|
|
リアクション
第35章
「恋歌さん……!! 目を覚ますのです!!」
佐野 ルーシェリアが叫ぶ。
「息はしている……身体は生き返っているんだ……でも……」
榊 朝斗は呟いた。
風森 巽が亡霊に憑依されるままに四葉 恋歌の心臓を停止させ、レンカの亡霊を憑依から解いたまでは良かった。その後、再び電気ショックで恋歌の心臓を動かしたことも。
「ヒーローものでは常套手段よ……でも……」
ティア・ユースティも不安気に呟く。それでも、剣の結界で恋歌をガードすることは止めない。
「くそっ、どうして目覚めない。恋歌!!」
風森 巽も焦りの声を上げた。レンカの亡霊はまだ恋歌を諦めてはいないのだ。
『くははは、これはいい!! 助けるはずのあなたたちがかえって恋歌を殺してしまうとは!!』
レンカは嘲笑った。このまま恋歌が目を覚まさなければ、再び憑依することも可能。
そうすれば、レンカは更に大きな能力を得ることができるだろう。幸輝と組むことでその能力は更に増し、『幸運を得る能力』は幸輝の悲願である『運命に介入する能力』にまで進化するかもしれない。
『そうだ……私は実に幸運だった……今までも、そしてこれからも!!
恋歌は実に不幸だったよ……そしてあなた達も。
この娘に騙されて振り回されて……そして結局は無駄骨だった……!!
恋歌には何も残さないよ……命も……能力も……偽りのトモダチでさえ……全部私が喰らってあげようね……』
不気味に笑うレンカ。空中に漂い、恋歌に狙いをつける。
だが、仮面ツァンダー、風森 巽はそれを許さない。
「ふざけるな――我がいる限り、そんなこといは絶対にさせない」
軽身功で飛び上がり、レンカに向けて轟雷閃を放つ。
『……!! ふん、あなたに何ができるのですか……!!』
だが、その攻撃もレンカには効きが悪い。
「……どうにも……分が悪いですね……!!」
ルシェン・グライシスは呟く。
レンカの魔法攻撃を辛うじて相殺できてはいるものの、それはこちら側の魔法攻撃もまた相殺されていることを示していた。
「……恋歌さん……」
アイビス・エメラルドもティアと同様、未だ目覚めない恋歌を見遣った。ルシェンのサポートをしながらも、心配そうな視線を向ける。
「まだ……目覚めない……まだ……死にたいと思っているの……?
死んだら……全部なくなっちゃうのに……」
「……ふざ……ける……なっ!!」
榊 朝斗は叫んだ。
倒れた恋歌を抱きかかえ、叫んだ。
「こんなこと……認めるもんか……まだ恋歌さんは生きている……ここで生きているのに、このまま目覚めないなんて……。
また誰かに利用されるために使われるなんて……許せるわけがない!
僕はまた……誰も救えないなんて……このまま終われるわけがない!!」
普段は人がよく、子供っぽい風貌の朝斗。だが、恋歌を抱え、レンカに向かって叫ぶ朝斗の声には、今まで歩んできた道のりの重さがあった。
「ああ、俺も――その通りだと思う」
『!?』
突如、レンカの背後に人影が現れた。樹月 刀真だ。
「あまり俺達を――見くびるなよ」
ブラックコートで気配を断った刀真は、、いつの間にかレンカの背後に出現していた。
振り向く隙すら与えず、白の剣を振り抜いた。
『くあああぁぁぁっ!』
巽と朝斗に気を取られていたレンカにその攻撃をかわすことはできない。
それでも致命傷には至らないのか、レンカは高く昇って距離を保った。
刀真に向けて呪詛の言葉を放つ。
『ええい、何故――!! 何故あなた達はそこまでその娘に肩入れするのですか!!
その娘は最初から、自分の目的のためにあなた達を騙していたのですよ!?
この日のために――自分のパートナーを助けるためだけに、トモダチのふりをしてきたのですよ!?
そこまであなた達が傷つき、必死になって守る理由など何ひとつないではありませんか!!!
四葉 恋歌は誰のトモダチでありながらも、誰とも友達じゃなかった!!
四葉 恋歌は生きられない!!
四葉 恋歌は許されない!!
四葉 恋歌は道具だ!! 四葉 幸輝と私の道具だ!!!
