりするまで清明はアニーさんを助け続けるのです!!
ここは一歩も通さないのです!!」
「……あれ、どうしよ……清明、怪我がないのは良かったけど……」
それを眺めていたハツネは困惑の表情を浮かべた。
ハツネは自らの破壊衝動を存分に満たすためにこの依頼に参加している。この場において戦闘行為は無限に沸いてくるものであり、それはハツネの戦闘欲を存分に満たしてくれるはずだった。
今も、竜造の攻撃をのらりくらりと回避し続けるフューチャーXを『壊しに』行くつもりで屋上に来ていた。
だが、ハツネにとっては家族同然の清明の行動で、それが阻害されてしまったのだ。
このままフューチャーXと交戦するためには、清明を何とかしなくてはいけない。
「むぅ……困ったの……あのお爺さんを壊しに行きたいのに……清明も放っておけないし……」
その傍らで様子を見る鍬次郎も、困惑を隠せない。
「チッ……予想以上に面倒なことになりやがったな……」
本来ならば鍬次郎はここで幸輝との契約により、フューチャーXを始末しなければならない立場だ。
だが状況は見るまでもなく劣勢。この場において幸輝側の依頼側につく可能性があるのは、自分達と竜造達くらいだろう。
「うまくあの爺ぃを切り離せれば、殺れる可能性はあるがなァ……?」
フューチャーXはカプセルからつかず離れずで竜造と戦っている。
コントラクターの多くは恋歌の依頼通り、『アニーを助ける』ためにここに集まっている。
アニーの入ったカプセルをどうにか――別にアニーの生死には興味はない――それこそ破壊でもして注意を逸らし、フューチャーXの隙をつくことができれば……。
「〜〜!!」
そんな鍬次郎の思惑を知ってか知らずか、清明が涙目で鍬次郎とハツネを睨んでいた。
「というか清明は騙されていたのですか、酷いです! 父様の人でなし!! 清明のあの感動を返しやがれです!!!」
じたじたと暴れる清明。もはやこちらの言い分など聞く耳もつまい。
鍬次郎も殺人と裏の仕事に生きる外道ではあるが、身内の情はしっかりと持ち合わせていた。
たたでさえ劣勢であるこの状況で、清明をどうにかしつつフューチャーXの隙を突くのは非常に困難であると思われた。
また、ここで協力すべき竜造はすっかり頭に血が登っている様子で、共闘できるようにも思えない。
「……つうか……葛葉の奴は何してやがるんだ……」
鍬次郎が呟いたその時、その場に葛葉がふらりと姿を現した。
「……これはこれは……非常に面白い……」
手元の携帯端末で何かをチェックしつつ、葛葉は口元に笑みを浮かべながら状況を観察する。
「おい、どうする気だ……?」
鍬次郎の問いかけに応える代わりに、口の端を吊り上げ、微笑んだ。
「ええ――そろそろ、幸輝さんとの契約もここまで……ですね」