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リアクション
13.母娘の夜
エリュシオン領内にある、ハーフフェアリーの村。
この村の夜は、とても静かだ。
ツアー客が泊る宿も、木の上や自然の中にある、植物で作られた宿だった。
「綺麗でしたねー。お花も、妖精さんも、湖も」
布団の中で、広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)はまだ目を輝かせていた。
隣には、母であるウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)の楽しそうな笑みがある。
布団の中で、2人は楽しかった一日のことを語り合っていた。
2人がここを訪れたのは、ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)ら、ファイリアのパートナー達に勧められて、であった。
ウィルへルミーナ達は、ウィノナとファイリアに母娘2人の思い出の時間を作ってほしいと思い、プレゼントしたのだ。
2人は親子だけれど、訳あって親子として一緒に過ごしている時間はまだ凄く短いから。
「湖の近くではしゃいで滑り落ちそうになって、危うく水浸しになりそうになったけどね♪」
くすっとウィノナが笑う。
「はわ!? で、でもお母さんも慌てて掴んで一緒に落ちそうになったじゃないですか〜!」
「そうだっけ?」
「そうですよ〜! 2人でびちょびちょになるところでした」
「ふふ、危なかったわね。泳ぐのも楽しそうだけれど」
泳いでも良い場所もあったようだった。
「泳ぎたくなるような湖でしたよね〜! 水、澄んでましたです。水着持ってくれば良かったですっ♪」
「泳ぎにも、そのうち行けるといいわね」
ウィノナのその言葉に、ファイリアは「はいっ」と元気よく返事をする。
「2人でこんなに楽しい時間を過ごせたのは初めてかもね? ウィル達にも何かお返ししたいね〜」
「はい! 帰ったら、ウィルちゃん達にいっぱい感謝のお返しをするのですっ♪」
「お土産買って帰りましょう。お土産話も沢山できそうね」
「そして、今度は一緒にくるです〜」
次は皆で一緒に来ようと、ファイリアとウィノナは微笑み合った。
「さて、そろそろランプ消すわよ」
ウィノナの手が伸びて、明かりが消えた。
真っ暗ではなく、ほんの小さなランプだけはつけたままだった。
(今なら……誰も、いないです、から)
ファイリアは、ウィノナに体を寄せた。
「ファイ?」
不思議そうに尋ねるウィノナの腕にちょっと触れて。
「もう、お母さんはどこにも行かないですよね?」
そう尋ねると。
ウィノナはファイリアを優しい目で見つめて。
「大丈夫。ボクはもう、ファイをどこか遠くに置いて行ったりしないよ」
心を籠めて言った。
「もっとお母さんと楽しい時間をいっぱい作りたいです」
「うん。一緒にいられなかった分まで、一杯時間を埋めて行こうね?」
言って、ウィノナはファイリアの頭に手を伸ばして撫でた。
「一緒に、埋めるです……っ」
ファイリアは嬉しそうに微笑んで、大好きな母親にすり寄った。
「お母さ〜ん」
そして猫がじゃれつくように、腕に顔を押し付ける。
「うわっ!? ファイ、どうしたの!?」
ちょっと驚くウィノナの腕をファイリアはぎゅっと抱きしめた。
「今なら誰もいませんですから、遠慮なくお母さんに甘えられるです〜♪」
「まったく、しょうがない甘えんぼさんだね〜、ファイ」
くすくす笑いながら、ウィノナはファイリアを抱き寄せて背をぽんぽんと優しく叩いた。
心地良いリズムだった。
「お母さー……ん……」
ファイリアはウィノナに抱き着いたまま、ゆっくり眠りに落ちていった。
「お休み、ファイ」
ウィノナはファイリアの頬にキスをすると、自分も目を閉じる。
「輝いていて、キレイ……」
美しい景色と、明るい笑みを浮かべるファイリアの姿が、瞼の裏に焼き付いていた。
〜後日、海にて〜
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