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リアクション
第1章 追跡【3】
警備は見た限りでは両手におさまるほどの数しかいない。
きっと先の戦いで決着を付ける予定だったのだろう。
ここを使うことになるのは想定外の出来事で、拠点の見張りを行う兵士も最低限しか配されていない。
既に内部では先回りした追撃部隊が行動を開始していた。
「やれやれ、今回は重労働だな」
妖狐白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)は小さな石蔵に物資を見つけると根こそぎ炎で焼き払った。
それから、槍を手にあらわれたゴーストナイトに小さく微笑み鬼払いの弓で射かける。
「白姉、こちらへ」
細長い通路の奥からかけられた声に頷き、セレナは騎士達を通路に誘う。
その先は屋外に通じていた。石造りの寺院の平らな屋根の上、奴隷都市にあったものと同じ鋼鉄の電波塔だ。
通路の出口に折り重なる騎士にセレナは拳を向ける。
「我は射す光の閃刃……!」
握りしめた拳を開放すると鋭く輝く光刃が彼らを刺し貫いた。
そこに先ほどの声の主、義の剣士九条 風天(くじょう・ふうてん)が躍り出る。
彼は抜刀するやライトブリンガーの一撃の下にゴーストナイトを斬り伏せた。すかさず返す刃が一閃、騎士達は彼に触れること叶わず、死者に相手に使うのは正しくないかもしれないが……もの言わぬ骸へと次々に変っていった。
「ここに騎兵がいなくて助かりました。馬さえなければ奈落の騎士と言えど恐るるにたらない相手です」
「その上も数もおらん。ま、とは言えのんびり戦うわけにもいかんか」
「ええ、奈落の軍勢の総大将と外の皆さんが接触したとのことですから……」
風天は忠義を尽くす従者坂崎 今宵(さかざき・こよい)に目をやる。
「今のうちに爆破の準備を」
「お任せくださいませ、殿。この坂崎今宵、主君の期待に応えるべくこの任、必ずや果たしてみせます」
そう言うと、彼女はテロルチョコおもちを次々に鉄塔に貼付けていった。
構造を考慮し爆発の威力を増大させる位置を狙う。
「どうも皆考えることは同じみたいね」
せっせとことに臨む今宵の前にあらわれたのはリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)だった。
小脇に爆薬の詰まった小箱を抱えている。箱の印から見るに寺院にあったものをちょろまかしたのだろう。
「たしか追撃隊の方ですね。あなたも電波塔の破壊に?」
「ええそう。さっきいろいろ計算してたみたいだけど、私もそれに協力するべきかしら」
「是非にお願いします。ええと、この上の支柱の両端に二つ、それからさらに上の三番目の継ぎ目のところに……」
「わかったわ、高いところの設置は任せて」
そう言うとリーラは軽身功で軽々と鉄塔を登った。
しばらくして設置が終わったころにはゴーストナイトもあらかた片付いていた。
控えめに言っても余裕を持った勝利に奢ることなく風天は血を拭って海神の刀を納める。
「こちらは任務達成ですね。通信設備の破壊に向かった人達の連絡があるまでしばし待ちましょう」
その通信設備は寺院の中でも開けた場所にあった。
同心円状に配された石椅子、中心の空間に通信用に機材が幾つも置かれている。
人形使い茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は椅子の影を辿りながら機材に近付こうとしていた。
警備はゴーストナイト……数的には問題なし、ここは一気に叩くが吉日宣言と見ました……。
隣りの椅子に隠れるパートナー、レオン・カシミール(れおん・かしみーる)と茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)にハンドサインで合図、二人が了解を示したところでおもむろにカタクリズムを放ち、ゴーストナイトを数人壁に吹っ飛ばした。
敵はこちらに気付き、槍を構えて向かってくる。
レオンがスナイパーライフルで狙撃を行う間隙を縫って、霧隠れの衣で霧化した朱里が側面から襲いかかる。
「隙ありよ、ナラカのナイトさん」
不意を突かれた騎士はレプリカ・ビックディッパーのひと振りで身体を四方に飛び散らせた。
別の騎士の繰り出すひと突きを朱里は大剣の腹で防御、とその刹那ライフル弾が騎士の鎧を撃ち抜く。
「ナイス、レオン……!」
突風を巻き起こす薙ぎ払いが目の前の男を散らかす。
両断と呼ぶにはその残撃はあまりにも激し過ぎた。まともに受けて原形をとどめられるほうが難しいだろう。
時間にして数分……あっという間に制圧は完了した。
だがここからが重要だ。
専門知識のあるレオンが通信設備の調整にあたる。
「ここは私に任せてもらう。まずはこれを使えるようにする……!」
「隣りの機材はわらわに使わせてもらうぞ」
と言ったのは、ゴシックな風貌の黒尽くめ少女アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)だった。
自分(魔導書)の本体であるノートPCと機材を繋いで、設備に残った情報の収集をはじめる。
「しかし、PCならともかくこれは通信機だ。得られる情報がそうあるようには思えないが……」
「やらんよりはマシじゃろう。それに何もないわけではないぞ、ほれ見てみろ。通信記録から他の拠点の場所が割り出せた。どうやらここは森の南西部のようじゃ、数10km離れた中心部に拠点が密集しておる、ここが本拠地じゃな」
「本拠地か……、この密度だと要塞でもあるのかもしれんな」
二人が話していると、アレーティアの契約者柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が声をかけた。
「忙しいところ邪魔してすまないが、機材の中を開けさせてもらうぞ」
側面の金属板を身長に剥がし、中の配電盤を調べる。それから、爆薬を機材に設置しはじめた。
「あの、なにをされてるんです?」
「見てわからないか、設備を爆破する準備をしてるんだ」
「ば、爆破するつもりなんですか!?」
驚く衿栖だったが、真司は当然といった様子である。
「今は制圧下にあるがカーリーがここに来たら奪い返される可能性がある。ヤツの戦闘力を考えればなおさらだ」
「たしかに……その危険性はありますね」
「設備を使うなら今のうちに使ってくれ。こっちの準備にもしばらくかかるからな」
時限式の起爆装置をセットしたあと、今度は起爆用のリモートスイッチを機械の中に取り付ける。万が一にでも、こちらの脱出中に敵に使われることのないようセット後に装置に触れた場合爆破するように細工がしてある。
そのうちに通信機の調整が終わった。
「これで使えるようになった。言われたようにアガスティア付近の屋外拡声器、勝利の塔の放送設備に接続してある」
「ありがとうございます」
レオンの座っていた席に座り、衿栖は別の場所で戦う仲間、そして敵に呼びかける。
「こちら追撃隊の茅野瀬衿栖です。補給拠点は押えました。増援の心配もありません。繰り返します、こちら……」
こちらの作戦成功を伝えれば、友軍は士気が上がり敵軍は戦意を挫かれることだろう。
報告のあと二言三言付け加えて通信を終了する。
「……よし、用事は済んだな?」
「はい」
真司は仲間を見回し、爆弾の時限装置を起動させた。
「爆破準備に入った。あと10分でここは吹っ飛ぶ、ケツに火が点かないうちに急いで撤退してくれ」
そして携帯で風天に状況を伝え、ナラカでの最後となる通話を終えた。
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