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リアクション
第1章 追跡【4】
再び寺院の門。
困惑するカーリーの耳に聞こえてきたのは、衿栖の制圧宣言を乗せた放送だった。
『こちら追撃隊の茅野瀬衿栖です。補給拠点は押えました。増援の心配もありません。繰り返します、こちら……』
「こ、これは……」
『……最後に。聞こえていますか、カーリーさん』と不意に衿栖はカーリーを名指しした。
『あなたにひとつだけ言いたいことがあります。私たちは仲間を捨て駒にするような人には絶対に負けません。自分が補給する時間を稼ぐために、味方になってくれた契約者を使い捨てるような真似がどうしてできるんですか!』
しかし、カーリーはふふんと鼻で笑い、大帰滅で屋外拡声器を消滅させた。
「駒とは王を守るために存在するもの、わたくしのために使って何が悪いと……」
とその時突然の爆発が大地を激しく震撼させた。
爆発に包まれ電波塔が崩れ落ちる。続いて寺院からも火の手が上がるのが見えた。
「なーんたる、なーんたること! 一度ならず二度までもお煮え湯を飲まされるなんて……!」
既に供回りの兵も奇襲に次ぐ奇襲を受けて全滅。もはや彼女を守るものは毛布の一枚のみである。
「むむむ……、せ、せめて着替えだけでも……!」
彼女は火の手が上がる寺院に走っていった。
ところが、である。物資を保管してあった石蔵はセレナの活躍によりことごとく焼き払われているのだった。
「わ、わたくしの特注スーツが……、あらゆるシーンで活躍するわたくしのスーツが消し炭に……!」
「お困りのようですねっ」
うなだれる彼女に話しかけたのは、おにぎり大好き桐生 ひな(きりゅう・ひな)さんだった。
蔵から持ち出したと思しき荷車を引いているので、カーリーは慌てて荷車をのぞきこんだ。
「わたくしのスーツ……ではなさそうですわね」
「そんな腹の足し人ならないものに手はださないのですよー。実用的なものをぱくっ……持ってきたのですっ」
荷車に積まれていたのは食材の山だった。肉やら野菜やら、ほとんどが乾燥した非常食だ。
「これでも食べて元気を出してくださいっ」
「だーかーらー、わたくしは庶民の食べものなんか……!」
「遠慮しなくてもいいのですよ〜」
そう言って無理矢理食材をカーリーの口に詰め込んだ。
「むぐぐ……」
べしべしとあごを叩いて咀嚼させ次々に生のままの食材を放り込んでいく。
フィニッシュに渾身のマヨおにぎりを押し込むと、彼女は白目を剥いて倒れた。
無論、アレルギーのことなどひなが知るはずもないが、典型的な庶民アレルギーの症状だった。
「はら……、どうしたのでしょう?」
不思議そうに見ていると、すぐに彼女は目を覚ました。けれどどこか様子がおかしい。
「こ、ここはどこですの!? わたくし、麻布十番のシャレオツなカフェでお紅茶をすすっていましたのに……!」
「……もしかして孔雀院麗華さん、ですか?」
「ど、どうしてわたくしの名を……! ま、まさかあなたがわたくしをこんな辺鄙な場所に誘拐したのですか!」
「へ?」
「さては御神楽環菜の差し金ですわね。わたくしがパラミタに行くためのパートナー探しをしているのに勘づいてそれを阻止しようとしているのですわ。きっとそうに決まってますわ。あの薄汚いデコビッチならやりかねませんもの」
「……どえらい誤解をされているのですよ」
カーリーの魂が気絶したと言うことは、必然的に身体の支配権は麗華に移動する、そういうことのようである。
口調が同じなので変化がわかりづらいが、カーリーはより凶暴凶悪で、麗華は被害妄想が強いようだ。
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