誰にも関わらなかった恋歌が死んだって誰も気にしない!! 道具をどう扱おうと私達の勝手だ!!』
刀真のパートナー、漆髪 月夜もまた恋歌のガードに入る。
「……恋歌……もうちょっとだよ……頑張って……」
その様子を見た刀真は、レンカに向き直った。まっすぐな瞳で、冷静に返す。
「何故かって……? 決まってる、四葉 恋歌は俺達の友達だからだ。他に理由など不要だろう」
『ふざけるな!!』
レンカは刀真に向けて苛立ちと共に青白い炎を投げつける。しかし、刀真はそれを剣で防いだ。
「騙された? それのどこが悪い。彼女にはあったんだ……そこまでしてでも叶えたい願いが。そのためなら、いくらだって騙されてやるさ」
次々と飛来する炎。だが、それらはルシェンの炎で相殺された。
「生きられない? 許されない? それはお前が決めることじゃない……。彼女は今まだこうして生きて、俺達がその命を認めている」
恨みがましい視線を向けるレンカの両目をしっかりと見据えて。
「恋歌の幸運なら持って行け……そんなものは、もういらない」
ゆっくりと、剣を構えた。
「恋歌はもうセブンティーンの……17番目の少女じゃない。これからは俺達が、友達みんなが、18歳の彼女の幸運だ……っ!!!」
刀真がレンカに向かって、白の剣を投げる。
それは一直線にレンカに向かい、まっすぐに突き刺さった。
『ギャアアアァァァッ!!!』
おぞましい悲鳴が響き渡り、レンカの姿が消えた。
「恋歌、しっかりして!!」
月夜が呼びかけを続ける。
朝斗もそれに続いた。
「恋歌さん、戻ってくるんだ!!」
ルーシェリアは恋歌の手を取る。声が震え、瞳から雫が零れた。
「恋歌さん……このまま……終わってしまうつもりなのですか……?
誰かに利用されたまま……こんなたくさん、友達を残したまま……そんなの……悲しいじゃありませんか……」
しかし、恋歌は目を覚まさない。
身体的には生きている筈なのに。
まるで、深く眠っているように。
「くそ……っ、どうすりゃいいんだ……!!」
巽が呟いたその時、物陰から狩生 乱世が現れた。
「恋歌!!」
パートナーのグレアム・ギャラガーと、『恋歌』の亡霊に憑依されたアン・ブーリンを追ってきた乱世だが、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーによってその憑依が解かれたことを知り、アンをグレアムに任せて、ひとり恋歌を探しに来ていたのである。
「……どう……なってんだ……?」
ルシェンが簡単に状況を説明する。
「なんてこった……こうしちゃいられねぇ!!」
乱世は突然しゃがみこみ、恋歌を抱え上げた。
「どうする気ですか?」
ルーシェリアが問うた。乱世は答える。
「決まってる……アニーのところに連れて行くんだ」
「……アニー」
その単語に、恋歌が僅かに反応する。
「……そうだ、アニーだ……恋歌はあれほどアニーを助けたがっていた。
あのフューチャーXとかいう老人も、アニーを助けるためには、ただ救出するだけではダメだと言っていたんだ……。
なら、恋歌とこの世の繋がりを持たせるためには、アニーと恋歌の繋がりを持たせてやらなくちゃダメなんじゃないか……?」
一同は頷いた。
おそらくそれが、恋歌とアニーを同時に助けることに繋がるだろう。
「恋歌はあんなにもアニーを助けたがっていたのに……どうして死ぬことばかり考えていたんだ……。
この、馬鹿野郎が……」
その言葉に、一瞬だけ皆が違和感を覚える。恋歌はあくまで被害者ではないか。
しかし乱世の表情が、更に皆を黙らせた。
「きっと恋歌はアニーのことがパートナーとして好きで……幸せになって欲しくて……きっとあんなに頑張っていたのに……。
誰かがあんたに対して同じ様に思ってるって……思えなかったのかよ……あたい達だって……チクショウ……」
悔しいよ、と呟いた。誰にも聞こえないように。
「――そう。ここで全てを終わらせるわけにはいかない……だから、この娘達を一緒に連れて行ってほしい……」
そこに現れた少女、それは。
スプリング・スプリングだった。