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リアクション
12.その幸せをずっと
エリュシオンに存在するハーフフェアリー達の村へのツアーは、大好評だった。
とくに宿泊を伴うツアーには、多くのカップルが参加していた。
パートナーにこの村のことを聞いていた南條 託(なんじょう・たく)も、結ばれたばかりの南條 琴乃(なんじょう・ことの)と共にツアーに参加し、この地を訪れていた。
ツアーのプログラム通り、大木の上のレストランで昼食をとって、湖でボートに乗り、ガラス工芸を楽しんで。
そして、自由時間が訪れた。
託と琴乃は宿で一休みして、夕食をとった後。
日が暮れてから外へと出た。
「期待以上に綺麗でいいところだねぇ」
「ホント、すっごい綺麗! 妖精さん達も可愛い〜っ」
「琴乃危ないって」
「時間がもったいないもん。あっちの方行ってみたーい!」
「花畑の方だね」
走り出した琴乃の手を掴んで、彼女を捕まえて。
それから、託も一緒に走った。琴乃が行きたい場所へと。
花畑に着いてからは、2人はゆっくりと散歩する。
色とりどりの花達。そしてちらちらと見えるのは――。
「蛍が、いるね」
小さな声で琴乃が言う。
「うん、可愛い光だね」
2人は手を繋いで、ゆっくり花々と蛍を観賞する。
ふと気づくと。
辺り一面、赤い花ばかりになっていた。
そして2人の前には、小さな洞窟があった。
「……ガイドさんの話、覚えてる?」
琴乃の言葉に、託は首を縦に振った。
この洞窟は、ハーフフェアリーが生まれた神聖な場所、2つの命が、望みあって1つになったと場所と言われているそうだ。
そして、周囲に咲くこの赤い花は『愛の花』と呼ばれている。
草の上に腰かけて、2人は幻想的な景色を堪能する。
蛍達が、赤い花に光の滴を落として、愛の花へと成長させているような。
そんな感覚を受けていた。
「どこもきれいだったけれど……ここが今日一番かな」
託の言葉に、琴乃は「うん」と強く頷いた。
「ここくらい綺麗な場所は、きっと世界中を探してもそんなにないと思うんだ」
「凄く感動する綺麗さ、だよね……胸がじーんとするような」
「愛の花に愛の歌、ここは愛で溢れているねぇ」
少しの間、無言で景色を見て。
「昼間は妖精さん達が可愛く踊って歌い、夜は蛍達が踊ってくれる。お花達はそれに応えるように美しく、綺麗に育っていく……」
そう呟きながら、琴乃は微笑みを浮かべていた。
「はい、僕の愛の形」
託は作っていたものを、琴乃に差し出した。
「えっ?」
ちょっと驚きながら、琴乃はそれを――愛の花で作られた、花飾りを受け取った。
「ふふ、ありがと……っ」
そしてすぐに、自分も愛の花で飾りを作っていく。
「私の愛の形は、託の胸に」
言って、琴乃は作った愛の花の花飾りを、託の胸ポケットに挿した。
「ありがとう、琴乃」
礼を言って、託は自分の作った花飾りを琴乃の髪に挿す。
途端、彼女が花が開く瞬間のような、ふわっと可愛らしい笑みを浮かべる。
「ふふ……昼間教えてもらった歌、覚えてる?」
「サビの部分だけなら……」
微笑み合った後、2人は昼間教えてもらった『愛の歌』を口ずさんだ。
「……いい歌だよね、なんかこう、愛っていう想いがぎゅっと詰まっている感じ、かな」
「うん、なんかね狂おしい愛とは違ってね、温かくて、優しい気持ちになる愛なんだよね」
「そうだね」
立ち上がって、託は琴乃に手を伸ばす。
琴乃は託の手を掴んで立ち上がる。
そして、手を繋ぎ直して歩き出す。
「ねえ、琴乃」
「ん?」
「これからも二人で……たまには二人じゃなくてもいいけれど、色々なところに行こうね」
「うん、行こうね!」
歩きながら、顔を合せて微笑み合う。
「今日ぐらい素敵な場所はなかなか見つけられないだろうけれど……それを探すこと自体が楽しいだろうから」
「綺麗な場所を探す旅、面白そう!」
「そもそも、二人でやれることなら何でも楽しいだろうけれどね」
「ふふ、そうかも」
琴乃は繋いでいる手をぶんぶんと振る。子供の様に。
それは軽快で、気持ちが明るくなるリズムだった。
琴乃の存在を愛おしく感じながら、託は言う。
「今日が幸せで、
きっとこれからも幸せで……
その幸せをずっと大事にしようと思うんだ」
自分の方に目を向けた彼女に。
「愛してるよ、琴乃」
そう、微笑みかけたら。
彼女の顔にまた、花が咲いた。
託への愛を示す花が。
〜愛の花の中で〜
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