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リアクション
22.こどもの家「こかげ」にて
獣人の村にある、
孤児院兼児童館、こどもの家「こかげ」は、
ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が代表を務めている。
子どもたちの元気な笑い声と足音が響き、
今日も、園庭で、歓声が上がる。
園長先生を務める、
高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)は、
ビニールプールを用意して、子どもたちが水遊びできるように準備していた。
近くの川に遊びに行くこともあるけれど、
小さな子どもたちが多い時は、
こんな大きなビニールプールを使って遊ぶこともできる。
「ほらほら、みんな、準備体操終わりましたかー?
そしたら、お水を、まず、手足にぱしゃぱしゃってかけて。
それから、お胸にもかけましょうね」
水穂が、子どもたちに声をかける。
ゆっくりと水に慣れてから、プールに入るためだ。
「ゆっくり、腰までつかったら、プールの中、歩いてみましょうか」
最初からテンションMAXの子もいれば、
おそるおそる、でも、だんだんとなれていく子もいて、さまざまだ。
やがて、子どもたちは、
皆、プールになれて、水遊びを楽しみはじめた。
「もっふもっふひみつへいき、ももん、いっくもんっ♪」
小さな水着を身につけた、
リスの獣人の樹乃守 桃音(きのもり・ももん)が、
しっぽをふりながら、水をぱしゃぱしゃとかける。
「あはは、つめたいよ、ももんちゃん。
よーし、負けないよー」
パストライミ・パンチェッタ(ぱすとらいみ・ぱんちぇった)も、
桃音に水をかけ返す。
パストライミは、元気な子どもたちの様子を見て、思った。
(孤児院のみんなは、
この村が魔物に襲撃されたときに両親を失ったって聞いているんだけど、
そんなことがなかったように元気に楽しんでいるみたい。
悲しいこと、なかったことにできるわけじゃないけど、
これからの生活が、楽しくなるといいね)
「パストライミちゃん、すきありー!」
「きゃああああ」
桃音がとびついてきて、パストライミはプールにばっしゃんと転んでしまう。
とはいっても、浅いので全然大丈夫なのだが。
「もう、ももんちゃんったら。
こんどはこっちからいくよー」
「きゃははははっ!
ももん、まけないもんっ!」
百合園女学院のカスタム制服の上に、
こどもの家での「制服」、保育士用腰エプロンを身につけたネージュは、
パートナーたちの様子を、目を細めて見つめる。
(ももんちゃんをパートナーにして、ほんとによかったなあ)
桃音も、もともと、この子どもの家「こかげ」で暮らしていた孤児の一人だったが、
ネージュとパートナー契約して、
ファミリーに加わったのだ。
ネージュは、水穂が、
大きなビニールプールに、ホースで水をそそぐのを見つめる。
太陽の光を浴びて、きらきらと虹が反射する。
子どもたちの瞳も、一緒にきらきらと輝いている。
「冷たくて甘い、ハチミツ入りハーブティを作ったよ。
水遊びが終わったら、皆で飲もうね」
ネージュは、プールサイドの脇のテーブルに、
ハーブティを置いた。
「よーし、じゃあ、あたしも水遊びに参加しようかな!」
「わーい、ねじゅおねえちゃんだ!
まけないもん!」
「えーい、しゅうちゅうこうげきだよー」
「きゃああ、ちょっとちょっとー」
桃音やパストライミの掛け声で、ネージュは水をかけられる。
「ふふ、ねじゅちゃんは人気者ですね」
水穂が、微笑ましい光景に目を細める。
「よおーし、まけないんだからー!」
ネージュも、子どもたちに負けないように、ついついエキサイトしてしまう。
こうして、水遊びを思いっきり楽しんだ後は、
美味しいハーブティを飲む。
「あまくておいしいねー」
「そうだねー」
桃音とパストライミ、子どもたちの笑顔に、ネージュも笑顔を浮かべる。
「ふふ、運動の後はとっても美味しいでしょ」
「ねじゅちゃん、ありがとう。
この甘いハーブティ、みんな大好きだから、
みんな、笑顔でよろこんでますよ」
水穂の言葉に、ネージュはうなずく。
「うん、みんながよろこんでくれると、あたしもとってもうれしいな」
「ねじゅおねえちゃん」
桃音が、ふと、ネージュに話しかける。
「ん、どうしたの、ももんちゃん」
「これ、くさのみ、あげる!」
「わあ、ありがとう!」
小さくてかわいらしい草の実。
それは、ほんのささやかなプレゼントだったけれど。
「ねじゅおねえちゃん、
今日はハーブティも作ってくれて、一緒に遊んでくれたから、そのおれいだよ」
「ももんちゃん、ありがとうね」
ネージュは、満面の笑みで答えた。
涼しくて、優しい風が、ゆったりと吹いている。
初夏のなんでもない一日だけれど、
今日も、特別な、大切な日になったのだった。