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リアクション
1.近いうちに
6月上旬。
からりと晴れた気持ちの良い日。
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、レジャーボートを借りて、恋人のティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)と共に、ヴァイシャリー湖でクルージングを楽しんでいた。
2人とも、水着姿だった。
祥子は黒のビキニの上にキャミチュニック。細いボーダー柄の水着を纏っており。
ティセラも同じような形状の青色の水着を着ていた。
そしてまだ少し寒いせいか、照りつける太陽の光が強いせいか。
ティセラは白色のカーディガンを羽織っている。
「うーんっ」
海を見ながら、祥子は気持ちよさそうに伸びをした。
「や〜。やっと試験が終わって肩の荷が一つ下りたわ」
「お疲れ様でした。試験はどうでしたか?」
寄り添って、ティセラが祥子に微笑みかけてきた。
「えーと、うん。歴史年表もちゃんとソラで書けたし、地図に事件や都市名を書き込むのもできたわ。いくら世界史絡みだからって帝政ロシア時代とソ連時代の都市名の変遷をかけってのはきつかったけど……」
「百合園女学院の試験を受けたのですよね?」
「ええ、秋季からの新規採用試験」
祥子が昨日受けたのは、百合園女学院の教員採用試験だ。
彼女は既に実習生として百合園で働いていて、正規教員になることを目指していた。
この度、ようやく時間をとることができ、採用試験に臨んできたというわけだ。
「地球の歴史の問題ですか……幅広い知識が必要になるのですね」
「地球とパラミタ、両方の知識がね」
「手ごたえはありましたか?」
「う……うんまあ。でも結果が出るまでは安心できないし、受かっても落ちても日々勉強が必要な仕事だから。明日からは元の日常にもどるわけだけど」
言って、祥子はティセラを見つめる。
「今はホント休みたい。リフレッシュしたい」
「ええ。今日一日、ゆっくり過ごしましょう」
うん! と微笑んで。
強い光が降り注ぐ中、祥子は他愛もない話を始める。
街で見かけた野良猫の話とか。
紫陽花が見ごろだね、とか。
お化粧の話や、日焼けの話も。
「この時期って、紫外線の量、一番多いのよね」
祥子は肌の白いティセラのことがちょっと気になって、パラソルのあるチェアへと移動した。
2人で座る事も出来るチェアだけれど、さほど大きくはない……ということを理由に。
「ティセラ」
祥子は先に座ったティセラに、覆いかぶさった。
「どうかしましたか?」
「ううん。リフレッシュしたいだけ。ティセラが傍にいると、ほっとするの……」
祥子がそう言うと、ティセラは彼女の背に手を回して。
「お疲れ様でした。眠ってもいいですわよ」
優しい声で祥子にささやいた。
「眠くはないの。こうしていると元気が湧いてくるし」
祥子はぎゅっとティセラを抱きしめる。
(……ああ、なんだかんだいって不安なんだな、私)
ティセラを強く、少し甘えるように祥子は抱きしめて。
彼女の頬に。耳のすぐそばに唇を当てて、囁く。
「ねぇ、ティセラ。近いうちにちゃんと答えを出すから。貴女を悲しませるような答えにはならないから、もう少しだけ待ってて」
ティセラの手が、祥子の頭に添えられた。
黒い髪を、幾度か撫でて。
「わかりました」
そうティセラは一言だけ言った。
祥子は体を上げて、ティセラを見つめる。
ティセラも祥子を見つめて、目を細めて微笑む。
その微笑みが、祥子の心を満たして、疲れを癒していく。
ふと「お帰りなさい」と出迎えてくれるティセラの姿を思い浮かべ……。
(同じ姓を名乗り、一緒に暮らす……そんな日、が……)
そこまで思い浮かべて、祥子ははっと気づく。
そういえば。
そんなことを。
試験中も考えていたような気がする。
ティセラの事を思い浮かべて、落ち着こうとして。
緊張から逃れるために、そんな妄想を……!
「…………………あ゛ーーーーーーーーーーー!!??」
突然大きな声をあげて、祥子は立ち上がった。
(しまった、やってしまった!? 思い出したなにやってたのよ、私わあ!!)
まだ付き合始めたばかりなのに、結婚なんてしてないのに!
つ、い。
(名前欄に「祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)」って書いたー!?)
祥子の顔と体が真っ赤に染まっていく。
「どうか、しましたか?」
不思議そうな顔をしているティセラに、祥子はぎこちない笑みを向けて。
「お、泳ぎたくなった。そう、泳ぎたいの私! はははは」
どっぼーん! と、突然湖へダイビングしたのだった。
湖で十分体を冷やした後。
ボートのティセラの元に戻ると。
「お帰りなさい」
彼女は優しい微笑みで、バスタオルを手に両手を広げて祥子を迎えてくれた。
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