なし

リアクション

　
４８．爽やかな、初夏の陽の下


　外でデートをするには最高の天気だった。

「いやいや、デートとかそんなんじゃなくて……。
　公園で、一緒に遊ぶだけだから……」
　バスケットコートのゴール下で、ぶつぶつと、自分で自分に突っ込みを入れていた杜守　柚（ともり・ゆず）は、いつの間にか側に歩み寄って来ていた気配に気づかなかった。
「どうした？」
「ひゃあっ！」
　高円寺　海（こうえんじ・かい）に声をかけられて、驚いて飛び上がる。
「あ、あ、あ、海くん！　こんにちはいい天気ですね！」
　柚の叫びにぽかんと驚いた後で、海は笑った。
「うん、いい天気だな」


　海はバスケットボールを手にしていた。
　普段、試合を見るくらいでしかバスケットに関わらない柚だが、色々知りたいです、と誘ったのだ。
　柚はバスケをやっているパートナーに、ボールを借りて持って来ている。
　柚は、運動神経自体はいいのだが、バスケは今迄、応援専門だった。
「基本的なルールは知っているんですけど」
「プレイするわけじゃないなら、それで充分だろ。いつも応援に来てくれてありがとな」
　海は軽くドリブルをして、ボールをポンとゴールに投げる。
　スポッとゴールリングに収まって、柚は拍手した。
「でも、フリースロー対決では、三月ちゃんに勝ったんですよ」
「へえ。それは凄いな」
　えへん、と胸を張る柚に、海は感心したように言い、
「……でも、距離でハンデ貰ったんですけど」
と小さく付け加えた柚に、あははと笑った。

「海くん、私、ダンクシュート見てみたいです」
「オッケ」
　ダム、と海のボールのドリブルに力が入る。
　柚の目の前で、海のダンクが決まって、柚は見惚れた。
　かっこいいな、と頬が熱くなる。
「かっこいいですね。私もダンク一回やってみたいです」
　柚は、ゴールポストを見上げた。
「届かないですよね……」
　両手でボールを持って、ゴールするシュミレーションをした後で、ふと海を見た。
「持ち上げて貰えませんか？」
「よし」
　成る程と笑った海は、ボールを置いて、柚の腰を掴むと、両手を高く差し上げる。
　ぐん、と柚の視界が一気に上がって、柚はボールをリングの中に押し込んだ。
「わあ！　すごい！　ありがとう海くん！」
「わ！　急に動くな！」
　嬉しくてはしゃいだ柚は、ぐらりとバランスを崩し、思わず海に抱きつく。
「きゃー！　あっ！　ごごごめんなさいっ！」
　何とか無事に着地した柚は、嬉しいやら恥ずかしいやらで挙動不審だ。
　そんな柚を見て、海は面白そうに笑った。
「どうだった。ダンク」
「あっ！　凄かったです。
　海くんより背が高くなったみたいだったし、リングに触れたのも、びっくりしました」
　よかったな、と海は頷いた。



「今日は楽しかったです！」
　途中までの道を一緒に帰りながら、柚は海に礼を言った。
　海はどうだったろう。自分の誘いで、困らせていないといいのだが。
　少し不安に思っていると、
「うん」
と、柚の言葉に相槌を打った海が、少し困ったように、柚を見た。
「ゴメン」
「えっ？」
「オレ、柚のこと困らせてるよな」
「え？　そんなこと……」
「悪い。でも、もう少し、待ってくれ。
　試合が終わったら――ちゃんと、言うから」

　とても大事な、集中して臨みたい試合がある。近く。
　海は柚からの告白の返事を保留にして、その試合に集中している。
「……試合、頑張ってください。絶対応援します！」
　柚は、ぎゅっと祈るように両手を組んで、力強く言う。
「うん。ありがとな」
　ふ、と海は笑った。