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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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第三章 遊女の恋5

「黄金の天秤を持つ男……か」
 影蝋茶屋の行灯の灯る一室で、秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)は客の男と裸のまま寝そべっていた。
 客人はシャンバラから来た外国人だといった。
 ごしきという名の影蝋を買ったことがあるらしい。
「最初、その天秤を何に使うのかと思いたずねてみたら、ごしきは『時をはかっているのだ。鬼が騒ぐから』と答えた。影蝋の代金は線香の火一本でいくらというから、そのことかと思って、私は気には止めなかった」
「おぬし、なにもされなかったのか? その、無事だったつうか……」
「無事も何も。まあ、いろんな事はさせてもらったがね。面白い男だった。死人のように白かった肌が、薔薇のように赤く染まって……久々に、我を忘れたよ。マホロバの文化は他にはないものがあるな。もっと、世界に広めるべきだ」
「……どういう基準かさっぱりわからねぇな」
 パートナーのラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)から聞いたことと、この客の情報をあわせてみても、ごしきの使っている黄金天秤の意味が分からない。
 また、ごしきの客を選ぶ基準もわからない。
「闘神といったか、君も外国人だろう。しかし、出稼ぎで影蝋をやっているようにも見えないな。本当に男が好きなのだな、さきほどでもわかったよ」
 『闘神の書』はつい『さきほど』の客との行為を思い出してにやりと笑った。
「我にとってもここは極楽みてぇなトコだ。おぬしみてぇなのと毎日、こんなことができるんだからよ!」
 『闘神の書』は相手の盛り上がった僧帽筋を撫でながら、ラルクに報告する内容を考えていた。

卍卍卍


 一本松の坂の上。
 岸の向こうは、朱々と輝き始めたる東雲遊郭の明かりが見える。
 マホロバに在るこの世の極楽といわれる場所だ。
 ごしきは、丁寧に書かれた紙から視線を上げ、指を離した。
 紙は風に巻かれ飛んでいく。

貴方ほどの方が、影蝋としてあの場所で何を求め「与えて」いたのですか
貴方の求める物を知りたい

「マホロバの未来をぬりかえる……それが望み」
 彼はそうつぶやき、振り返る。
「これが返事で良いか」
 高 漸麗(がお・じえんり)は眉根を寄せ、首を振る。
「それじゃあ、手紙をだした『霞泉』は納得しないよ。覚えてるでしょう? 以前、会ったことがあると思うけど。ごしき……さん?」
 東雲からの使いだという漸麗は、ただ返事を待った。
「ごしきさんのことは、貴方に聞いたら分かるって。……正識(せしる)さん?」
「知っているか。『ごしき』という字はこう書く」
 ごしきはおもむろに背中の槍を掴んだ。
 目の見えない漸麗を後ろに向かせて、背中に槍の柄で文字を書いていく。

 一……正……言……音……識……

「正識!」
 漸麗が叫び、ごしきはかすかに笑った。
「さて、夜の大門が開く頃だな。私を呼んでいる……」
「東雲にいくの? 遊女の殺害事件もあった上に、今は、鬼城 貞康(きじょう・さだやす)を名乗るものが現れたり、龍騎士が遊女を攫ったんだよ。警備も厳しくなって、そう簡単に大門を通れないよ!」
「ならば空から入ればいい」
 正識(ごしき)は一本松の根本にうずくまってていた龍の背に乗り、ふわり上空に浮かんだ。