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【4周年SP】初夏の一日

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【4周年SP】初夏の一日

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5.平和って

 ヴァイシャリーにある女の子に大人気のケーキ屋さん。
 『夏にオススメ! ひんやりフルーツチーズケーキ!』とポップに書かれているお店に、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)を誘って訪れていた。
「はーい、ミルミちゃん。あーんっ」
 アルコリアがキウイレアチーズケーキをスプーンで掬って、ミルミへと差し出す。
「あ〜ん」
 ミルミが小さな口をかぱっと開いて、ケーキをぱくっと食べる。
「うん、美味しいっ。甘いだけじゃなくて、つめたくてさっぱりしてて」
「うん、絶品だよね。バランスいいし」
 アルコリアだけで3皿目だ。
 小さくはないけれど、甘さは控えめで、カロリーもそう高くはないケーキだった。
「アルちゃん、あーん」
「あ〜ん」
 続いて、ミルミがオレンジケーキの最後の一切れをホークで刺して、アルコリアの口へと運んだ。
 ミルミもすでに、2皿目だ。
「こっちも美味しいね」
「ちょっと酸味があるところがいいよねー。次はレモンチーズケーキ頼んでみよっかな」
「酸味が欲しいなら、お酢かけよっかミルミちゃん。だばだばと」
「お酢入らないよぉ〜」
 笑い合いながら、空調の効いたお店で、冷たいケーキと。
 それから、アルコリアは暖かいハイビスカスティーを。
 ミルミは、アップルティーを楽しんでいた。
 
 ケーキがちょうど途切れた時。
「……ちょっと、変な話していい? 難しいというか答えの出ない話なんだけど」
 カップを置いて、アルコリアが尋ねた。
「ん? なあに」
 ミルミが不思議そうな顔で聞く。
「意見あれば聞きたいけど、私は普通に話してても、話が飛躍してるとかどうしてそう発想したか分からないって言われるから、わかんないと思ったら流して良いからね」
 アルコリアのそんな言葉に、ミルミは幾分きょとんとした表情で首を縦に振った。
 アルコリアはカップを手に取って、ハイビスカスティーを一口飲んでから、話し始めた。
「世界平和ってなんだろう? って」
「世界平和……?」
「うん、争いがなくなることかなーって思うけど。争いの起こる大元は何かというと、欲望でしょう?」
 アルコリアの言葉に、ミルミは難しそうな表情をしている。
「ここまではよくある話だけど。この場合の欲望って夢や希望、やる気と同じ物だと思うのよ」
「んー……」
「前に進もう、進化しようって力が争いの元なんじゃないかって」
 アルコリアはため息をついて、続ける。
「世界平和も夢も希望も肯定するには、夢と欲望は違うって区別をする事が一番なんだろうけど……どうしても、別物に見えないのよね」
 それで、両立する方法がないかと、考えるから。
 袋小路になってしまうのだと、アルコリアは言う。
「アルちゃん、世界平和の為に、頑張ってるの?」
「うーんと。私の思ってることや考えてることはそれだけじゃないけど、複雑すぎて一気に話すと時間とっちゃうから」
「うん」
「まともな事じゃないからまともじゃない方法でアレコレやってるつもり」
「うーん……よく分からない」
「うん、そうだよね」
 くすっとアルコリアは笑う。
 ミルミが理解できるようには、話してはいない。
 アルコリアが、ミルミと一緒にいる時以外――どんな生き方をしているのかも。
 ミルミは、知らないはずだから。
「ただね、世界平和も全員じゃない誰かの夢だよね。世界が平和な方がいいって思う人の夢。ミルミは自分平和の方を優先しちゃうと思うんだよね」
「自分平和?」
「うん、楽しいことしたりね。アルちゃんとこうして美味しいもの食べたりしたり! そういう時が平和な時間だよ。自分平和が大事だから、戦争とかなくなってほしいし自分から仕掛けようなんて思わないけどね。痛い思いもしたくないし……」
 ミルミはじっとアルコリアの顔を見つめる。
「ミルミが巻き込まれなくても、1人で食べに来てもつまらないんだからね」
 アルコリアはミルミのその真っ直ぐな目から、軽く目を逸らした。
 ミルミはよく分からない、と言いながら。何か感じ取っている部分もあるみたいで……。
 ごまかすようにお茶に手を伸ばして、飲んで息をつき。
「つまらない話聞かせてごめんね。できるだけ頑張ってみるよ」
 アルコリアは精一杯の笑みを見せた。

『その結果、どこかで命落したらごめんね』
 その言葉を飲み込んで。