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リアクション
42.プールサイドにも初夏は訪れて
ツァンダにある、御神楽邸の敷地面積は広大だ。
勿論屋外にプールもあるのだが、屋内用のプールもあって、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、屋内プールの方に、妻の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)を誘った。
商用プールや海もいいけれど、自家用プールのいいところは、何といっても、二人きりで過ごせるということだ。
開閉可能な天井を全開にして、初夏の日差しを招き入れる。
「プール日和ね」
環菜も、四角く切り取られた空を見て言った。
「水着、よく似合っています。ドキドキする」
「馬鹿ね」
陽太の、臆面のない恥ずかしい台詞にも慣れて、環菜はさらりと答えるが、その頬は微かに赤い。
陽太はくすりと笑った。
「天井を開けてるから、日焼け止めを塗りましょうか」
「お願いするわ」
陽太に促されるまま、環菜はプールサイドのデッキチェアにうつ伏せになる。
陽太は、その滑らかな背中にドキリとして、そんな自分に苦笑した。
「何?」
「い、いえ」
何でもないです、と言いながら、一通り塗り終わる。
「はい、今度は前です」
「……そっちは、自分でやるわ」
「恥ずかしがらなくても、夜にはもっと凄い姿を……」
むぎゅ、と口を指で押さえられ、黙らせられると、環菜は陽太の手から日焼け止めクリームを取る。
陽太はくすくす笑った。
「夜の姿を見ていても、昼間の姿にはまた別の魅力があります」
「もうあなた、黙りなさい」
ため息を吐いて言ってから、環菜は、ふっと笑った。
スイミングを満喫して、程よく疲れた後、プールサイドのデッキチェアに並んで寝そべって寛ぐ。
間にある小さなテーブルには、トロピカルフルーツとドリンクも用意した。
「どうぞ」
「ありがとう。用意がいいわね」
「そりゃあ、愛する奥さんの為ですから」
ふふ、と微笑んでみせる陽太に、環菜も苦笑する。
それから、鉄道事業やパートナー達のことなど、他愛ない会話を楽しむ。
ふと会話が途切れて、環菜はジュースのストローをくわえながら、ぼんやりプールを見た。
「また、泳ぎますか?」
「……時々、建設的じゃない、とても下らないことを考えるわ」
「どんな?」
「そうね……例えば、このプールに、水じゃなくてゼリーを張ったら、食べるの大変だろうな、とか」
陽太は瞬く。
プールいっぱいのゼリー。まるで、小さな子供が空想しそうなことだが。
「でも、面白そうですね」
「馬鹿げたことだわ。でも」
環菜はくすりと笑う。
「きっとこれって、人生が豊かになったってことね」
あなたのおかげだわ。
微笑んだ環菜に、陽太は身を寄せてキスをした。