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リアクション
第31章
四葉 恋歌がひとり、歩いている。あてもなくひとり。辛うじて倒壊を免れたビルの廊下。
ずる、ぺた。
「どうしよう……わた……あたし……サイテーだ……」
ずる、ぺた。
「陣さんに……ヒドいこと、言っちゃった……」
うん、ヒドいね。
「でも……逃げるなって言われてもさぁ……それは、強いヒトの言い分だよ……」
だからって、やつあたりしていいことにはならないよね。
「うん……そうだよね」
わがままなのは、自分なのにね。
「は、はは……駄目だなぁ、あたし。ちっとも……変わってない。変われてない」
変わってない自分、見られちゃったね。
「ルーツさん……呆れたよね……嫌いになったよね……」
みっともないね。
「みっともないね……もう、会わせる顔、ないよ」
彼のこと、好き?
「わかんない……アニーが助かれば……ホントに奴隷でも召使でもいい……けど」
もう、そんな資格ないよね。
「……ないよね……もらってもらう……資格すら……ない」
うまくいかないね。
「みんなを騙してトモダチやって……たったひとつのチャンスを狙って……結果、これだもんね」
つぎはどうする?
「……次?」
どうする?
「つぎなんかないよ……アニーだけはどうにか見つけてもらえたし……亡霊はたぶん、みんながなんとかしてくれる……」
あたしはどうするの?
「……幸輝……彼はもう終わりだ。今さら体面を取り繕うことも……できないだろうし……」
あたしはどうするの?
「……」
あたしは、どうするの?
「……あ……あたし、は……?」
どうするの?
「あ……どう、しよう……なにも……ない、や……はは……なにも……はは、は……ははは……」
ずる、ぺた。
「あし……いたいな……」
ずる、ぺた。
「いつのまに……ヒール、ぬげたんだろう」
ずる、ぺた。
「いっか……どうでも」
どうでもいいね。
「どうでも……いいね」
つかれたね。
「つかれたね」
どうしたい?
「……きえちゃいたい」
なかったことに?
「きえちゃいたい」
アニーは?
「大丈夫」
過去の亡霊は?
「大丈夫」
幸輝のことは?
「大丈夫」
だれかいるよ。
「だれ?」
だいじょうぶ、みかただ。
「そう――そうか。またあたしをおこるんだ。にげちゃダメだって。にげちゃダメだって。もうあたしは……しんじゃいたいのに」
しんじゃいたいのに?
「しんじゃいたい。しんじゃいたい。しんじゃいたい」
『我が、この世から消してやるよ。四葉 恋歌……』
「……え」
ぴり、と。
「……あ」
小さな胸に軽く痛みが走った。
ただ、それだけ。
「ああ、よかった……」
よかったね。
「これで、これでやっと……」
これでやっと。
「やっと……」
やっと。
「……死ねるんだ……」
四葉 恋歌を殺せる。
ふわりと、恋歌の身体が倒れて。
衝撃に耐えかねた心臓が止まる。
こうして――
17人目の四葉恋歌が、死んだ。