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リアクション
40.職務遂行
会談を終え、最後に扉から出てきた金 鋭峰(じん・るいふぉん)と羅 英照(ろー・いんざお)に、扉の外で待機していたルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は敬礼した。
「お疲れ様です」
「待機ご苦労」
公務の為に王宮に赴いた鋭鋒達の護衛として随行するルカルカ達は、歩き出す二人の後ろに続く。
「この後の予定は?」
英照に訊ねる鋭鋒に、ルカルカは
(……んん?)
と首を傾げた。
彼が自分の一日の予定を把握していないのも変だと思ったし、英照がすぐに答えないのも変だと思った。
「……本日の予定は以上だ」
ようやく口を開いた英照に、鋭鋒は怪訝そうに立ち止まる。
「本日は、7時間先まで予定が埋まっていると思ったが」
そこはちゃんと憶えているようなのに。
ふと、ルカルカは気がついたことがあり、ダリルにひそりと話しかけた。
(ね、団長のスケジュールってどうなってたっけ)
問われて、ダリルも思い当たり、記憶を遡る。
ルカルカ達の、鋭鋒達の護衛任務は、今朝からのものだ。だが。
(確か、三日前予定だった政府官僚との打ち合わせが順延され、20時間前に急遽行われていた。
それに、ニルヴァーナ関連の定例会議が、飛び込みで設定されていたようだ。
それから……)
思い返してみれば、延期や前倒しになった予定が、ことごとくここ二日に集中している。
つまり鋭鋒は、軽く50時間ほどぶっ通しで公務をしている計算になった。
「団長本人が必要な公務は、以上で終了した。
ここからは、私が引き継ぐ」
「その必要は無い。職務を怠るわけにはいかないだろう」
鋭鋒は固辞して再び歩き出そうとするが、英照は、じっと鋭鋒を見る。
ゴーグルの下で、彼の目が半眼になっているのが見えるような気が、ルカルカはした。
「――――ジン」
ぴくり、と、鋭鋒の動きが止まる。
微かに、しかしいかにも気まずそうに顔をしかめ、まるで兄にしかられた弟のようだとルカルカは思った。
多少の不調なら、彼は完璧に隠してみせるだろうから、少しでも顔色が悪く見えるということは、相当体調が悪いのだろう。
睡眠不足を甘く見るべきではない、とダリルも進言しようかと思ったが、既に鋭鋒の反応を待たず、英照が指示を出した。
「ルカルカ・ルー少佐は団長をホテルに送り届けるように。
ダリル・ガイザックは私の補佐を」
「拝命いたします!」
ルカルカは敬礼してそれに答えた。
教導団は、鋭鋒のカリスマ性に頼っている一面も確かにある。
彼も、それを自覚している部分があるから無理もするのだろう。
だが、自分達部下も彼を支える、磐石な組織でありたいと、英照に随行して歩きながら、ダリルは思う。
ルカルカはきっと、そう願っているだろう、と。
王宮には鋭鋒専用の居室があるが、今回の公務では、他の職務との兼ね合いからホテルを取っていた。
ホテルに向かうリムジンの助手席で、ルカルカは、ちらちらと鋭鋒の様子を伺う。
後部座席で、鋭鋒はじっと目を閉じて座っていた。
(寝てるのかな……?
でもあんな真っ直ぐ座ってて寝てるってあるのかな……声を掛けない方がいいかな?)
思案の末、もしも寝てたら起こさないように、と、小声でそっと、
「団長……?」
と呼びかけてみる。
すぐに鋭鋒の目が開いて、やはり起きていたのだと解った。
「あの、到着したら声を掛けさせていただきますので、お休みになっては」
「気遣いに感謝する」
鋭鋒はそう言ったが、今度は目も閉じない。
ルカルカが気にしていると、鋭鋒が、「そういえば」と口を開いた。
「少佐はロイヤルガードも兼任しているのだったな。最近は、どうか」
(ひーっ! 逆に気を遣わせちゃってる!)
ルカルカは内心慌てたが、質問に答えないわけにもいかない。
「は、はいっ。
女王や代王の護衛や宮殿の警備が主な仕事ですが……。
常勤するわけではなくて、持ち回りで担当制ですので。
たまに、十二星華のティセラ・リーブラ等と同じシフトになることもあります」
鋭鋒は頷いた。
「これからも、少佐らの働きに期待する」
リムジンが、ホテルのエントランスに入って行く。